OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

臨床工学技士

INTERVIEWvol.010

エンジニアとしてどんな質問にも即答できる知識を持つことが命を守ることにつながる

竹内大智Daichi Takeuchi

藤田医科大学病院 臨床工学部ME管理室

臨床工学科 (現・医療検査学科)/ 2016年卒業

取材日

DESCRIPTION

病院では、数えきれないほどの医療機器が患者さんの命を支えている。人工呼吸器、生体モニタ、輸液ポンプ…。現代の医療に欠かせないこれらの医療機器を、医学と工学の知識を持って安全に動かすスペシャリストが臨床工学技士だ。 竹内さんは、藤田医科大学病院に就職して7年目になる。そんな竹内さんに仕事をする上で心掛けていることを聞くと「言葉遣いでしょうか」という意外な答えが返ってきた。病院という空間の中で、見たこともない機械に囲まれた患者さんの不安な思い。誰よりも機械に詳しいエンジニアとして、竹内さんがかける「大丈夫ですよ」の優しい一言は、患者さんに大きな安心感を与えるに違いない。

操作から保守管理まで、すべての医療機器を管理する専門家

─まずは現在のお仕事内容を教えてください。
入職してから丸5年ほど血液浄化センターで透析を担当し、1年半ほど前にME管理室に異動しました。今は、ICU(集中治療室)での透析業務を中心に、ECMO(体外式膜型人工肺)や人工呼吸器など生命維持装置の操作・管理のほか、手術支援ロボット「ダビンチ」のセットアップ、ペースメーカの埋め込み手術などにも立ち会っています。

─すごく幅広いんですね。
そうですね。それでも自分が担当しているのは全体からするとまだ一部です。ME管理室は、病院内のすべての医療機器が安全に動くように管理する部署なんです。何千とある機器類は、病棟で使い終わると必ずME管理室に戻していただいて、僕たち臨床工学技士が点検・整備を行います。不具合があれば分解して消耗したパーツの交換などして、いつでも使えるようにしておくんですよ。

─操作から保守管理まで全部ですか…。
それぞれ操作もメンテナンスの方法も違うので、確かに覚えるのがほんとに大変です (笑) 。日によって担当が変わるんですけど、例えばその日が呼吸器の担当なら、病棟で使用中の呼吸器を巡回して、ちゃんと動いているかチェックすることや、ME管理室にこもってメンテナンスを1日中やる日もあります。機械いじりが好きな人にはいいと思います。

─そんなにたくさんの機器をどうやって覚えていくんですか?
機器ごとに研修があって、そこでOKをもらいながら身につけていく感じです。学生の時に学んでいるのである程度の知識はありますが、実践となると患者さんの命に関わりますからしっかり覚えることが必要ですね。

─就職後は血液浄化センターで透析を担当されていたということですが、機器の操作をするわけですか?
病院によっても違うでしょうけど、うちでは問診から針を血管に刺して透析するところまで、薬剤の投与以外は、全部われわれ臨床工学技士が看護師と一緒にやります。
そうやってどんどん治療に関わっていくんですけど、最初は、血管に針を刺すっていうのが、ほんとに怖くて。透析の針って、直径が1.6mmぐらいなのでボールペンの芯ぐらい太いんです。患者さんは相当痛いでしょうし、とにかく緊張しました。初めて針を刺した患者さんのこと、いまだに覚えていますもん、顔も名前も。優しい患者さんで「上手に刺せたね」っておっしゃってくれて、ほっとしました(笑)。僕は患者さんに恵まれて成長できたと思っています。先輩たちもいろいろとフォローしてくれて、そういう職場の環境もありがたかったですね。

─臨床工学技士って機械に向き合っているイメージでしたが、意外と患者さんと接する機会が多いんですね。
透析はとくにそうですね。患者さんは週に3回、4~5時間透析をするわけですから、その治療を支える僕たちは、患者さんの生活の一部でもあるわけです。命をつなぐ責任は重いですが、やりがいも大きいですね。いつだったか、患者さんに「竹内くんに針刺してもらったから、今日の透析はがんばれるわ」って言われたことがあって、何げない一言だったんですけど、すごくうれしかったですね。

─ECMOも担当されているんですね。
ECMOって世間的には、コロナで肺の治療に使うイメージが強いですけど、心不全に使用される場合もあって、それぞれ機械も違うんですよ。基本的には、循環器や麻酔科の医師がホースほどの太さのチューブを患者さんの首や足の血管からつないで、臨床工学技士が機械を回して血液を循環させていきます。医師の指示の下、血液ポンプの回転数や血液量をいくつに設定するのか、酸素の量は何リットルで濃度は何パーセントなのか、僕たちがツマミを調節しながらコントロールしていくわけです。そうやってチームで治療を進めていくんですけど、ECMOを使うのは重症の患者さんなので、気が抜けないですね。

大きな病院への就職を見据えて藤田医科大学を受験

─子どものころから機械いじりが好きだったんですか?
機械というより何かを作るのが好きでしたね。レゴブロックとか、めちゃくちゃやってました(笑)。小中学生の頃は、DIYでイスを作ったりもしてましたね。

─器用なんですね。臨床工学技士をめざしたのもそういう手先の器用さを生かしたいという思いからでしょうか?
というより、医療職に興味があったんです。かっこいいっていう憧れのようなものなんですけど。大学時代はバイトで接客業をしていて、人と関わることが好きなので、病院ならやりがいがあるだろうと。それに高校では理系を選択していたし、物理も好きだったので、知識を生かせる臨床工学技士になりたいと思いました。

─診療放射線技師とか他の職種と迷いませんでしたか?
迷わなかったですね。自分なりに調べたんですけど、臨床工学技士の仕事ってほんとに多岐にわたるんですよ。いろんな治療に関われるし、医療機器の高度化・複雑化でまだまだ発展していく職種ですから。

─確かにこれからより必要とされる仕事ですよね。なぜ藤田を選んだのですか?
出身が常滑市なので、愛知県内の大学が希望でした。藤田は、祖父母が手術でお世話になっていたこともあり、身近だったというのも理由の一つです。地方の国立大学も受かってはいたんですが、県内の大学病院や総合病院で技術を磨きたいという目標を持っていたので、長い目で将来を考えた時に、藤田出身の方が有利だろうと。ただ、どの分野をやりたいとかまでは全然考えてなくて、まずは大きい病院でいろいろな業務に携わって、興味のあるものを見つけていきたいと思いました。

─いい環境で学べるということでしょうか?
隣に大学病院があるので、実習もそこでやりますし、手術支援ロボット「ダビンチ」など先進的な機器を見学させてもらえるなど、学生のうちから貴重な経験をさせてもらえます。藤田なら臨床工学技士の仕事をほぼ網羅していて、日常的な業務にも幅広く携われるので、何がやりたいのかイメージが湧きやすかったですね。

─先輩としての実感ですね。
これほど大きな大学病院を持っている大学ってなかなかないですし、実習場所との距離が近いというのは、やはり大きなメリットです。また、藤田は実際に現場で働いていた臨床工学技士の方が教員になっているので、現場のことをよく知っているし、生の声を聞くことができることも良かったですね。

─印象に残っている授業や実習ってありますか?
ご献体を解剖する実習でしょうか。僕たちの学習のためにご遺体を使わせていただくので、ありがたいという気持ちと、その分しっかり学ばなければ、と気が引き締まりました。

仲間と支え合って学んだ日々が、チーム医療に生かされる

─大学時代に一番がんばったことは?
うーん…やっぱり勉強かな。大学ってこんなに勉強するんだっていうぐらいやりました(笑)。授業の内容が国試に出ると思えば、意識も変わりますね。部活もやっていました。高校の時はラグビー部だったんですけど、大学では野球部でファーストとセカンドを。バイトもやってたので、毎日、忙しかったですね。

─学生時代の経験って、社会人になってからも生かされますよね。
部活の練習もそうですが、きつくても仲間がいたから乗り切れたって思います。国試も同じです。みんなで勉強して、みんなで合格するって、いわば団体戦ですから。分からないことがあれば、教え合って底上げしてましたね。そういう経験は、今のチーム医療に役立っていると感じます。

─ちなみに臨床工学技士は、文系出身の方もなれますか?
僕が学生の時もクラスに数人は文系の子がいましたね。物理にしても基礎からやりますし、補習もあって、わからないところは先生が教えてくれるので、文系でも臨床工学技士になりたいって気持ちがあれば、大丈夫!

─医療機器も次々に新しいものが出ています。そのためにどんな準備をしていますか?
勉強会に参加して常に新しい知識を取り入れるようにしています。最近は、Web配信が多くなったので、勉強できる機会も増えましたね。学会にも参加します。学会に行くと、新しい知識が得られることももちろんですが、他の病院さんのやり方を知って、じゃあうちはどうやった方がいいのか、ここで得た知識をどう病院に還元していくのか、刺激になります。

─就職されて7年目ということは、指導される機会も増えていくわけですよね。
普通の病院だったら人に教えることってそんなにないと思うんですけど、ここは実習生をたくさん受け入れているので、そういう機会は多いですね。教えるって難しいことですし、指導することで自分の知識を定着させることができます。僕も先輩から患者さんとの接し方や機械の操作の仕方などいろいろ教えてもらったので、それを後輩に伝えていきたいですね。

─今後のキャリアプランを教えてください。
ME管理室に異動して、まだまだ覚えることがたくさんあるので、まず今の仕事を軌道にのせること。やったことがない業務にも取り組み、仕事の幅を広げていろいろな治療に関われるスキルを身につけていきたいです。その後は、資格にも挑戦できればいいな、と思っています。

私の相棒

愛車 マツダCX-5

昔から大きい車が好きなんですよ。CX-5は、SUVなんですけど、休みの日にはこれで日本各地に出かけています。車は自分の行きたいところに行けるのがいいですね。好きな音楽をかけながら走るだけで緊張感のある日々がリフレッシュできます。通勤にも使っているので、仕事前のモチベーションアップにも役立っている気がします。あと、これは相棒とはいえないかもしれませんが、家電もめちゃくちゃ好きです。最近も引っ越しでいろいろと買い揃えました。家電量販店に行っても店員さんと、メンテナンスとか機械のパーツとか「どれぐらいで交換なの?」ってあれこれ聞いちゃいますね。取り扱い説明書をじっくり読んで、スペックや費用対効果を考えたり、そういうのも気分転換になってます。職業病ですかね(笑)。

取材中、こちらが機械について質問すると、研究発表用に撮ったというスマホの写真を見せながら「ここがこうなって、それでこうなるんですよ」と、こちらが分かるように一つ一つ丁寧に教えてくれた。手術中も医師や他の医療者から「こういう場合ってどうなの?」と機械についてアドバイスを求められることも多いという。説明が上手というのはひとつのスキルだ。「1分1秒を争う医療の現場では、聞かれたことに”調べてから答えますね”なんて言っているとそれだけ患者さんの治療が遅れてしまいます。医師や他の医療者からの質問にすぐ答えられることが命を守ることにつながりますから」。そう話す竹内さんの自信に満ちた表情に、患者さんを助けたいと思う気持ちと、エンジニアとしてのプライドが見えた気がした。