臨床検査技師
INTERVIEWvol.001
命の危機に直面する現場で、 常に「冷静さ」を失わないこと。
中村 和広Kazuhiro Nakamura
藤田医科大学病院 臨床検査部
臨床検査学科(現・医療検査学科) / 2007年卒業
- 取材日
DESCRIPTION
「僕が話せることなら何でも話しますので、遠慮なく聞いてください」 そう言って明るい笑顔で出迎えてくれたのは、臨床検査技師の中村さんだ。様々な検査機器の揃う大きな検査室の前を通りながら、「以前はこの中の生化学部門で働いていたんですよ」と教えてくれる。 今年で勤務12年目の彼は、今は24時間体制の救急の現場で働いている。同じ臨床検査技師の仕事でも、働く場所が異なればまったく違う世界のように感じるのだと言う。 「以前は職人として検査のスキルを磨くという感じでしたが、今は24時間チーム医療体制なので、他職種との連携の大切さを痛感しています」 取材中、中村さんは「検査のプロ」という言葉を何度か使った。その言葉には、チームの中で臨床検査技師の役割、そして責任の重さを自分に言い聞かせるような、そんな響きがあった。
院内における検査のプロフェッショナル
ー中村さんは、普段どんなお仕事をされているのですか?
救命救急センターで臨床検査技師として働いています。内容を簡単に説明すると、患者さんの検体を検査して、分析して、その結果を医師に届けるという仕事ですね。
検査と一言で言っても、採血をして血液を分析したり、心電図をとったり、超音波検査をしたり、感染症や微生物の同定をしたり、輸血のための適合検査を行ったりと、患者さんに応じていろんな検査があるんですよ。臨床検査技師は病院内における、それらの検査のプロフェッショナルという役割ですね。僕は、救命救急センター内で主に超音波検査を担当しながら血液分析や心電図検査なども行っています。
ー「検査のプロ」ということなんですね。
はい。もう少し詳しく言うと、検査前の段階から僕たちの仕事はあります。検査機器の準備・管理がそのひとつですね。きちんとした検査結果を出すためのメンテナンスも、僕たちがやっています。
それから、患者さんに対して検査前にしっかり説明を行うという仕事もあります。医師の代わりとなり、検査のプロとして、より詳しくわかりやすい説明をして不安をなくしてもらう。それらも大事な仕事ですね。
ーこの仕事を目指し始めたのはいつ頃ですか?
高校2年くらいから、医療の仕事に興味を持ち始めました。兄が医療系の仕事をしていたので、その影響もあるかもしれません。それともうひとつ、何かしっかりとした資格をとりたいと考えていたんですよね。それで「医療っていいかもな」と。最初はそういうふわっとした気持ちでしたね。
ーその中でも「臨床検査技師になろう」と思ったのはなぜだったんでしょう?
正直に言うと、本当は医師になりたかったんですよ。だけどやはりレベルが高くて、自分の学力では難しかったんですよね。
じゃあ自分ができることって一体何だろう、医療の現場では他にどんな仕事があるのだろうと探したときに、臨床検査技師という仕事に目が留まったんです。未知のものを分析して、自分が出した結果が患者さんのためになる。そんなふうに、医療現場や患者さんを支える方法もあるのかと。それで、臨床検査技師を目指すようになりました。
チーム医療の基礎は、サッカー部で学んだ
ー大学で、夢を叶えるために頑張ったことって何でしょう?
もちろん、勉強はしっかり頑張りました。それは当然のこととして、勉強以外では部活動に力を注いでいましたね。僕はサッカー部に所属していたんですけど、部活に行くと、他の学科の、他の職種を目指す学生がいっぱいいたんです。そこで仲間と過ごすうちに、「ここでの時間は、絶対に将来に生きるな」と思いました。他職種の人とのつながりを、そこで持つことができたんです。
ー違う学科の人とのコミュニケーションがすでにとれていたんですね。
はい。同じ医療系でも、学科や目指す職種が違うと、学ぶことも文化もまったく違うんですよ。そのことを学生の内から理解しておかないと、働き出してから壁ができてしまいそうに感じていました。だから、今の内に少しでも触れて交流をしておこうというのは意識していましたね。
ー今の仕事で、やはりそれは役立っていると感じますか?
そうですね。今の現場はまさにチーム医療で成り立っているので、他職種の方と連携しないといけない場面はたくさんあります。そういうときに、互いの職種の違いを認めながらも、きちんとコミュニケーションがとれる。その力は、学生時代から培われているように思います。
自分のやったことが反映されて誰かのためになる
ー臨床検査技師の仕事で、一番やりがいに感じることは何ですか?
僕の実施した検査結果が、医師の診断や治療方針に反映影響されて、患者さんのためになる。「自分のやったことがしっかりと反映されて誰かのためになる」というのが、一番のやりがいですね。
ーなるほど。だけどそれは同時に、とても重たい責任を伴うということでもありますね。
はい、まさにおっしゃる通りで、プレッシャーはめちゃくちゃ大きいです。逆に言えばそれは、自分の出した結果次第で取り返しのつかない事態を招いてしまう可能性があるということでもあります。例えば、もし自分が行った検査で見つけなくてはいけなかった病変を見つけられなかったときに、「何もなかった」という認識で治療方針が決まってしまう。すると、治療に大変な遅れをとってしまう可能性があります。もちろん実際はそうならないよう、先輩技師と連携したり、医師とディスカッションしたりと、カバーできる体制は整えられています。それでもプレッシャーはすごいですし、日々いろんなことにアンテナを張っています。間違いは絶対に起こしてはいけないという緊張感を、いつも強く持っていますね。
ー常に、「この結果は正しいのか?」と問い続けているんですね。
その通りです。僕たちが提出する検査結果次第で、治療の道筋が決まると言っても過言ではないので。だからこそ、やりがいのある仕事でもあるんですよね。
ーでは、そんなお仕事をされるなかで、もっとも大事にしていることは何でしょう?
いっぱいあるんですけど……一番はやはり「冷静さ」でしょうか。
医師や看護師って、患者さんと最も近く接する仕事だと思うんですね。苦しんでいるときもずっとそばにいて、命と向かい合っている。だからこそ、僕らは常にそこから一歩引いた場所にいないといけない。そして常に冷静に、医師や看護師にアドバイスをしたり、コミュニケーションをとったりしないといけないと思っています。
今僕は救急の現場で働いているので、特にそう思いますね。医師や看護師がヒートアップしているときに、僕らまでヒートアップしてしまうと、大変なことになってしまうので。
だからこそ、どんな状況にあっても常に冷静さを失わず自分は自分の役割をまっとうしようとより思うようになりました。
ー本当に、常に冷静さと正確さを要求されるお仕事なのだということがよくわかりました。最後に、そんな中村さんから、受験生にアドバイスをお願いします。
最低限の勉強はもちろん必要で、しっかりとやっておかなくちゃいけない。でもその一方で、遊ぶときにはとことん遊んでおいたほうがいいよって思っています。遊んだ経験もその先に必ず生きるので。僕の場合は、サッカーがそうでした。そこで仲間と練習したり、ご飯食べたり、遊びに行ったりするうちに、勉強では学べない大事なことを身につけました。それはあとになってからわかることでもあるので、勉強も大事にしながら、色んな経験を積んでくださいね。
私の相棒
超音波診断装置(エコー)
患者さんの体にプローブ(探触子)を当てると、そこから超音波が出て、体内の臓器などに当たって跳ね返ってきます。その送信と受信の関係性から、リアルタイムで体内の臓器の状態や血液の流れ、腫瘍の有無などがわかるという装置機械です。 このエコー検査は、僕らのスキルで検査結果を左右してしまうこともあるんです。自分が装置を操って、正しい検査結果を導き出していく。まさにプロの技を必要とするものです。完璧に使いこなすまでには長い時間がかかるし、それまではとにかく練習あるのみ。今では一番よく使う装置で、「自分の右腕」みたいになっていますね。
今働いている救急の現場では、医師の指示が急に飛び込んできたりして、臨機応変な対応も必要とされるのだそうだ。「大変な時はありますけど、医師も自分も、すべては患者さんのために動いているのだと思うと頑張れますね」そう言って、中村さんは笑う。
やるべきことは、もちろん通常業務だけではない。新しい検査機器、アップデートされる検査方法。「医療はどんどん進化していくので、それに追いつくためには毎日勉強が欠かせません」
臨床検査のプロとして技術を磨き、そしてその技術を患者さんやチームに貢献するために使う。決して間違いの許されない環境の中、プレッシャーに負けないで冷静でいられるのは、その「プロ」としての自覚と努力が、彼を支えているからなのだろう。