作業療法士
INTERVIEWvol.009
患者さんの未来を一緒に考え、相談してもらえる存在に。
鈴木 卓弥TAKUYA SUZUKI
藤田医科大学病院 回復期リハビリテーション病棟勤務
リハビリテーション学科 作業療法専攻/2012年卒業
- 取材日
DESCRIPTION
小学生の頃の夢は?──そう聞かれてすぐに答えられる人はどれぐらいいるだろうか。今回紹介する鈴木さんは、小学5年生の時からずっと「リハビリの先生になること」を目標にしてきた。つらい思いをしている人に寄り添い、支えていきたい。そして、強い意志で夢を叶えた。 やわらかな陽光が差し込む午後の作業療法室。「夢への迷いはなかったんですか?」と聞くと、鈴木さんは治療に使う道具を片付けながら、「目標に向かって進んでいくのが好きなのかな」、そう言って微笑んだ。忙しい仕事だが、休日も研修会やセミナーなどに参加し、常に勉強を欠かさない。それは自分のためだけでなく、患者さんのためでもある。作業療法士になって10年目、鈴木さんはもう次の夢に向かって歩き始めている。
その人らしい生活を取り戻すために心身をサポートする
─まずは、現在のお仕事について教えてください。
病気やけがの状態が安定された患者さんや生まれながらに障害がある方に、その人らしい日常生活が送れるように治療計画を立て、機能の改善に向けた作業療法を行っています。患者さんは、6割ぐらいが脳卒中で、大腿骨骨折や脊髄損傷の方も多いですね。
─突然、体が不自由になった患者さんのショックは相当なものだと思いますが…。
麻痺が残ってしまったときに、そこから前を向くのって難しいし、だからこそ自分たちが今後のことを一緒に考え、相談できる存在になりたい。同じ気持ちになることはできなくても、大きいスプーンみたいな感じで、患者さんのつらい思いを少しでも汲み取れたら、と思っています。
─メンタルケアも大切な仕事なんですね。ちなみに理学療法との違いを教えていただけますか。
理学療法は、歩く、立つなどの基本動作の改善が目的ですが、作業療法は歩いたその先、歩いて何がしたいのかっていうのが大切なんです。食事をする、着替える、家事をする、仕事をするなど、細かい作業が伴う応用の動作というと分かりやすいでしょうか。中でも患者さんがよくおっしゃるのが、「ひとりでトイレに行けるようになりたい」ということ。看護師さんや家族が付き添っても、人がいる中でっていうのは抵抗があるものですし…。とくに自宅へ戻られる方には、ズボンの上げ下ろしなどトイレ動作につながるような練習、人間の尊厳に関わる部分を先にやるようにしています。
─なるほど、患者さんの希望に合わせることが大切なんですね。その中でとくに心掛けていることってありますか?
やはりコミュニケーション、信頼関係ですね。コミュニケーションがうまくいかないと、ぼくらが患者さんにやってほしいことと、患者さんがぼくたちに望むことが違ってきてしまいます。それは会話だけでなく普段からのちょっとした行動、例えばお部屋に送った際に、ナースコールが手の届く位置にあるのか、布団は自分でかけられる位置にあるのか、テレビは見やすい向きになっているのかなど、そういう目配り・気配りも信頼関係につながると思います。
─患者さんと接する中でやりがいを感じるのはどういう時ですか?
いろいろあるんですけど、お手紙をいただいたり、退院する時に「先生にやってもらって良かったよ」と声を掛けていただいた時ですね。「ありがとう」と言ってもらうだけで、かなりのエネルギーになります。一方で、そういう方々に本当に100%のリハビリが提供できたのかと、いつも自問自答していますね。
入院で出会ったリハビリの先生のようになりたい
─作業療法士をめざしたのは何かきっかけがあるんでしょうか?
左脚の大腿骨がうまく成長しなくて、小学校5年生の時に大腿骨の骨延長手術を受け、その時に初めてリハビリをしました。最初は、車いすだったのが、平行棒で立つ練習、松葉杖で歩く練習を経て、徐々に歩けるようになって…。担当してくれたリハビリの先生は、同じような病気の子と一緒にリハビリを頑張れるように仲間づくりをしてくれたり、いろいろと支えてくれました。そんな先生のように患者さんに寄り添い、人を助ける仕事がしたいと思ったんです。
─いい先生ですね。その先生の顔を覚えていますか?
覚えていますね。小学校を卒業した時に、リハビリの仕事に就きたいって、先生に手紙を書いたんですよ。どういう資格をとればいいのか、どういう勉強をすればいいのかって。返事? 来ましたよ。うれしかったですね。
─病気をしたことで夢ができたわけですね。
入院した時にはもう決めてました。小学校6年生の卒業文集にも「夢はリハビリの先生になること!」って書いたぐらいですから(笑)。自分も入院・手術を経験したので、患者さんの気持ちが少しは分かるかなと思って、そこから迷いなく、一直線でしたね。
就職後に役立った学生時代の豊富な実習経験
─ご出身は静岡ということですが、県外の藤田医科大学に進学を決めたのはどうしてですか?
当時は、インターネットも今ほど普及していないし、進学先を探すのに苦労しました。そんな時、藤田医科大学のオープンキャンパスに参加したんです。手工芸や福祉用具の展示を見て、作業療法士という仕事のイメージが具体的になりました。より高みをめざしたいという思いもあって、ここなら大学病院が併設されているから実習も手厚いだろうし、専門的なことが学べると思い入学しました。
─大学病院が決め手になったわけですね。実際に入ってみてどうでした?
振り返るとかなり大変でしたけど、よかったですね。実習時間が他校の2倍ぐらいあるし、患者さんと関わる時間も豊富なので、就職してから戦力になるまでの時間が早いというか。あとは大学では珍しいと思うんですけど担任の先生がいるので、困ったら勉強を教えてもらったり、相談したりもでき、サポートが手厚いことも大きいですね。
─とくに心に残っている授業ってありますか?
2年生の実習ですね。初めて患者さんと関わるんですが、20そこそこの学生が70、80代の方と接する機会ってほとんどないから会話も続かなくて、大変でした。そんな中、先生から言われた「患者さんを自分の親だと思ったときにどうしたいか、親だと思ってリハビリをしなさい」っていう言葉が心に残っていますね。とても重たい言葉ですし、今でも考えさせられます。
─確かに、いい教えですね。今はもう苦手意識が克服できましたか?
いざ就職してみると責任感が生まれるのか、うまく患者さんと話せるようになりました。患者さんを良くしたいという気持ちがあるので、そのためにどんな話をすればいいのか考え、成長したのかもしれませんね。今は患者さんと話すことが一番楽しいです。
研究にも挑戦できる恵まれた環境の中で
─卒業後は、そのまま藤田医科大学病院に就職されたんでしょうか?
はい。最先端の医療技術を学べるし、臨床だけでなく研究ができるという点が魅力でした。
─研究にも取り組まれているんですね。
今、頑張って論文を書いています。脳卒中の患者さんの麻痺した腕の動きをカメラで解析して細かい動きを見る研究や、活動量をモニタリングする研究なんですが、ここは論文を出している先生が身近にたくさんいるので、すぐ相談したり、教えてもらったりすることができます。スキルアップをめざす人にはいい環境だと思いますね。
─休日はどうしているんですか?
そうですね…勉強会やセミナーに行ったり、図書館で調べ物をすることが多いですね。最近はロボットによるリハビリが広がっているので、使い方の研修を受けたりすることもあります。そういう知識を得るのが好きなんですよね。とくに藤田医科大学はロボットリハビリでは日本でもトップレベルですし、10年前とは作業療法のやり方も違うので、常にアップデートしていかないと。一生、勉強です(笑)。
─理学療法士と作業療法士、どらちをめざそうか迷っている学生にアドバイスを!
うーん、むずかしい…(笑)。確かに迷う人が多いかもしれないですね。自分は外に出るよりは、絵を描いたり、パソコンでホームページを作ったり、細かい作業が好きだったというのもあって、この道を選びました。理学療法士も作業療法士も患者さんの回復が目に見え、自分のことのように喜べるところは同じなので、適性に合わせてじっくり考えてほしいですね。
─これからますます作業療法士の活躍の場が広がりそうですね。
作業療法士って「社会をつなぐ接点」になれる仕事だと思うんです。病院だけでなく、保健所だったり介護施設だったり、いろんな場所・場面での活躍が可能です。最近では住宅メーカーに就職する人もいるようです。「生活を見る」という仕事なので、リハビリだけではなく、家の構造を含めて考えたり、社会的な予防に取り組んだりとか、そういう多様性があるところにもやりがいを感じます。
─今後の目標を教えてください。
今は認定作業療法士の資格取得に向けて勉強中です。いずれは、その上の専門作業療法士も考えています。教えるのが嫌いじゃないので教員への道も含めて、まずは上の資格をとること。それが次の夢であり、目標ですね。
私の相棒
作業療法に使う治療道具
腕や手に障害がある人が、細かい作業ができるようになるための道具です。大きいものから細かいもの、角ばっているものから丸いものまで、いろいろな形があるんですよ。治療の道具だけではなく、ボタンの掛け外しが楽になる道具など、ここにないものでも患者さんに良さそうだな、と思えばホームセンターや100均で材料探して自分で作ったりすることもあります。作業療法士って100均が大好きなんですよ(笑)。リハビリって難しすぎてもいやになってしまうし、簡単すぎても飽きてしまいます。患者さん一人ひとりの目的に合わせて、難易度をうまく調整できるのが、作業療法のスペシャリストだと思います。
終始笑顔で一つひとつの質問に丁寧に答えてくれた鈴木さん。穏やかで優しい口調、相手の話に真剣に耳を傾ける姿勢に、誠実な人柄と仕事ぶりがうかがえた。
「リハビリを経験した人って、そのことをずっと覚えているんですよ。人生に残っていくからこそ、この人とやってよかったと思ってもらえるような精一杯のリハビリを提供したい」。インタビューの最後に鈴木さんはこう言った。かつて自分がリハビリの先生の背中を追いかけたように、今度は自分が患者さんの支えになる。「頼れるリハビリの先生」として。