藤田医科大学医学部生化学講座
大学11号館5階


 

がん幹細胞

がん組織は、悪性細胞と正常細胞が混在して出来る複雑な組織です。さらにその悪性細胞集団の中にも、性質の異なるいろいろながん細胞があります(がんの不均一性)。2003年に提唱された「がん幹細胞理論」は、がんの不均一性を考える新たな理論です。 この理論では、がん組織に「がん幹細胞」が存在することを想定し、がん幹細胞が分裂の過程で異なる性質をもつがん細胞を生み出しがん組織を作ることが、がんの不均一性の一つの要因となると考えています。 現時点では、がん組織中にある細胞で、移植実験により特に高い腫瘍形成能をもち、かつ実際のがん患者腫瘍のがんの不均一性を再現可能ながん細胞集団を「がん幹細胞」と定義しています(Lobo NA et al. Annu. Rev. Cell. Dev. Biol., 2007; Shimono Y et al. JCM, 2016; Mukohyama J et al. Cancers, 2017)。 同様に「幹細胞」が組織構築の維持に関わる仕組みは、皮膚や腸管などの上皮組織や血液などで認められます。 わたくしたちはマイクロRNAなどによるエピジェネティックな制御機構を明らかにすることで、がん幹細胞の特徴を明らかにしてきました (Shimono Y et al. Cell, 2009; Isobe T et al. eLife, 2014; Sakaguchi M et al Mol. Cancer Res., 2016; Mukohyama J et al.Cancer Research, 2019)。さらにがん幹細胞の維持機構が正常組織の組織幹細胞とも共通していることを明らかにしてきました。がん治療に最後まで抵抗する細胞の一つと考えられるがん幹細胞の研究を通じて、私たちはがん組織の成り立ちを考えるとともに、より効果的ながん治療法を開発することを目指します。

転移がん幹細胞

がん転移は、ランダムに起こるのではなく特定の臓器に指向性をもって起こります(Pagetの「種と土」理論)。さらに、近年の研究で転移病巣を作る元となる「種」は、がん組織形成の根源にあるとされる「がん幹細胞」の性質をもつことが分かりました。がん幹細胞(「種」)が転移臓器の環境(「土」)に適応して定着する転移の初期過程は、種が「芽」を出す段階に相当すると考えられます(図、がん転移の芽)。そこで私たちは、がん転移の超早期段階にある転移がん幹細胞を解析し、がん幹細胞の転移に関わる一連の遺伝子群を同定しました (Liu H et al. PNAS, 2010; Nobutani K et al. PLoS One, 2015)。 がん治療は大きく進歩しましたが、転移がんに対しては有効な治療法が確立していません。私たちは、スタンフォード大学のClarke教授のもとで学んだ「がん幹細胞」に関する知見を活用して、がん転移の超早期メカニズムを解明して「転移がん幹細胞」をその芽の段階で摘む方法を見出すことを目指して研究をしています。

リンク

ページのトップへ戻る