プレスリリース

純度良く細胞を分離回収できる「1細胞分取装置」を開発しました~血液中のがん細胞を生きたまま採取するとともに 遺伝子解析、培養を可能に~

「知の拠点あいち重点研究プロジェクトⅣ期」

1細胞分取装置

愛知県と公益財団法人科学技術交流財団(豊田市)では、産学行政連携のプロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクト※1Ⅳ期」を2022年度から実施しています。
この度、「プロジェクトSDGs※2」の研究テーマ「血中循環腫瘍細胞からがんオルガノイド※3樹立が可能な1細胞分取装置の開発※4」において、名古屋大学発ベンチャーであるメドリッジ株式会社(名古屋市中区)の益田泰輔代表取締役、藤田医科大学腫瘍医学研究センター(豊明市)の佐谷秀行センター長などの研究チームは、血中循環腫瘍細胞※5(CTC:Circular(サーキュラー) Tumor(トゥモール) Cell(セル))を血液から純度良く生きたまま直接採取可能な装置を開発しました。本装置は、目的とするCTCを狙って採取できるほか、酵素、バクテリアの混入を徹底的に排除し、生きたままCTCを得ることが可能となりました。現在、藤田医科大学では、CTCからがんオルガノイド形成(細胞培養)するという世界初の実証を目指して実験を継続しており、今後、医療機関や分析機関において本装置を利用することで、病期に応じたがん治療薬の選定や、再発の早期発見といったがん治療への貢献、がん研究の進展が期待されます。
2025年2月7日(金)、8日(土)に開催される、第9回Liquid(リキッド) Biopsy(バイオプシー)※6 研究会(京王プラザホテル:東京都新宿区)において、本装置の展示及び藤田医科大学の清島亮(せいしまりょう)講師によるオルガノイドに関する講演が行われる予定です。また、今春より、メドリッジ株式会社においてCTC採取の受託検査サービスが開始される予定です。

1 開発の背景

従来、がんの検査である生体検査は、がん部分から細胞を切り取る手法であり、患者の負担が大きい、繰り返しの継続検査が困難といった課題がありました。そこで、患者の負担を減らすため、血液中に流れるCTC、miRNA※7等を捕捉してその分析を行うことで、がんの早期診断・治療に応用していくLiquid Biopsyという診断法の需要が高まっています。
一方で、患者由来のがんオルガノイドは、がんの体外培養とも言え、薬効試験における活用が期待されています。CTCからのがんオルガノイド形成に成功すれば、体外でリアルタイムに身体の中のがんを反映でき、がん研究の進展に貢献する夢の技術です。しかしながら、CTCは血液中にわずかしか含まれておらず、生きたままの採取及びがんオルガノイド形成は難しいとされてきました。
本研究テーマでは、採取したCTCからのがんオルガノイドの形成を目標とし、メドリッジ株式会社、藤田医科大学をはじめとする医工連携の研究チームにより、1細胞分取装置の開発と、さらに血液から採取したCTCからのがんオルガノイド形成に取り組みました。

2 1細胞分取装置による血液からのCTC回収及びがんオルガノイド形成

CTCからのオルガノイド形成は困難とされています。これは、CTC自体がもともと血液中でも消滅しやすく、いわゆる生きのいいCTCを採取することが困難であることがその理由の一つです。本プロジェクトで開発した1細胞分取装置は、血液をそのままマイクロ流体チップ上に流して、その後ピペットで吸い取るもので、CTCへの影響が少ない技術を新たに開発しました(図1)。
 

また、本プロジェクトでは、がんオルガノイドの形成に向け多くの研究を重ね、CTC回収時の酵素がCTCを分解すること、バクテリアの混入がオルガノイド形成を阻害すること等を明らかにしてきました。
そこで、装置面ではCTCの寿命保持のための冷却装置(ペルチェ冷却)の導入、滅菌用紫外線照射装置の導入、ピエゾ/シリンジハイブリッドポンプ※8を用いた採取量の微少化等の改良を行いました。さらに、新たに搭載した接触センサにより細胞とピペット先端のポジショニングの自動化等の改良を行いました(図2)。



図2 開発品の特徴的な構成

近年、遺伝子解析の手法としてRNAシークエンス※9が注目を集めており、薬物耐性と感受性に関与する遺伝子の同定、薬物毒性の評価等に用いられています。がんは進行に従ってDNAも変化していくため、がん患者のCTCも変化していくと考えられます。抗がん剤は、同じがんであっても複数の種類が開発されており、本装置により採取したCTCを活用することで、どの薬が有効かを早期に判断することへの貢献が期待されます。
藤田医科大学では、治療薬選定、創薬、がん発生メカニズムの解明等につなげるため、がん転移マウスからのCTC採取及びオルガノイド形成の検証を行っています。さらに、同大学倫理委員会の承認を得て、実際のがん患者の血液からのCTC採取及びがんオルガノイド形成についても検証を行っています。
 

3 期待される成果と今後の展開

本装置により、病期に応じたがん治療薬の選定、がん再発の早期発見が期待されるほか、メドリッジ株式会社では、1細胞分取技術を応用したサービスとして、①血液中CTCの1細胞分取及びその分析受託サービス、②1細胞分取装置の販売・リース、③1細胞分取装置用消耗品(マイクロ流体チップ、採取用ガラスピペット、チューブ、試薬等)の販売等を、医療機関、検査機関、研究機関、製薬企業等に向けて今春を目途に展開する計画です。また、がんオルガノイドの研究は、藤田医科大学腫瘍医学研究センターにおいて引き続き実施し、基礎研究、臨床応用へとつなげていきます。 

4 Liquid Biopsy研究会での展示及び講演

2025年2月7日(金)、8日(土)に開催される第9回Liquid Biopsy研究会において、本装置の展示及び藤田医科大学の清島亮講師によるオルガノイド形成に関する講演が行われる予定です。

(1)名称
第9回Liquid Biopsy研究会
(2)会期
2025年2月7日(金)及び2月8日(土)の2日間
(3)テーマ
体液による新たな個別化がん医療とそれを越えた応用
(4)場所
京王プラザホテル(〒160-8330 東京都新宿区西新宿2-2-1)

問合せ先
電話番号:0422-47-5511 (Liquid Biopsy研究会事務局:杏林大学医学部泌尿器科学) 

5 社会・県内産業・県民への貢献

社会への貢献 病期に応じた薬剤スクリーニングのほか、創薬、がん発生メカニズムの解明といった腫瘍医学を中心とする研究の進展に貢献します。
県内産業への貢献 がん診断に係る新規装置技術開発により、医療機器、医療サービス、医薬品産業を始め、がん治療に関連する幅広い産業の発展に貢献します。
県民への貢献 医療機関における活用により、県民へのがん診断・治療、健康長寿に貢献します。
 

用語説明

※1 知の拠点あいち重点研究プロジェクト

高付加価値のモノづくりを支援する研究開発拠点「知の拠点あいち」を中核に実施している産学行政の共同研究開発プロジェクト。2011年度から2015年度まで「重点研究プロジェクトⅠ期」、2016年度から2018年度まで「重点研究プロジェクトⅡ期」、2019年度から2021年度まで「重点研究プロジェクトⅢ期」を実施し、2022年8月から「重点研究プロジェクトⅣ期」を実施しています。

「重点研究プロジェクトⅣ期」の概要
実施期間 2022年度から2024年度まで
参画機関 16大学 7研究開発機関等 88社(うち中小企業59社)
(2024年12月時点)
プロジェクト名 ・プロジェクトCore Industry
・プロジェクトDX
プロジェクトSDGs

※2 プロジェクトSDGs

概要 SDGs 達成に向けた脱炭素社会・安心安全社会の実現と社会的課題の解決に資する技術開発に取り組みます。
研究テーマ 【分野】カーボンニュートラル 
① 地域の資源循環を支える次世代の小規模普及型メタン発酵システム
② インフォマティクスによる革新的炭素循環システムの開発
【分野】感染症対策・ライフサイエンス
③ 健康と食の安全・安心を守る多項目遺伝子自動検査装置の開発
④ 多感覚ICTを用いたフレイル予防・回復支援システムの研究開発
⑤ 管法則に基づく血管のしなやかさの測定システムの開発
⑥ 安心長寿社会に資する認知情動を見守り支える住まいシステム開発
【分野】災害対策・自然利用・複合分野
⑦ 地域CNに貢献する植物生体情報活用型セミクローズド温室の開発
⑧ 全固体フッ化物電池の開発とその評価技術の標準化
⑨ 血中循環腫瘍細胞からがんオルガノイド樹立が可能な1細胞分取装置の開発
参画機関 9大学4研究開発機関等26企業(うち中小企業19社)
(2024年12月時点)

※3 がんオルガノイド

オルガノイドは、試験管で3次元的につくられたミニ臓器ともいわれ、がん由来のオルガノイドを使うことにより、次世代のがんの基礎研究、創薬、個別化医療が期待されています。一方、血液中のCTC由来のオルガノイドはまだなく、本プロジェクトにより、患者ごとに低侵襲でがんオルガノイドの形成が可能となります。

※4 血中循環腫瘍細胞からがんオルガノイド樹立が可能な1細胞分取装置の開発

概要 血液中の疾患由来の遊離物を解析するLiquid Biopsyは、患者への負担が少ないことからがんの診断・治療・治療薬開発への応用が進んでいます。採取したCTCからのがんオルガノイド形成は低侵襲で病期に応じたがん診断、治療に有用です。
本研究では、①CTCを生きたまま逃さず捕捉できる1細胞分取装置の開発、②がんオルガノイド形成技術を目標とします。
研究リーダー メドリッジ株式会社 代表取締役社長 益田 泰輔 氏
事業化リーダー メドリッジ株式会社 代表取締役社長 益田 泰輔 氏
参加機関
(五十音順)
〔企業〕
メドリッジ株式会社(名古屋市中区)
〔大学〕
藤田医科大学(豊明市)

※5 血中循環腫瘍細胞(CTC:Circular Tumor Cell)

がん組織のがん細胞同士を接着させている接着因子が異常を起こして、がん組織から血管中に漏れ出た細胞のことです。転移の原因の一つであると考えられており、原発巣の摘出後の予後予測や治療効果の確認などにCTCの検出が期待されています。

※6 Liquid Biopsy

血液や体液中の疾患由来の遊離物質を解析する方法。がんの診断・治療・治療薬開発への応用が近年進んでいます。CTC、miRNAの検査はまさにその手法の一環です。

※7 miRNA(マイクロRNA)

微少なRNAであり、遺伝子の発現を調節します。血液中のmiRNAの検査によりがんの発症リスク診断、早期発見への貢献が期待されています。

※8 ピエゾ/シリンジハイブリッドポンプ

通常のシリンジポンプに、微少量の送液が可能なピエゾポンプをハイブリッド化し、より精密な駆動を可能にしたポンプ。

※9 RNAシークエンス

RNAの配列を解析する手法。技術の進展により、配列の網羅的な解析が可能となっています。