プレスリリース

膵頭十二指腸切除術後の腸内細菌叢の変化と 脂肪肝リスクの関連性を解明

プレバイオティクスを用いた腸内環境の改善が新たな治療戦略へ~ 

藤田医科大学(愛知県豊明市)総合消化器外科学 須田康一教授、消化器内科学兼医科プレ・プロバイオティクス講座 廣岡芳樹教授らの研究グループは、膵がん患者の膵頭十二指腸切除術(PD)※1における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)※2の発症に対する腸内環境の影響を調べる研究を行いました。その結果、PDを受けた患者の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)※3の変化が、術後に脂肪肝(NAFLD)を引き起こす可能性が示唆されました。この研究は、術後の代謝合併症予防に腸内細菌叢への介入が有望であることを示唆するものであり、消化器系手術を受けた患者の治療法に新たな可能性を提供するものです。本研究成果は、膵臓研究に関する国際科学ジャーナル「Pancreatology」の2024年10月3日(オンライン版)に公開されました 。
PMID: 39419749

研究成果のポイント

  • PD術後に特定の腸内細菌(特に胆汁酸や脂肪代謝に関わる菌)が減少し、消化機能の低下とともに腸内環境が変化することが確認されました。
  • 一部の患者では腸内細菌叢の変化により脂肪肝を発症し、特にBacteroides属やFirmicutesの減少が脂肪蓄積と関連することが示唆されました。
  • これらの菌の減少が代謝に悪影響を与え、脂肪肝などのリスクが高まる可能性があると考えられます。
 

背景

膵頭十二指腸切除術(PD)は、膵臓がんや慢性膵炎などの治療に使用される大規模な手術で、消化器官の構造が大きく変わり、消化機能が低下します。手術後、胆汁酸や脂肪の代謝に関連する腸内細菌が減少し、腸内細菌叢のバランスが変化することで、脂肪肝の発症リスクが高まる可能性が指摘されていました。この研究は、PD術後の腸内細菌叢の長期的な変化と脂肪肝との関連を明らかにすることを目的としています。
 

研究方法

本研究は、膵頭十二指腸切除術を受けた患者を対象とし、術後の腸内細菌叢の変化と脂肪肝の発症リスクの関連性を分析しました。対象患者の腸内細菌は16S rRNAシーケンシングで解析し、術後経過に伴う菌の変化を追跡しました。また、脂肪肝発症は血液検査および画像検査を通じて評価され、特定の腸内細菌(例:Bacteroides属やFirmicutes)の減少が脂肪肝とどのように関係するかを分析しました。

 

今後の展開

本研究は腸内細菌をターゲットとした新しい治療法の可能性を示唆しており、術後の脂肪肝や代謝合併症のリスク軽減につながると期待されています。次のステップとして、大規模な追跡研究を通じて、腸内細菌の改善がどの程度脂肪肝リスクを軽減するかを検証する予定です。これにより、腸内細菌叢の改善が術後の合併症予防に役立つ新たな治療戦略の基盤となる可能性があります。
 

用語解説

※1 膵頭十二指腸切除術(PD)

膵頭部、十二指腸、胆管、胆嚢の一部を切除する手術で、膵臓がんや消化器疾患の治療に用いられる。

※2 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

アルコールの摂取によらず肝臓に脂肪が蓄積する状態で、進行すると肝硬変や肝がんのリスクがある。

※3 腸内細菌叢(マイクロバイオーム)

消化器系を含む体内に存在する細菌の集まりで、代謝や免疫に重要な役割を果たす。

 

文献情報

論文タイトル

Alterations in the gut microbiota in patients with long-term follow-up after pancreaticoduodenectomy and their association with postoperative fatty liver: A pilot study

著  者

内田雄一郎, 藤井匡2,3,4 , 高橋秀明2,3,4 , 中岡和徳, 舩坂好平, 大野栄三郎, 廣岡芳樹2,3,4 , 髙原武志, 須田康一, 栃尾巧2,3,4

所  属

1 藤田医科大学 医学部 総合消化器外科学
2 藤田医科大学 医学部 消化器内科学 
3 藤田医科大学 医学部 医科プレ・プロバイオティクス講座
4 株式会社バイオシスラボ

掲載誌

Pancreatology

掲載日

2024 Oct 3:S1424-3903(24)00755-5 (オンライン版) 

DOI