プレスリリース

完全な弱毒生ヒトロタウイルスRotarixⓇ株の
人工合成に世界で初めて成功

藤田医科大学医学部 ウイルス学の福田佐織特別研究員、河本聡志准教授、村田貴之教授らの研究グループは、当研究室が独自に開発した高効率な遺伝子操作系[注1](11-プラスミドシステム[注2])を適用することで、完全な弱毒生ヒトロタウイルスRotarix®株の人工合成に世界で初めて成功しました。
本研究成果により、弱毒生ヒトロタウイルスワクチン株の弱毒化メカニズムを明らかにすることが可能となり、「より安全性に優れた次世代ワクチンの創出」につながると期待されます。

本研究成果は、国際誌「Viruses」の2024年7月25日(オンライン版)に公開されました。
論文URL :  https://doi.org/10.3390/v16081198

研究成果のポイント

  • 次世代シーケンシング(MiSeq)により、弱毒生ヒトロタウイルスワクチンRotarix®の全ゲノム塩基配列を決定しました
  • 当研究室が独自に開発した高効率な遺伝子操作系(11-プラスミドシステム)を適用することで、ロタウイルスゲノムをコードするcDNAのみから 感染性を有する組換えRotarix株の人工合成に世界で初めて成功しました  
  • いまだその詳細が一切不明なワクチンRotarix®株の弱毒化メカニズムが解明できる基盤技術となります
  • 安全性が担保された腸管ベクター開発にもつながると期待されます
 

背 景

ロタウイルス[注3]は発展途上国を中心に年間12万人以上の乳幼児死亡の原因となっている嘔吐下痢症の病原体です。近年、弱毒生ヒトロタウイルスワクチンが導入されたことで、重症ロタウイルス胃腸炎の報告数は世界規模で大きく減少し、その高い有効率が認められていますが、弱毒生ロタウイルスワクチンRotarix®株の弱毒化メカニズムは未だ解明されていません。  
この検討に有効な手段として、感染性ウイルスのゲノムを任意に改変することを可能とする技術、すなわち遺伝子操作系があります。今回、当研究室が独自に開発した高効率な遺伝子操作系(11-プラスミドシステム)を適用することで、ワクチンRotarix®株における遺伝子操作系の確立に世界で初めて成功しました。
 

研究手法・研究成果

本研究では、ワクチンRotarix®株全ゲノム塩基配列を次世代シーケンシング(MiSeq)で決定し、得られたゲノム情報をもとに構築したcDNAから、弱毒生ヒトロタウイルスRotarix®株の人工合成に成功しました。このワクチンRotarix®株の人工合成法には、2018年に当研究室が独自に開発した高効率な遺伝子操作系(11-プラスミドシステム)(図1)を適用しました。
この人工合成した組換えRotarix株の生物学的性状を知るため、培養細胞におけるウイルス増殖能を調べた結果、ワクチンRotarix®株と同等の増殖能を示すことがわかりました(図2A)。さらに生後5日齢の乳のみマウスに組換えRotarix株とワクチンRotarix®株を経口投与し、その下痢重症度を比較したところ、いずれも投与後2日にのみ軽度の下痢症状を示しました(図2B)。また、野生型ロタウイルスが感染した小腸では、絨毛先端部の上皮細胞に多数の空胞が形成されるため、組換えRotarix株においても、この空胞が見られるか調べました。組換えRotarix株を経口投与した乳のみマウスの小腸を、投与後2日目から4日目まで毎日摘出し、空胞の形成をHematoxylin-eosin(HE)染色法、ロタウイルス感染をVP6(ロタウイルス構造タンパク)に対する免疫組織学的染色法によって観察しました。その結果、小腸上皮細胞での空胞は投与後2日のみに観察されること(図2C)、投与後2日目から4日目すべてにおいてロタウイルスの感染が確認できること(図2D)が分かりました。これらはワクチンRotarix®株を経口投与した場合と一致する結果でした。
以上の結果から、人工合成した組換えRotarix株の生物学的性状はin vitroおよびin vivoにおいてワクチンRotarix®株と同一であることが示されました。

今後の展開

弱毒生ヒトロタウイルスRotarix®株における遺伝子操作系の確立は、いまだ不明な弱毒化メカニズム解明といった基礎研究はもちろん、より安全性に優れたワクチン創出や安全性が担保された腸管ベクター開発といった応用研究につながると期待されます。

用語解説

[注1]遺伝子操作系
ウイルスゲノムをコードするcDNAを細胞内へ遺伝子導入することで、細胞内でウイルス複製を起こし、感染性ウイルスを人工合成する方法。
[注2]11-プラスミドシステム
ロタウイルスゲノムを構成する全11 本の遺伝子分節のうち、2本の遺伝子分節(それぞれ非構造蛋白質 NSP2とNSP5をコード)を残る9本の遺伝子の3倍量にしてBHK/T7-9細胞に遺伝子導入することで、ロタウイルスゲノムをコードする cDNAのみから、しかも高効率に感染性ロタウイルスを人工合成できる系。世界初となるヒトロタウイルスにおける遺伝子操作系の確立にも用いられた(Komoto et al., 2018)。
[注3]ロタウイルス
1973年に急性胃腸炎で入院した幼児の十二指腸生検標本中に発見された、乳幼児嘔吐下痢症の病因ウイルス。世界中のほぼすべての乳幼児が5歳までに感染し、発展途上国を中心に年間12万人の乳幼児がロタウイルス感染症によって死亡している。

文献情報

掲載紙: Viruses
論文タイトル:Generation of Recombinant Authentic Live Attenuated Human
Rotavirus Vaccine Strain RIX4414 (Rotarix®) from Cloned cDNAs Using Reverse Genetics
著者:福田佐織1)、釘田雅則2)、熊本海生航2)、明里友樹3)、東本祐紀4) 5)、長尾静子2)、村田貴之1) 6)、吉川哲史5) 6)、谷口孝喜1)、河本聡志1) 3) 6)
所属:
1)藤田医科大学 医学部 ウイルス学
2)藤田医科大学 研究推進本部 病態モデル先端医学研究センター
3)大分大学 グローカル感染症研究センター ワンヘルス研究部門
4)藤田医科大学 医療科学部 感染制御学
5)藤田医科大学 医学部 小児科学
6)藤田医科大学 研究推進本部 感染症研究センター
DOI: 10.3390/v16081198