食品の摂取頻度・嗜好と生活習慣病の関連に 一部性差が見られることを明らかに
~食育を活用した、健康づくりをめざして~
藤田医科大学 臨床栄養学講座 飯塚勝美教授と健康管理部 成瀬寛之教授の研究グループは、職員の健康診断で聴取した食事頻度調査の結果を男女別に分け解析しました。
男女ともに肉や野菜に比べて、魚、海藻、果物、芋類は食べる頻度が低いことがわかりました。細かく見ると、男性は肉、魚、清涼飲料水、アルコールを摂取する傾向が強く、女性は大豆、乳製品、野菜、果物、スナック菓子を摂取する傾向が強いことがわかりました。性別に関係なく関連が見られるものは、アルコールと尿酸、アルコールとHDL-C、睡眠時間とHbA1c、芋類とトリグリセリドでした。グルコースから脂肪酸やトリグリセリドが作られること、ビールなど醸造酒に含まれるプリン体から尿酸が作られることから、原料と代謝物の関係が見られる場合は性別に関係なく関連することがわかります。
性別ごとの影響が違うものとして、男性は、肉の摂取頻度がHbA1cと正の相関、eGFRと負の相関を示したのに対し、女性は、魚の摂取頻度がeGFRと正の相関を示しました。卵と大豆の摂取頻度は、女性においてのみ非HDL-Cと正と負の関連を示しました。食事の摂取頻度・嗜好が代謝パラメータに及ぼす影響は年齢や性別によって異なるため、食事指導の重点を性別や年齢層によって変えることが効果的であると予想されます。今後性差を考慮した生活習慣病の栄養指導が有効か、前向き研究で証明することが必要です。
本研究成果は、学術ジャーナル「Nutrients」でオンライン版が2024年9月2日に公開されました。
研究成果のポイント
- 日本人において、男性と女性の食品の摂取頻度・嗜好の違いが見られた
- 男性は肉、魚、清涼飲料水、アルコールを、女性は大豆、乳製品、野菜、果物、スナック菓子を摂取する傾向が強かった
- アルコール飲料と尿酸、芋類(澱粉)とトリグリセリド(脂質)のように、直接の因果関係があるものは性別、年齢、体格に関係なく関連が見られた
- HbA1c、eGFR、non-HDL-Cについては、性別ごとに食品の摂取頻度・嗜好との関連は異なる
- 今回の研究結果を職員向けの料理教室を活用した食育に活用するとともに、性別を考慮した栄養指導に効果があるかを前向き試験で検証する必要がある
背景
食事の嗜好は、年齢、性別、住んでいる環境(文化)の影響を受けます。食事の嗜好の違いは代謝パラメータに影響を与えると考えられますが、日本人の特徴はあまり調べられていませんでした。さらに、性別ごとの食事の嗜好性が代謝疾患の治療ガイドラインに反映されていることは、これまでありませんでした。近年、健康経営の観点から、従業員の健康管理は人的資本の強化に重要であり、食事環境の調査はその基本になるとの考え方がスタンダードになってきました。そこで、藤田医科大学の職員を対象に、性別ごとの食品摂取頻度を調べ、次にそれぞれの食品摂取頻度が代謝マーカー(血糖、腎機能、脂質、尿酸)に及ぼす影響を調べました。
研究手法・研究成果
藤田学園の職員健診を受けた方で食事頻度調査を行った3147人(平均年齢35歳、M: 968人, F: 2179人)を対象に10品目(肉、魚、卵、乳製品、大豆、緑黄色野菜、芋類、海藻、果物、脂類)の摂取頻度、スナック類などおやつの摂取頻度、砂糖を入れたコーヒー・紅茶の摂取頻度、清涼飲料水の摂取頻度、アルコール摂取頻度を性別ごとに調査しました。さらに性別ごとに、HbA1c、eGFR(腎機能)、尿酸、脂質(トリグリセリド、HDL-C、non-HDL-C)などの代謝マーカーとの関連を、年齢、BMIで調整し、検討しました。男女間の食品の摂取頻度・嗜好はそれぞれ違うため、食品の摂取頻度・嗜好が血糖や脂質など代謝パラメータとの関連は男女間で異なる可能性があります。20~59歳の日本人3147人(男性968人、女性2179人)の健康診断所見を対象とした観察研究を実施し、性・年齢による食習慣の違い、食事頻度と血液パラメータ(eGFR、HbA1c、尿酸、脂質)の関連を検討しました。その結果、男性は肉、魚、清涼飲料水、アルコールを摂取する傾向が強かったのに対し、女性は大豆、乳製品、野菜、果物、スナック菓子を摂取する傾向が強くみられました。年齢とBMIで調整した多変量線形回帰モデルでは、男性は、肉の摂取頻度がHbA1cと正の相関(β=0.007、p=0.03)、eGFRと負の相関(β=−0.3、p=0.01)を示したのに対し、女性は、魚の摂取頻度がeGFRと正の相関(β=0.4、p=0.005)を示しました。卵と大豆の摂取頻度は、女性においてのみ非HDL-Cと正負の関連を示しました(卵:β=0.6、p=0.02、大豆:β=−0.3、p=0.03)。アルコール摂取頻度は、男女ともに尿酸(男性:β=0.06、p<0.001、女性:β=0.06、p<0.001)およびHDL-C(男性:β=1.0、p<0.001、女性:β=1.3、p<0.001)と関連していました。
今後の展開
本研究により日本人においても男女の食事の嗜好性が異なることが示されました。また、男女に共通して野菜や肉は摂取しているが、魚、大豆、果物、芋、海藻の摂取は少ないこともわかりました。今回の研究データをもとに、不足する食品群(魚、大豆、果物など)を補うレシピに基づき、職まし場での料理教室を行なうことで、職場での食事に対する啓発活動(食育)に活用し、健康経営にも役立てたいと考えます。次に、食事摂取の頻度と血糖、脂質、腎機能への影響に性差が観察されたことは、生活習慣病における栄養治療を行う際に、性別による食事嗜好性の違いを考慮する必要があることを示しています。卵の摂取頻度は男性女性で同じでも、女性でのみnon-HDL-Cと正の相関が見られたことから、卵の調理法にも注目する必要があるかも知れません。
その一方で、アルコール摂取と尿酸、芋摂取と中性脂肪の関連は男女に関わらず見られました。アルコール飲料に含まれるプリン体とイモ(デンプン)はそれぞれ体内で直接尿酸と中性脂肪に変換されることを考えると、原料と代謝物の関係にあるものは、性別によらず食事制限が有効と考えられます。
最後に、今回の研究では因果関係を証明するものではないので、性別とその食事嗜好性の違いに基づいた栄養指導が生活習慣病の予防や治療に有効かを確かめる必要があります。
文献情報
論文タイトル
Sex and Age Differences in the Effects of Food Frequency on Metabolic Parameters in Japanese Adults著者
飯塚勝美1,2*、柳ことね3、出口香菜子1、後田ちひろ1、和田梨紗子1、小八重和子3、山田芳子3、成瀬寛之3,4所属
1 藤田医科大学 臨床栄養学2 藤田医科大学病院 食養部
3 学校法人藤田学園 法人本部健康管理部
4 藤田医科大学 医療科学部臨床教育連携ユニット臨床病態解析学分野