プレスリリース

遺伝性がん(腫瘍)の専門外来 「遺伝性腫瘍外来」を新設

発症前から定期検査、予防処置、遺伝カウンセリングなどを通じてトータルにサポート


藤田医科大学病院(愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1番地98 病院長:白木良一)は8月1日、遺伝性のがん(腫瘍)を専門的にフォローする「遺伝性腫瘍外来」を開設しました。ここでは発症・未発症に関わらず、遺伝性がんの発症リスクに応じた定期的な検査・発症予防処置、遺伝カウンセリングなどを提供していきます。「家族にがんの罹患者がいる」「がんと診断されて、子どもへの遺伝が心配」といった患者さんおよびご家族がご自身のがん発症リスクを知ることで、予防や早期発見・治療につなげることを目的としています。
がんゲノム診療科・産婦人科・乳腺外科・消化器外科・消化器内科・泌尿器科などの診療部門と、放射線部・薬剤部・健診部門・研究部門などと連携して、遺伝性腫瘍の患者さんの診療にあたります。

発症前の診断が求められる“遺伝性のがん(腫瘍)”

がんの原因には環境要因(年齢、生活習慣[飲酒、喫煙]、ウイルスなど)と遺伝要因があり、生まれ持った「遺伝子の特徴」が、がんの発症と強く関わっているものを「遺伝性のがん(腫瘍)」とよんでいます。人の体には2万種類以上の遺伝子があり、その中にはがんの発症に関わる遺伝子もあります。遺伝性のがん(腫瘍)とは、遺伝子に生まれつきの特徴(遺伝子病的バリアント)があるために、特定のがんを発症しやすい状態のことで、遺伝子によって、発症しやすいがんの種類や、がんの発症率は異なります。遺伝性のがん(腫瘍)は必ずしもがんを発症するわけではありませんが、リスクを認識することで予後が大きくかわる疾患といわれています。

●代表的な遺伝性のがん(腫瘍)の例
疾患名 遺伝子 関連するがん
遺伝性乳がん卵巣がん BRCA1、BRCA2 乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がん、 悪性黒色腫 など
リンチ症候群
MLH1、MSH2、 MSH6、 PMS2 (EPCAM) 大腸がん、子宮体がん、胃がん、腎盂・尿管がん、卵巣がん など
遺伝性びまん型胃がん CDH1 びまん型胃がん(印環細胞がん)、乳がん(小葉がん) など
家族性大腸腺腫症 APC 大腸がん(ポリポーシス)、十二指腸がん、胃がん、甲状腺がん など
 
このほかの遺伝性腫瘍にも幅広く対応していきます。

“リスクに応じた定期検査を通じて早期発見・治療へ” 患者さんを長期的にサポート

遺伝性腫瘍外来では、ご本人やご家族の病歴、ご本人の気になる症状などから、遺伝性のがん(腫瘍)のリスクを総合的に評価します。お一人おひとりの状況に合わせて最適な遺伝学的検査を受けることもできます。遺伝性のがん(腫瘍)と診断された方には、リスクに応じた定期検査の実施、治療や予防の選択肢に関する情報提供、血縁者への対応についての相談など、包括的にサポート。加えて、認定遺伝カウンセラーによる心理的なサポートで患者さんと家族の不安や疑問に寄り添います。
遺伝性のがん(腫瘍)の病変は多岐にわたりますが、現在の日本の医療では臓器別診療が中心のため、患者さんは臓器別に診療科を複数受診し、遺伝性のがん(腫瘍)に関する十分な情報提供やサポートを受けられないなどの課題がありました。遺伝性腫瘍外来の遺伝性腫瘍専門医が主治医となって様々な診療科と緊密に連携することにより、臓器横断的に遺伝子の特徴に応じたトータルサポートを生涯にわたって提供することが可能になります。

“がんのリスクを知る”を治療のスタンダードに

診断されるがん全体のうち、およそ5~10%が遺伝性のがん(腫瘍)といわれています。これは全国で毎年約5万人~10万人が遺伝性のがん(腫瘍)と診断される可能性があることを意味します。遺伝性のがん(腫瘍)は、生まれつきがんになりやすい体質(遺伝子病的バリアント)ががんの発症の要因となっているもので、遺伝子バリアントは親から子に50%の確率で遺伝します。
遺伝情報をもとにご自身のがんにとって最適な治療を選択できるのみならず、疾患の遺伝学的関与の有無および家族の将来の発症リスクを知ることで、自身の価値観に合わせたライフデザインを描くことができます。また、発症しうる疾患の早期発見・早期治療に努め、予防的な手術を行うことでがんの発症リスクを低くするなど、多くの選択肢から検討することができるようになります。しかし現在はまだ保険診療で実施が認められている遺伝学的検査はごく一部に限られているため、多くの遺伝性がん(腫瘍)が見逃されていることが考えられます。海外ではすでに複数の遺伝子をまとめて調べる「多遺伝子パネル検査(MGPT)」が主流になっています。MGPTを用いることで診断率の向上、診断までの時間短縮が見込めます。藤田医科大学病院でもすでに数種類のMGPTを導入し、どのような遺伝子にも対応できるよう体制を整えています。今後日本でも広く導入されることが期待されています。

“がん死亡率0%”をめざして

藤田医科大学病院では、がんゲノム診療科の須藤保教授が中心となり、地域の医療機関に向けたセミナーの実施や相談等にも応じています。