医師
INTERVIEWvol.007
技術を高めて、ひとりでも多くの患者さんを救いたい。 そう思って努力すること自体が喜びです。
三井哲史Satoshi Mii
藤田医科大学病院 消化器系 外科医
医学部 2015年卒業
- 取材日
DESCRIPTION
医者と一言で言っても、所属する診療科目によって仕事内容はずいぶん異なる。
今回お話をうかがった消化器外科のドクターである三井さんにとって、仕事の上でメインとなるのは「手術」。胃や大腸などの消化器系の病気、特にガンの治療に多く携わっているという。
外科医というと、なんとなくシャキシャキと早口で話す方を想像していたのだが、取材の場に現れた三井さんはおっとりとした喋り口調で、少しシャイな方だった。
「昔は僕自身も、外科医ってバリバリした感じの人がなるもんだと思っていたんですけど、実際はコツコツと地道にやるのが得意な人が多くいる印象ですね」
呼び出しがかかったらすぐにでも行かないといけない多忙な三井さんと向かい合っていると、こちらまでつい緊張してしまいそうだが、三井さんご自身はいたってマイペース。
緊張とプレッシャーにさらされた現場で働くからこそ、自分のペースを守って冷静でいることが重要なのかもしれない。
高校生までは文系、でもどうしても医者になりたかった
ーまずは、今どんなお仕事をされているのかを教えてください。
消化器外科で医者として働いています。具体的には、虫垂炎や大腸穿孔などの緊急手術を行ったり、ガンの手術の助手をしたり、術後の患者さんの経過を診るなどといった仕事をしています。
ー緊急手術ということは、急患の対応もされているんですね。
はい、救急には交代で入っています。予定手術の中に時折緊急手術が入る、という感じですね。
ー医者になろうと思ったのは、いつ頃だったんですか?
高2の夏くらいでしょうか。きっかけはテレビでやっていた、海外の紛争地で働いている医者のドキュメンタリーを観たことなんですよ。あえて不安定な紛争地に行ってその人たちのためにがんばる姿、自分の利益ではなくただただ人のために動く姿にとても感銘を受けました。それで僕も彼のように、緊迫感のある現場で人のためになる仕事をしたいなと思ったんです。
でも僕、それまで文系だったんですよ。だから医者になりたいって言っても、そこからいきなり医学部を目指すのは、カリキュラム的にちょっと難しくて。
ーえっ、高校生のとき文系だったんですか?
そうなんです。その後一度医者の夢は諦めて、卒業後はある大学の理工学部に進んだんですけど、やっぱり違うなあと。それで大学に通いながらいろいろな本を読んでいるうちに、「一度しかない人生なんだから、やっぱりやりたいことをやろう!」と思って、大学を辞めました。
辞めてからの半年はバイトしながら勉強して、そのあとは予備校に2年間通って猛勉強しましたね。だから、全部で4年間浪人したことになるんです。親には迷惑をかけてしまったんですが……。
ーすごいです。そのドキュメンタリー番組を観たことが、そこまで三井さんの心を動かしたんですね。だけど、医療の現場で働くとしたら、医者以外の職種の選択肢もあったかと思うのですが、医者にこだわったのはどうしてだったんでしょう?
他の職種に進むことも考えましたけど、自分の手で治したいっていう気持ちが強かったんですよね。自分の手で手術や処置をして患者さんを助けたい。だから、やっぱり医者を目指そうと思いました。
ーなるほど。それで、進学先に藤田医科大学を選んだ理由は何だったんでしょう?
校舎が新しくてきれいで、設備などのハード面がすごく充実しているということが大きかったですね。それにPBL(問題解決学習)やグループ学習などもできるということも聞いていたので、ここで勉強ができたらいいなと思って受けました。
「自分もこうなりたい」と思わせてくれた教授との出会い
ーいろいろな診療科がある中で、外科に進もうと思ったのはいつ頃なんでしょう?
大学時代にはもう決めていましたね。僕はゴルフ部に入っていたんですけど、その部で仲の良かった先輩が、ある教授の指導学生だったんです。だから、たまに一緒にその教授の手術を見学させてもらったりしていたんですけど、その教授といろんな話をするうちに、すごく影響を受けるようになっていって……。
ーどんな先生だったんですか?
まさに、ザ・外科医って先生です。すごく腕が良くて、他の病院で断られてしまった難しい症例も受け入れて、手術で治していくんですね。その様子を見て、「かっこいいなあ」って憧れましたね。
外科医って、自分の技術が高まれば高まるほど、治せる人が増えていくんですよ。これまで治らないと言われていた人も、自分が成長すれば治せるようになる。それをここで目の当たりにしました。
ー自分の技術がダイレクトに結果に繋がるという……。
そうです。直接言葉として言われたわけではありませんが、教授の仕事へ取り組む姿勢から、「絶対妥協しない」ことと「人に優しく自分に厳しく」ということを教わりました。
手術だけで治せない重い症例でも、抗がん剤、放射線、できうることを全部組み合わせて、どうにかして治そうとするんです。もちろんそれにはたくさんの知識がいるので、教授自身、常に勉強している。常に変わり続けようとしているんですよね。
その生き様や哲学を見て、自分もそうなりたいなって思って、外科を目指すようになりました。
ーなるほど。その出会いが大きかったんですね。
出会いと言えば、藤田では実習が多かったので、その期間はいろんな科の先生と出会いましたよ。しかもどの科の先生もとてもレベルが高くて、全国的に有名なドクターも身近にいました。その先生のもとに、他の病院からやる気のある医者が勉強しにやってくる。そういうところを間近で見ていると、自分の将来像を前向きに考えられる、すごくいい機会になりましたね。
この仕事をすること自体が自分の喜び、だから続けられる
ー三井さんが今の仕事をしていて、一番やりがいを感じる瞬間は何でしょう?
やっぱり、患者さんが笑顔で帰っていくときですね。手術の前はしんどそうだった人が、術後に良くなって元気に過ごせるようなったところを見たりなんかすると、本当に嬉しいです。
ー高校時代にドキュメンタリー番組で観たお医者さんに、近づいているように思いますか?
それはちょっとわからないけれど、常にそこに近づきたいと思っていますね。
テレビで彼が言っていたことで今でも心に残っているのが「今自分がしていることが、そのまま自分の喜び。だから続けられる」って言葉なんですよ。義務として嫌々やっているのではなく、この仕事をすること自体が自分の幸せだからって。
ーああ、それはすごくいい言葉ですね。
手術している時なんかに、その気持ちがわかる気がするんです。今この瞬間にすごく集中しているし、患者さんが良くなっていくこと自体が喜びなんですよね。
僕は外科に入って2年目なんですが、これまでできなかったことがちょっとずつできるようになってきました。これからもどんどん技術を高めていって、今まで救えなかった患者さんをひとりでも多く救っていきたい。そう思って努力すること自体が、喜びなんです。
ー三井さんも、自分の喜びと仕事の喜びが一体になっているんですね。
はい。大学に入るまでは、基礎的な知識をつけるためにいろんな勉強をしないといけないですけど、それが身について医者になってからは、自分の知りたいことがイコール勉強なんですよね。勉強の先に、自分の成長がある。だから、そんなに苦にならないですよ。もちろんプレッシャーもあってしんどい時もありますけど、すごくやりがいがあります。
ーなるほど。では、三井さんが仕事で一番大事にしていることって何でしょう?
うーん。いろいろありますけど、やっぱり僕は手術が多いので、「準備は絶対怠らない」ってことでしょうか。十分準備したつもりでも、予想外のことって必ず起こる。だから事前に潰せるリスクはすべて潰そうという気持ちでやっています。患者さんのCT画像やデータを見たり、手順を確認するために本やビデオを見たり。
ーそのように、常に正確性や精度が求められる職業上、AIやロボットがこれからどんどん活躍していく領域かと思います。だけど逆に、ロボットにはできない、人間のドクターにしかできない仕事って何だと思いますか?
……それは、難しい質問ですね(笑)。
ああ、でも……やっぱり人間にしかできないのは、「ギリギリの判断」でしょうか。例えば、手術するかしないかひとつとっても、基準を決めて判断していく、という方法もあるんですけど、患者さんの状態とかバックグラウンドを考慮すると、データだけでは判断できないときもあるんです。一般的な基準ではなかなか決められない、最終的なギリギリの決断は、数値データ以外の要素も考慮できる「人間」にしかできないことだと思いますね。そして、そういう決断をしていかないと進歩がない。おそらく、ほとんどの教授はそういうことを考えて仕事していると思います。
ーありがとうございます。では、最後に受験生へのアドバイスをお願いします。
僕自身、大学受験のときも国家試験の受験のときもすごくしんどかったんですけど、それは数年の限られた時間です。医者になったら、そこから数十年のキャリアが始まる。その長い時間をどのように過ごしていきたいか、ぜひイメージしてみてください。すると、目の前のしんどいことも乗り越えられると思います。くじけそうなときは、少し先の未来の「なりたい自分」を想像してくださいね。
私の相棒
メモ帳
学生の頃から、メモ帳は常に持ち歩いています。薬の使い方、手術のポイントなどの仕事に直接関わることはもちろん、これはいい言葉だなって思った格言だとか、ふと思ったことや気づいたことなど、本当にいろいろなことを書き込んでいます。それをエレベーターを待っている間なんかに読み返すと、「前も同じこと書いていたな」とか「結局これが自分には大事なことなんだな」とか気づきがあって、自分のことを振り返る時間になるんです。
お世話になっている教授から、よく「メモをとりなさい」って言われていたんですよ。書き残すと思い出すことができるし、話している方も真剣に話そうという気持ちになるからって。それ以来、ずっと大事にしている習慣ですね。
「メモ帳、これまでに何十冊も使ってきたんですけど、結局どこにでも売っているこのノートが一番使いやすいんですよね」
と、小さなサイズのスタンダードなノートを見せてくれた三井さん。1か月に1冊は使い切り、これまでのものもすべて残しているという。
今回話して、三井さんは本を読んだり年上の人の話を聞くのが好きなのだなと感じた。そしてその刺激をただ受けるだけではなく、自分の成長へと確実に繋げている。新しい知識や価値観に触れ、良いものをすぐに吸収していこうという姿勢が、「メモをとる」という習慣になっているのだ。
きっとメモ帳の積み重ねの先に、三井さんの言う「少し先の未来の『なりたい自分』」が立っているのだろう。
取材が終わり、颯爽と現場に戻っていく三井さんの後ろ姿を見ながら、そんなことを思った。