臨床工学技士
INTERVIEWvol.004
知れば知るほど人の役に立つ。 だから、新しいことに挑戦し続ける。
中嶋友香Yuka Nakajima
常滑市民病院 臨床工学室
臨床工学科 (現・医療検査学科)/ 2012年卒業
- 取材日
DESCRIPTION
病院のエントランスにやってきた中嶋さんは「あっ」という顔をして、ある患者さんに近づいていった。 「こんにちは。調子はどうですか?」 声をかけられた男性は、車椅子に乗ったまま顔を上げる。そして、付き添いの女性と一緒に笑顔を返した。どうやら前々から入院している透析の患者さんらしい。男性が何か冗談を言い、それに対し中嶋さんが返し、三人が楽しそうに笑い声をあげる。 中嶋さんは、臨床工学技士である。医療機器を使いこなす「医療現場のエンジニア」と呼ばれるその職業から、実はもっとクールな雰囲気な方を想像していたのだが、目の前にいるのは周りがぱっと明るくなるほど朗らかな方だった。 「お待たせしました」 そう言ってこちらに笑顔を向けた中嶋さんの胸には、ニコちゃんマークのペンが差さっていた。
機械を通じて、いろんな場面で患者さんのためになる仕事
ーまずは、臨床工学技士のお仕事について教えてください。
わかりやすく言えば、医療機器のスペシャリストですね。病院の中にある機械のことを、いちばんよくわかっている人という感じでしょうか。医療機器の管理やメンテナンスをしたり、オペ中の機械操作を担当しています。
「医療機器」と一言で言っても、種類は幅広くていろんなものがあるんですよ。すぐイメージできるのは人工透析とか人工心肺だと思うんですけど、その他にも、人工呼吸器などの生命維持管理装置とか、手術室で使う電気メス、麻酔器、病室にある心電図モニターなど、本当にいろんな種類があります。
ーそういった病院の機械に一番詳しい人、ということなんですね。では、使い方を教えることも?
はい、よくやりますよ。医療機器についての教育や指導は、私たちが行っています。実際に使うのは医師や看護師なんですが、彼らに対しての新人研修をやったり、新しい機械を導入するときに勉強会を計画したり。「この機械、使い方がよくわからないんです」という声があれば「じゃあ3回コースで勉強してみましょうか」みたいに授業をしたりすることもあります。
実はこの仕事は、コミュニケーションをとる場面がとても多いんですよ。患者さんと喋ることもたくさんあります。たとえば透析の患者さんとは、透析室で週に3回はお会いしますし、在宅治療の患者さんには自宅で使う機械の説明も行います。安全に、安心して使っていただくためにも、コミュニケーションは絶対に大事ですね。
ー機械だけではなく人にも接することが多いんですね。中嶋さんは、どうして今の仕事を目指したんですか?
もともと、医療系の仕事につきたかったんです。将来のことを考えたときに「人の役に立つ仕事がしたいな」って思って、最初は臨床検査技師を目指していました。でも、推薦入試で落ちてしまって。それで「さてどうしよう」と思ったときに、臨床工学技士という職業を知ったんです。
ーそのとき初めて知ったんですね。
はい。落ちてから初めて「臨床工学技士って何だろう?」って調べたくらいで(笑)。
だけど、仕事内容を知るうちに「医療機器を通していろんな場面で患者さんの力になれるのって魅力的だな」と思うようになったんです。実は医療機器って特別なものではなくて、みんながいろいろな場面で使っているんですよね。病室でも、手術室でも、健康診断でも……あらゆる医療現場を支える必需品なんです。それを有効的に使うことで医療を支える大事な役割なんだなと知り、臨床工学技士を目指すようになりました。
大学で学んだことすべてが今に活きている
ー夢を叶えるために、大学で特に力を入れていたことは何ですか?
うーん……やっぱり勉強でしょうか。学生のときは、国家試験に受かることしか頭になかったので。何かもっとかっこいいことを言えたらいいんですけど、試験を乗り越えるのにいっぱいいっぱいで、それ以外思いつかないくらいなんですよ(笑)。
ーいえいえ、かっこいいですよ! それくらい知識がものを言うお仕事ってことなんですね。
本当にその通りです。今やっているどの仕事も、大学で身につけた知識がベースとなっています。だから大学で学んだことすべてが今に活きていると感じますね。新しい知識は、すべてその上に乗っていくというイメージです。
ー勉強ばかりで辛いな、と思うことはなかったですか?
いえ、それはそんなになかったですね。まわりの子たちもみんな同じでしたから。国家試験合格に向かって、みんなで頑張っていました。あのころボロボロになるまで使い込んだテキストは、やっぱり思い入れがあって捨てられないですね。
ー藤田に入ってよかったと思うことは何でしょう?
やはり大学病院と一緒になっているので、現場で働いている先生たちから生の声が聞けたのはとてもよかったと思います。「今日はこんな患者さんが来たんだよ」などといった話を聞くと、勉強になるかどうかは関係なく、現場の空気に触れられるって言うんでしょうか。学生のうちからそれを感じることができたのはよかったなと思います。
得た知識が必ず患者さんの治療につながる
ーこの仕事で特にやりがいを感じることは何ですか?
実は今、臨床工学技士の仕事の領域は広がっていっているんですよ。たとえば内視鏡とか、在宅医療とか、これまでは看護師の管轄下にあった分野にも、私たちがどんどん入っていくようになっています。
そこで必要なのが、新しいルール作りなんですよね。これまで何となく使っていた医療機器をもう一度見直してより効率的な手順を示したり、使われないまま放置されていた機械や機能をきちんと活用する方法を考えたり。
病院内にある機械を、より良く、より安全に使うにはどうしたらいいかを考える。そしてそれを普及させていく。今はそのルールづくりが形になっていくのがやりがいですね。
ー業務が拡大して、新しく活躍の場が増えていっているんですね。
そうなんです。看護師さんの人手不足を、臨床工学技士が補う形になってきていますね。それだけ、勉強しなくてはいけない領域も増えていっています。
やっぱり最初はわからないことだらけなんですよ。だけど勉強をし続けていれば、だんだんわかってくる。わかればわかるほどおもしろい、知れば知るほど役に立つのがこの仕事です。なぜなら、わかったことが必ず患者さんの治療につながっているから。この機械があればこんなことができるんだ、こんな患者さんに使えるんだってわかるようになると、すごくおもしろいですね。
ーなるほど、知識が人のためになっていくのを感じられる仕事なんですね。では最後に、受験生へのアドバイスをお願いできますか。
今のうちからいろんなことにチャレンジしておこう!ということでしょうか。興味があることやおもしろそうなことには、どんどん挑戦しておくといいと思います。やってみよう、楽しもうとする気持ちは、医療の仕事をし始めてからも生きてくると思うので。若いうちから何でも楽しもうとする姿勢を身につけておくと、社会人になっても楽しく仕事ができると思います。
私の相棒
内視鏡
内視鏡とは、内臓の内部を直接見たり治療するために、先端に小型カメラやレンズを内蔵した細長い管のこと。これまでは看護師が内視鏡の管理を行っていたのですが、最近になってから臨床工学技士の仕事となりました。少なくとも私が学生だったときには教科書には載っていなかったですね。だけど今は内視鏡室にも臨床工学技士が入って、先生とのやりとりや治療中の補助を行い、新しいルール作りも始めています。
私たちにとっては、新しい領域であり新しい相棒。勉強することはたくさんありますが、このように私たち臨床工学技士が入ることで、より現場がうまく機能して患者さんの力になれたらいいなと思っています。
機械を相手に黙々と仕事をする……臨床工学技士にはそんなイメージがあったが、中嶋さんの話を聞いてまったく違う側面を知ることができた。医療機器の管理の他、医療スタッフ、患者さんとのコミュニケーション、緊急オペへの対応など、イレギュラーな案件も多いそうだ。
「臨機応変なコミュニケーションはもちろん大事です。でもだからこそ、マイペースでいることも同じくらい大事なんですよね。私たちは医療機器を取り扱っているので、正確さが常に要求されます。何があっても落ち着いていられるように、自分のペースを乱さないことを意識しています」
取材の終わり際、誰も使っていない透析室で写真を撮っていると、後ろから患者さんが中嶋さんに声をかけた。
「ほら、もっと笑顔で写らないと!」
その言葉に、中嶋さんが顔をほころばせた。