プレスリリース

岡崎医療センター消化器内科 大森崇史講師らの研究成果が米国の学術ジャーナル「Gastrointestinal Endoscopy」に掲載されました

画像強調システム・FICEを用いた大腸カプセル内視鏡読影は
大腸がんの初期病変を効率的に拾い上げることができる
 
~大腸がん検診の新たなモダリティーとして期待~

藤田医科大学岡崎医療センター(愛知県岡崎市) 消化器内科 大森崇史講師と藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部先端光学診療学 大宮直木教授らの研究グループは、大腸カプセル内視鏡検査におけるFICE*1(Flexible Spectral Imaging Color Enhancement)機能に着目し、約5年間にわたって通常光観察とFICE観察における大腸腫瘍性病変の病変検出感度の前向き比較研究を行いました。この結果、FICE観察では10mm未満の病変や表面型の病変、管状腺腫*2や鋸歯状腺腫/過形成ポリープといった病変を、通常光観察よりも有意に多く検出することを明らかにしました。これらの成果により、大腸カプセル内視鏡におけるFICEスクリーニング読影は、従来の読影法と比較し、腫瘍径が小さな表面型腺腫や鋸歯状腺腫*3などの大腸がん初期病変も見落とさず、効率的に検出できる可能性が示唆されました。
本研究成果は、米国消化器内視鏡学会の学術ジャーナル「Gastrointestinal Endoscopy」(2024年2月号)に掲載されました。


研究成果のポイント

  • FICE観察が、大腸カプセル内視鏡検査における大腸腫瘍性病変の病変検出能に与える影響を世界で初めて報告した。
  • FICE観察では10mm未満の病変や表面型の病変、管状腺腫や鋸歯状腺腫/過形成ポリープといった病変を、従来法(通常光観察)よりも有意に多く検出することを明らかにした。
  • 本研究の結果から、従来法と比較し、FICE観察は大腸がんの初期病変を効率的に検出できる可能性が示唆された。


背景

海外では、2006年に第1世代の大腸用カプセル内視鏡Colon Capsule Endoscopy(以下:CCE)が臨床応用され、さらに2009年には第2世代のCCEが登場しました。本邦においては2014年1月に世界に先駆けて保険適用となり、大腸がんスクリーニング検査の新たなモダリティーとして期待されています。第2世代のCCEは第1世代から改良され、カプセルの前後にビデオカメラが搭載されています。加えて、フレームレート調節機能(Adaptive Frame Rate:以下AFR)が搭載されることで、カプセルが速く進むときには前後のカメラ合わせて4枚/秒から35枚/秒の頻度で撮影可能となりました。これにより、第1世代で危惧された病変の見落としのリスクを大幅に軽減することが可能となりました。その一方で、前後にカメラが搭載されていることから1症例につき2度の読影が必要となり、またAFRにより一症例あたりの撮影枚数が大幅に増加する結果となりました。CCEのターゲットは主に大腸腫瘍性病変(大腸がんや腺腫・鋸歯状腺腫といった前がん病変)であることから、その診断精度は担保されなければなりません。膨大な撮影枚数から的確に病変を拾い上げる必要があり、CCEにおける病変検出能を向上させる読影方法を確立させることが課題でした。
大腸カプセル内視鏡の読影ソフトであるRAPID®ソフトウェア(Covidien Ltd, Medtronic plc, Dublin, Ireland)には、白色光画像から病変部の分光学的情報を抽出し、微細な色の変化を強調するFICE機能が搭載されています。既報では、小腸カプセル内視鏡におけるFICE観察は通常光観察と比較し、血管拡張、びらん・潰瘍、腫瘍などの小腸病変の視認性を向上させたと報告されていました。一方で、大腸カプセル内視鏡におけるFICE観察の有用性、特に大腸腫瘍性病変に対する病変検出能に与える影響はこれまでに検討がなされていませんでした。以上のことから、我々は大腸カプセル内視鏡におけるFICE観察が病変検出能を向上させるか、通常光観察との前向き比較試験を行いました。

研究手法・研究成果

2020年4月までにCCE施行後4カ月以内に大腸内視鏡を施行した91例の内、多発ポリープ例2例を除く89例(男/女=65例/24例、年齢中央値66歳)を対象としました。1例につき通常光単独読影(CCE-WL)及びFICE単独読影(CCE-FICE)をそれぞれ2名の読影者が独立して行い、大腸内視鏡所見をゴールドスタンダードとして、CCE-WLとCCE-FICEにおける病変検出能を患者毎・病変毎に比較しました。また両読影法の2検者間一致率(k値)を検討しました。
患者毎の検討では、6mm以上の病変を有する患者の検出感度はCCE-WLで78%・CCE-FICEで93%であり、CCE-FICEの方が有意に高いという結果でした(P=0.0159)。また病変別では、10mm未満の病変や表面型の病変、管状腺腫や鋸歯状腺腫/過形成ポリープといった病変において、CCE-FICEの方がCCE-WLと比較し、有意に検出感度が高いという結果でした(次ページの表をご参照ください)。また全病変における検者間一致率(k値)は、CCE-WLで0.66,CCE-FICEで0.64であり、同等でした。

例) 通常光観察で指摘できず、FICE観察で指摘できた病変
 

 

今後の展開

大腸カプセル内視鏡は、大腸がんの1次検診(便潜血)と2次検診(大腸内視鏡)をつなぐ1.5次検診の新たなモダリティーとして注目されています。大腸カプセル内視鏡における膨大な撮影枚数から的確に病変を拾い上げるという課題は、このFICE観察を用いることで解決できる可能性があります。特に、腫瘍径が小さな表面型腺腫や鋸歯状腺腫などの大腸がんの初期病変を効率的に検出できることから、大腸カプセル内視鏡におけるFICEスクリーニング読影を行うことで、より良い大腸がん検診を実現することができると考えます。
  

用語解説

*1 FICE

Flexible Spectral Imaging Color Enhancementの略称。内視鏡の視認性を向上させる観察法(画像強調法)の一つである。通常光と比較し、血管や表面構造を強調することができる。

*2  管状腺腫

大腸粘膜から発生する良性ポリープで、大腸がんの前駆病変である。一般的に6mm以上の管状腺腫は内視鏡治療を考慮する。

*3 鋸歯状腺腫/過形成性ポリープ 

大腸粘膜から発生する良性ポリープであり、特に鋸歯状腺腫は大腸がんの前駆病変である。一般的に10mm以上の鋸歯状腺腫は内視鏡治療を考慮する。
 

文献情報

論文タイトル

Prospective study of diagnostic yields of flexible spectral imaging color enhancement installed in colon capsule endoscopy for colorectal polyps and tumors

著者

大森 崇史1)、 大宮 直木2)、他

所属

1)藤田医科大学岡崎医療センター 消化器内科
2)藤田医科大学 医学部 先端光学診療学

DOI