プレスリリース

多様なプレバイオティクスによる食物アレルギー発症の予防的効果を証明

 ~プレバイオティクスを用いた食物アレルギーの発症予防に期待~

藤田医科大学(愛知県豊明市)消化器内科学講座、医科プレ・プロバイオティクス学講座は、ウェルネオシュガー株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:山本貢司)らと連携し、プレバイオティクス注1を用いた食物アレルギー予防に関する研究成果を得ました。
本研究では、ウェルネオシュガー株式会社の持つ3糖オリゴ糖であるケストースと、帝人株式会社の持つチコリという野菜由来の水溶性食物繊維であるイヌリンを併用して摂取することにより、食物アレルギーの強力な発症予防効果が得られることがわかりました。本技術は特許出願中です。
プレバイオティクスであるケストースとイヌリンは、フルクトースの重合体(フラクタン)に分類されますが、高分子のイヌリンと低分子のケストースでは、働く腸内細菌が異なることが判明しました。この結果は、特定のプレバイオティクス同士を組み合わせることにより、特定の疾患に対し相乗的な効果を発揮することを表しています。また、プレバイオティクスの摂取により食物アレルギーの発症を予防できるような技術の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、国際誌「BMC Microbiology」の2023年9月22日(オンライン版)に公開されました 。

研究成果のポイント

  • プレバイオティクス「ケストース」と「イヌリン」は、食物アレルギーの発症を予防できる可能性が示唆されました
  • ケストースとイヌリンは異なる腸内細菌に使われることにより相乗的に食物アレルギーの発症を予防することが明らかになりました
  • プレバイオティクスによる食物アレルギー発症予防につながる新たな補完治療の開発が期待されます


注1) プレバイオティクス:体に存在する良い効果を発揮する菌を選択的に増やす食品成分。オリゴ糖・食物繊維など。

背景

腸内環境への着目とともに、腸内環境を改善する成分であるプレバイオティクス、プロバイオティクスへの注目は日に日に高まっています。これらは、腸内環境の改善にとどまらず、癌、免疫・代謝性疾患、骨粗鬆症、精神疾患など多種多様な疾患に効果を発揮する可能性が示唆されています。
一方で「どのようなプレバイオティクス・プロバイオティクスを使用すればいいのか?」という問いに対する十分な研究成果はありませんでした。
本研究では、食物アレルギーの予防に関し、低分子のフラクタンであるプレバイオティクス「ケストース」と高分子フラクタン(水溶性食物繊維)であるプレバイオティクス「イヌリン」の組み合わせによるアプローチにおいて、食物アレルギーの発症にどのような影響が見られるかの研究を行いました。この研究は、食物アレルギーに対する新たな補完治療の発展につながる可能性があります。

研究方法

事前にプレバイオティクスを摂取したマウス群とプレバイオティクスを摂取していないマウス群に食物アレルギーのアレルゲンとなるアルブミンを投与し、食物アレルギースコア、腸管における炎症性サイトカインの発現、腸内細菌叢などの検討を行いました。プレバイオティクス摂取群は①ケストース、②イヌリン、③ケストース+イヌリンを摂取する3つのグループに分けてそれぞれ比較。
その結果、事前にプレバイオティクスを摂取した群は食物アレルギーの指標となる行動異常、直腸温低下、IgA減少、腸内炎症性サイトカインmRNA(IL-10など)の発現がみられなかったことから食物アレルギーの発症を予防していることが示唆されました。さらにプレバイオティクス摂取群の3グループを比較したところ、③ケストース+イヌリンを併用したグループでは特に直腸温の低下やIgA減少が抑制されたことを確認しました。
また、アレルギーが予防された群は、アレルギー発症群に比べ、ケストースもしくはイヌリンが特異的に働く腸内細菌が存在することがわかりました。このことは、ショートチェーンとロングチェーンのフラクタンは、どちらも食物アレルギーの発症を予防し、それらは働く腸内細菌が異なるため、併用することで相乗的に予防効果を発揮することが考えられます。

今後の展開

近年、食物アレルギーは明確に増加し、国民の3人に1人がなんらかのアレルギーを持っているといわれています。特定の食品の摂取により、時に激しいアレルギー反応をおこす食物アレルギーは、著しいQOLの低下をまねきます。しかしながら、プレバイオティクスを用いた食物アレルギーの発症予防に関する研究は非常に少ないのが現状です。藤田医科大学では、最先端の医学的治療と並行して、プレバイオティクスを用いたアレルギーの改善・予防効果の研究を進めています。
本研究により、食物アレルギー発症予防に効果的なプレバイオティクスの組み合わせが明らかとなりました。食物アレルギーは近年、様々な疾患との関連が報告されています。今後は、食物アレルギーの発症予防・改善のみならず、他のプレバイオティクスとの併用や、食物アレルギー以外の疾患での効果を検証する研究を進めるとともに、将来的な医学領域への展開をめざします。

文献情報

論文タイトル

Combined oral intake of short and long fructans alters the gut microbiota in food allergy model mice and contributes to food allergy prevention

日本語タイトル

短鎖と長鎖フラクタンの経口摂取による腸内細菌叢の変化と食物アレルギー予防に対する効果

著者

高橋秀明1、藤井匡2,3*、山川早紀2,4,5、山田千佳子1、藤木 理代1、近藤修啓2,4,5、舩坂好平2、廣岡芳樹2,3、栃尾巧2,3

所属

1 名古屋学芸大学 大学院栄養科学研究科
2 藤田医科大学 消化器内科学講座
3 藤田医科大学 医科プレ・プロバイオティクス学講座
4 伊藤忠製糖(株)研究開発室
5 ウェルネオシュガー(株)

掲載誌

BMC Microbiology (2023)23:266

掲載日

2023年9月22日(オンライン版)

DOI

10.1186/s12866-023-03021-6