整形外科学 藤田順之教授らの研究成果が学術ジャーナル「BMC Geriatrics」に掲載されました
腰部脊柱管狭窄症の高齢者を対象にした内服薬調査
腰椎手術が薬の飲み過ぎを防ぐ
腰椎手術が薬の飲み過ぎを防ぐ
藤田医科大学(愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1番地98)整形外科学講座の藤田順之教授と臨床薬剤科の山田成樹教授らの研究グループは、近年、社会的問題となっている高齢者の薬の飲みすぎ「ポリファーマシー※1」に着目し、65歳以上の腰部脊柱管狭窄症※2患者を対象に、腰椎手術前と手術後の内服薬調査を行いました。調査の結果、腰部脊柱管狭窄症に対して手術を受けた患者のうち、手術前は約2/3がポリファーマシーに該当しましたが、腰椎手術を行うと、内服薬が減り、ポリファーマシーの割合も有意に減少することが分かりました。
超高齢社会の到来とともに、高齢者の薬の飲みすぎ「ポリファーマシー」が問題となっています。一般的には、高齢になるほど複数の病気にかかるリスクが高まるため、高齢者では処方される薬剤が多くなる傾向にありますが、ポリファーマシーは、転倒などを含む薬物有害事象※3や薬の飲み間違いにつながり、また、医療費の高騰を招いていることが指摘されています。腰部脊柱管狭窄症では、慢性的な腰痛や足のしびれ感・痛みのために、多く患者さんは複数の痛み止めの薬が処方され、特に高齢の患者さんはポリファーマシーの頻度が高いことが予想されていました。本調査では、高齢の腰部脊柱管狭窄症患者において、予想通り、ポリファーマシーの頻度が高い一方で、腰椎手術の後は、その頻度は下がることが明らかにされました。これらの結果により、腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎手術は、薬の飲みすぎという観点からも有用なものであることが分かりました。
本調査成果は、学術ジャーナル「BMC Geriatrics」(3月24日付)に掲載されました。
論文URL :https://doi.org/10.1186/s12877-023-03853-x
研究成果のポイント
- 高齢の腰部脊柱管狭窄症患者さんでは、薬の飲みすぎ「ポリファーマシー」の頻度が高いことが明らかにされた。
- 腰椎手術を行うことによって、痛み止めの薬だけでなく、消化管に対する薬も減少することが判明した。
- 高齢者の腰部脊柱管狭窄症に対する腰椎手術は、薬の飲みすぎ「ポリファーマシー」を防ぐ可能性が示唆された。
背景
超高齢社会の到来とともに、高齢者の薬の飲みすぎ「ポリファーマシー」が社会的な問題になっています。ポリファーマシーには明確な定義はありませんが、一日に5剤または6剤以上内服されている場合をポリファーマシーとすることが多く、ポリファーマシー自体は決して悪いことではないものの、内服薬が増えれば増えるほど、潜在的に不適切な処方が含まれるリスクが高くなり、転倒などを含む薬物有害事象や薬の飲み間違いにつながるといわれています。一般的に、高齢になるほど複数の病気にかかるリスクが高まるため、高齢者では処方される薬剤が多くなる傾向にありますが、今後我が国の高齢化が進むにつれて、医療費の高騰を招き、国の財政を圧迫することも指摘されています。腰部脊柱管狭窄症とは、脊柱管が狭くなることによって馬尾や神経根という神経が圧迫を受け、臀部から下肢の疼痛やしびれ感が生じる症候群とされています。我が国おいては500万人以上の患者数が推定され、高齢化が進むにつれてさらに増えるといわれています。治療においては、まず薬物療法、ブロック注射、運動療法などの保存療法が行われますが、効果がない場合や日常生活に大きく支障をきたしている場合は手術が行われ、手術の治療成績もおおむね良好であることが知られています。腰部脊柱管狭窄症では、慢性的な腰痛や足のしびれ感や痛みのために、痛み止めの薬が処方されることが多く、また、高齢者では他の病気を持っている方も多いことから、高齢の腰部脊柱管狭窄症患者ではポリファーマシーの割合が高いことが予想されていました。しかしながら、実際にどれぐらいの割合の患者さんがポリファーマシーに該当し、また、手術を行うことによってポリファーマシーの割合が変化するのかは分かっていませんでした。