プレスリリース

表皮幹細胞の増殖を抑制するタンパク質の存在を確認

インヒビンβA(アクチビンA)が幹細胞の増殖を抑え表皮を薄くする 

本学 医学部応用細胞再生医学講座(教授:赤松 浩彦)及び皮膚科学講座(教授:杉浦 一充)は日本メナード化粧品株式会社(愛知県名古屋市中区丸の内3-18-15、代表取締役社長:野々川 純一)と共同で、老化により表皮幹細胞が減少する仕組みについて研究を進めてきました。今回、インヒビンβA(アクチビンA)と呼ばれるタンパク質が加齢に伴い表皮全体で増加すること、表皮幹細胞の増殖を抑制することを見出しました。このタンパク質が皮膚の再生能力の低下に影響すると推測されます。

皮膚の最も外側を構成する表皮は、加齢に伴い薄くなること(菲(ひ)薄化(はくか))や新陳代謝(ターンオーバー)が遅くなることが知られています。これらの変化には表皮細胞を生み出す「表皮幹細胞」の減少が関連していることがわかってきていますが、表皮幹細胞を減少させる原因については未だ不明な点も多く存在しています。


加齢により表皮で増加するタンパク質が表皮幹細胞を減少させる

共同研究グループはこれまで、皮膚の幹細胞に着目し、老化との関係について研究を続けてきました。今回、表皮において「インヒビンβA(アクチビンA)」と呼ばれるタンパク質が加齢に伴い増加し、表皮幹細胞の増殖を抑制することを発見しました。実際にインヒビンβA(アクチビンA)が多い表皮では表皮幹細胞が減少していること、インヒビンβA(アクチビンA)が表皮組織を菲薄化させることも確認しました。
以上の結果から、皮膚の健康や若々しさを保つためには、加齢で増加するインヒビンβA(アクチビンA)の量を抑えることが重要だと考えられました。今後、さらに解析を進め、皮膚においてインヒビンβA(アクチビンA)を制御する技術の開発を進めてまいります。
なお、本研究の成果は科学雑誌「Journal of Dermatological Science」にオンライン掲載されました。

参考資料

1.加齢に伴い表皮のインヒビンβA(アクチビンA)が増加する
老化した細胞は、その周囲の組織や細胞に対して機能を低下させる様々なタンパク質を分泌することがわかってきています。今回は、老化した細胞が分泌するタンパク質の中でも特にインヒビンβA(アクチビンA)と呼ばれるタンパク質に注目し、表皮の老化にどのように関与しているのか検証しました。

若齢者(8-37歳、計21名)と高齢者(61-77歳、計21名)の皮膚組織を解析した結果、インヒビンβA(アクチビンA)は加齢に伴い表皮全体で増加していることがわかりました(図1)。また、インヒビンβA(アクチビンA)が多い表皮は組織の厚さが薄く、菲薄化している様子も観察されました。以上の結果から、インヒビンβA(アクチビンA)は表皮の老化に関与すると考えられました。

図1 表皮におけるインヒビンβA(アクチビンA)の加齢変化

2.インヒビンβA(アクチビンA)が多い表皮では表皮幹細胞が減少している
インヒビンβA(アクチビンA)が表皮の老化にどのように関与しているのか詳細に解析するため、高齢者(60-77歳、計15名)の表皮について、インヒビンβA(アクチビンA)の量、表皮幹細胞の数、基底層※1の増殖細胞※2の数について調べました。その結果、インヒビンβA(アクチビンA)が多い表皮では、表皮幹細胞や増殖細胞の数が少ないことがわかりました(図2)。この結果から、インヒビンβA(アクチビンA)は、表皮幹細胞の減少や基底層の細胞の増殖抑制に関与していると考えられました。

※1 基底層:表皮の一番下を構成する層。表皮幹細胞と、表皮幹細胞からつくられる基底細胞から構成される。基底層の細胞が増殖することで、新しい表皮細胞がつくられる。

※2増殖細胞:ここでは、表皮幹細胞および基底細胞のうち、増殖している細胞。



図2 インヒビンβA(アクチビンA)の発現量が異なる同年代の表皮の比較


3.インヒビンβA(アクチビンA)は表皮幹細胞の増殖を抑制する
表皮幹細胞に対するインヒビンβA(アクチビンA)の作用を検証するため、表皮幹細胞の培養液にインヒビンβA(アクチビンA)を添加して培養を行いました。その結果、インヒビンβA(アクチビンA)の添加量が増えるほど、表皮幹細胞の増殖が抑えられていました(図3)。つまり、インヒビンβA(アクチビンA)は、表皮幹細胞の増殖を抑制する作用があることがわかりました。

図3 インヒビンβA(アクチビンA)による表皮幹細胞の増殖抑制効果


4.インヒビンβA(アクチビンA)は表皮を薄くする
インヒビンβA(アクチビンA)が表皮の構造に与える影響を評価するため、表皮幹細胞を用いた三次元培養表皮モデル※3にインヒビンβA(アクチビンA)を添加して培養し、表皮の状態について解析しました。その結果、インヒビンβA(アクチビンA)を添加した表皮モデルでは、添加なしの表皮モデルに比べ組織の厚さが薄くなりました。この表皮モデルを詳細に解析したところ、インヒビンβA(アクチビンA)の添加によって基底部の増殖細胞数が減少していました(図4)。以上の結果から、インヒビンβA(アクチビンA)による表皮幹細胞の増殖抑制が肌の菲薄化につながると考えられました。

※3 三次元培養表皮モデル:
培養細胞から人工的に作製する、表皮構造を再現したモデル。

図4インヒビンβA(アクチビンA)による表皮モデルの菲薄化




本研究から、インヒビンβA(アクチビンA)は表皮幹細胞の増殖を抑制することで表皮組織を菲薄化させると考えられました。そのため、加齢に伴うインヒビンβA(アクチビンA)の増加を抑制することができれば、表皮幹細胞の維持や表皮の老化防止につながると期待されます。

文献情報

 雑誌名

Journal of Dermatological Science

論文タイトル

Increase in Inhibin beta A/Activin-A expression in the human epidermis and the suppression of epidermal stem/progenitor cell proliferation with aging

著者

堀田 美佳1,3,4、長谷川 靖司2,3,4、長谷部 祐一3,4、井上 悠3,4、奥野 凌輔3,4、有馬 豪2、岩田 洋平2、杉浦 一充2、赤松 浩彦1

所属

1 藤田医科大学医学部 応用細胞再生医学講座
2 藤田医科大学医学部 皮膚科学講座
3 日本メナード化粧品株式会社 総合研究所
4 名古屋大学大学院 医学系研究科 名古屋大学メナード協同研究講座

DOI

10.1016/j.jdermsci.2022.05.001