経腸栄養剤が腸内環境に及ぼす新たなメカニズムを解明~経腸栄養に伴う腸内細菌叢の多様性低下の予防法、治療法開発への期待~
本学 脳神経外科学、総合消化器外科学、消化器内科学の合同研究グループは、株式会社メタジェン(本社:山形県鶴岡市、代表取締役社長CEO:福田真嗣)と共同で、経腸栄養剤が腸内環境に及ぼす影響の一部を解明しました。経腸栄養剤は、栄養学的な観点から様々な研究が行われていますが、本研究の結果から、経腸栄養剤を使用する場合、栄養学的視点のみならず、腸内細菌叢への影響も考慮する必要があるという新たな視点につながる可能性が示唆されました。
本学では、本研究成果をもとに、腸内環境を改善する素材である「プロバイオティクス/プレバイオティクス」の視点を視野に、経腸栄養剤の研究をさらに深めていく予定です。
研究成果のポイント
(1)経腸栄養患者では健常者と比較して重要な腸内細菌が少なく、免疫機能も低いため、疾患にかかりやすい可能性が示唆されました。
(2)今回実施したプロバイオティクスの摂取は腸内細菌叢を改善するまでには至らないものの、一部の腸内代謝物質の変動を促すことがわかりました。
(3)経腸栄養に伴う腸内細菌叢の多様性低下の予防法・治療法の開発につながることが期待されます。
背景
経腸栄養剤は、腸を使用する点においてすぐれた栄養剤の投与方法であり、栄養学的にも様々な視点から研究されています。一方、近年、急速に注目が集まっている「腸内環境」に対し「経腸栄養剤」が及ぼす影響は十分に解明されていませんでした。
経腸栄養剤は、交通事故による遷延性意識障害患者へ用いることが多くあります。経腸栄養剤が、患者の身体へ及ぼす影響を調べ、治療に役立てることを目的に、本学が独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)から受託している一貫症例研究型委託病床事業の一環として本共同研究を実施しました。
研究手法・研究成果
健常な日本人(10名)と経腸栄養剤を使用している遷延性意識障害(植物状態)患者*(10名)から糞便を採取し、腸内細菌と腸内代謝物質の組成について評価しました。その結果、経腸栄養患者では健常者と比べて腸内細菌叢の多様性が有意に低いことが判明しました。また、経腸栄養患者では健常者と比較して、ヒトの善玉菌として報告されているBifidobacterium(ビフィズス菌)やFaecalibacteriumやRoseburiaなどの健康に関わることが報告されている酪酸産生菌が少ないこと、免疫機能の向上に関係する酪酸やピルビン酸などの腸内代謝物質が有意に少ないことが判明しました。また、経腸栄養と同時にプロバイオティクスの一種であるClostridium butyricum MIYAIRI 588を摂取すると、腸内代謝物質の一部は増加するものの、腸内細菌叢は改善しないことが明らかになりました。これらの結果から、経腸栄養患者では健常者と比較して重要な腸内細菌が少なく、免疫機能が低いことで疾患にかかりやすい可能性が示唆されました。また、プロバイオティクスの摂取は腸内細菌叢を改善するまでには至らないものの、一部の腸内代謝物質の変動を促すこともわかりました。
*独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)の委託病床の一つである「一貫症例研究型委託病床」の「意識障害回復センター」に入院された患者さんにご協力いただきました。
今後の展開
本共同研究により、経腸栄養がもたらすヒト腸内環境への影響の一部が明らかになりました。今後、より大規模な研究を行うことで、経腸栄養がもたらす腸内環境変動の詳しいメカニズムが解明され、経腸栄養に伴う腸内細菌叢の多様性低下の予防法・治療法の開発につながることが期待されます。
文献情報
論文タイトル
The Effects of Enteral Nutrition on the Intestinal Environment in Patients in a Persistent Vegetative State (遷延性意識障害患者の腸内環境に経腸栄養が与える影響)著者
松岡 宏1、栃尾 巧2、渡邉 彩子2、舩坂 好平2、廣岡 芳樹2、Tenagy Hartanto3、富樫 友花3、
齋藤 美沙3、西本 悠一郎3、水口 佳紀3、公文 将備4、櫻木 千恵子5、須田 康一1、廣瀬 雄一4、森田 功4
齋藤 美沙3、西本 悠一郎3、水口 佳紀3、公文 将備4、櫻木 千恵子5、須田 康一1、廣瀬 雄一4、森田 功4
所属
1 藤田医科大学 総合消化器外科学
2 藤田医科大学 消化器内科学
3 株式会社メタジェン
4 藤田医科大学 脳神経外科学
5 藤田医科大学病院
掲載誌
Foods
掲載日
2022年2月14日