プレスリリース

総合医科学研究所 貝淵弘三教授らの研究成果が国際科学誌「Cells」オンライン版に掲載されました

 脳神経系タンパク質のリン酸化をまるごと理解
データベース「KANPHOS」を公開
~精神神経疾患の病因・病態解明につながる可能性~


本学 総合医科学研究所 貝淵弘三教授、精神・神経病態解明センター 永井拓教授、医学部医用データ科学 吉本潤一郎教授、名古屋大学大学院医学系研究科 山田清文教授、天野睦紀准教授、金沢大学医薬保健研究域医学系 観音隆幸特任助教らの研究グループは、脳神経系のタンパク質リン酸化データベースであるKANPHOS(kinase-associated neural phospho-signaling)を公開しました。
KANPHOSデータベースでは、データ駆動型研究の基盤となるタンパク質リン酸化の情報を提供するとともに、webツールや関連データベースを用いてそれらタンパク質・シグナルネットワークが関与する生理機能や関連疾患の情報を容易に引き出せる設計になっています。このデータベースの提供する情報基盤を活用した研究により、精神神経疾患の病因・病態の解明や治療戦略の創出などにつながることが期待されます。
研究成果と詳細は、国際科学誌Cells(セルズ)に、2021年12月24日正午(スイス国時間)にオンライン版で発表されました。
 

研究成果のポイント

  • 脳神経系のタンパク質リン酸化※1データベースであるKANPHOS (kinase-associated neural phospho-signaling) を公開しました
  • KANPHOSは、タンパク質リン酸化の情報をデータ駆動型研究の基盤として開発されたデータベースで、関連疾患等の情報を容易に活用できるようにデザインされています
  • データベースの提供する情報基盤を活用した研究により、精神神経疾患の病因・病態の解明や治療戦略の創出などにつながることが期待されます


背景

タンパク質のリン酸化に関する情報は、がんや様々な精神神経疾患の病因・病態の解明、治療法の開発に非常に重要です。そのため様々な公開データベース上に2万種類以上のリン酸化タンパク質とそのリン酸化部位(28万部位以上)の情報がまとめられています。しかしながら、各リン酸化部位がどのプロテインキナーゼ※2によって制御されているのかはほとんど解明されていません。

研究手法・研究成果

藤田医科大学総合医科学研究所の研究グループは、脳神経系の組織、細胞におけるタンパク質リン酸化ネットワークを網羅的に調べ、それらの機能を解析しています。独自に開発した手法により、リン酸化部位毎の責任キナーゼや上流のシグナルの情報を紐づけたリン酸化シグナルネットワークのデータを多数蓄積しています。ドーパミンやアセチルコリン、アデノシンなどの神経伝達物質※3により活性化されるキナーゼを明らかにし、リン酸化が亢進するタンパク質とそのリン酸化部位を同定してきました。本研究では、蓄積したタンパク質リン酸化の情報をデータ駆動型研究の基盤として広く提供できるように、また、個々のリン酸化情報が関与する生理機能や関連疾患の情報をwebツールや関連データベースを用いて容易に活用できることを目指したデータベースを開発しました。
 

KANPHOSデータベースでは、タンパク質リン酸化の情報を閲覧するだけでなく、ドーパミンやアセチルコリン、アデノシンなどの神経伝達物質によりリン酸化が亢進するタンパク質を網羅的に探索できます。さらに、それらタンパク質・シグナルネットワークが関与する生理機能や関連疾患の情報をwebツールや関連データベースから容易に引き出せるようになっています。遺伝子変異やノックアウトマウスの情報へも容易にアクセスできます。ドーパミンやアセチルコリン、アデノシンなどの神経伝達物質は情動や記憶を制御して、精神疾患や認知症の病態に関与することが知られています。KANPHOSが提供するタンパク質のリン酸化シグナル情報は、脳の生理機能や精神神経疾患の病因・病態の理解と治療法の開発などをサポートする非常に有用なツールになります。

今後の展開

公開されたKANPHOSデータベースには、約1万のリン酸化情報が登録されています。追加されていくリン酸化情報として、様々な神経伝達物質による脳部位特異的なリン酸化シグナルの情報を収得中です。また、将来的にはがん細胞や脳以外の組織に対するリン酸化情報を追加する計画になっています。このデータベースの提供する情報基盤の活用により、統合失調症やアルツハイマー型認知症のような精神神経疾患の病因・病態の解明や治療戦略の創出につながる研究成果の導出が期待されます。


用語解説

※1 タンパク質リン酸化

タンパク質の機能のスイッチオンオフを行う機構の一つ。プロテインキナーゼ※2によるリン酸基の付加とプロテインホスファターゼ※4による脱リン酸化によってタンパク質の機能が制御される。

※2 プロテインキナーゼ

ターゲットのタンパク質(基質)にリン酸基を付加する酵素。ヒトで500以上のキナーゼがあり、キナーゼごとにリン酸化する基質が決まっている基質特異性を持つ。一つのキナーゼがリン酸化する基質の数はキナーゼによりさまざまである。

※3 神経伝達物質

神経から神経、神経から筋肉等の組織へ信号を伝達する低分子の化学物質。アセチルコリン、アドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどのアミン類、グルタミン酸、グリシン、GABAなどのアミノ酸類、エンドルフィンのようなペプチド類など、多種多様な物質が神経伝達物質として働いていることが知られている。

※4 プロテインホスファターゼ

リン酸化したタンパク質から加水分解によりリン酸基を除く脱リン酸化酵素。

文献情報

論文タイトル

KANPHOS: A Database of Kinase-Associated Neural Protein Phosphorylation in the Brain

著者

Rijwan Uddin Ahammad 4) 、西岡朋生1)、吉本潤一郎3)、観音隆幸6)、天野睦紀4)、船橋靖広1)、坪井大輔1)、Md. Omar Faruk 4)、山橋幸恵1)、山田清文5)、永井拓2)、貝淵弘三1,4)

所属

1)藤田医科大学 総合医科学研究所
2)藤田医科大学 精神・神経病態解明センター 神経行動薬理学研究部門
3)藤田医科大学 医学部 医用データ科学
4)名古屋大学大学院医学系研究科 神経情報薬理学
5)名古屋大学大学院医学系研究科 医療薬学
6)金沢大学医薬保健研究域医学系

DOI

10.3390/cells11010047