IL-36Raが皮膚虚血再灌流障害に 深く関与することを世界で初めて発見
~難治性皮膚潰瘍の治療薬開発につながる可能性~
本学医学部皮膚科学の杉浦一充教授、岩田洋平准教授、田中義人医師らの研究グループは、IL36RN遺伝子機能欠失変異(IL-36Ra欠損)に着目し、褥瘡や膠原病のレイノー症状などを代表とする皮膚虚血再灌流障害における創傷治癒の病態解析を行いました。今回の研究により、IL-36Ra欠損により皮膚虚血再灌流障害における創傷治癒が有意に遅延することが明らかになりました。機序としては、創傷組織の虚血に伴い壊死した表皮細胞から放出されたHigh-mobility group box 1 (HMGB1)※1が、TLR4シグナル経路を介して過剰なサイトカインおよびケモカインを産生し、創傷組織に炎症細胞を過剰に浸潤させ、好中球細胞外トラップ(NET)※2形成を亢進させることが示唆されました。またTLR4阻害薬(TAK-242)、およびNET形成を阻害するPAD阻害薬(Cl-amidine)を投与すると、皮膚虚血再灌流障害における遅延した創傷治癒は正常化することも明らかにしました。今回の研究の成果により、皮膚虚血再灌流障害における創傷治癒の機序にはIL-36Raが深く関与しており、TLR4シグナルやNETなどが治療ターゲットとなり得る可能性が示唆されました。
本研究成果は、欧州の学術ジャーナル「Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology」で発表され、併せてオンライン版が2021年10月26日に公開されました。
研究成果のポイント
- 皮膚虚血再灌流障害におけるIL-36Raの役割を世界で初めて発見した
- 皮膚虚血再灌流障害の病態として、①壊死した細胞からHMGB1が放出、②TLR4を介して炎症性サイトカインが放出、③創傷組織に炎症細胞が過剰に浸潤、④NET形成が過剰に亢進し、創傷治癒が遅延する可能性を示唆した
- TLR4阻害薬(TAK-242)、およびPAD阻害薬(Cl-amidine)は、皮膚虚血再灌流障害の治療薬のターゲットとなる可能性を示唆した
背景
IL-36は、IL-36受容体と結合し炎症反応を惹起するが、IL-36受容体アンタゴニスト※3(IL-36Ra)は、IL-36受容体に拮抗的に結合することで炎症反応が過剰にならないように抑制しています。当教室では、このIL-36Raの機能を欠損したノックアウトマウス(Il36rn-/-マウス)を所有しており、IL-36Raが乾癬、創傷治癒、接触過敏反応など様々な皮膚の炎症性疾患の病態に深く関与していることを証明してきました。高齢者や寝たきり患者に発生することの多い褥瘡や、膠原病のレイノー症状などに由来する皮膚潰瘍は、難治性の慢性皮膚疾患です。これらの難治性皮膚潰瘍に二次感染を合併した場合には、創部感染から敗血症に至り死亡する危険性も高く、病態解析や治療法に関する研究について近年非常に注目を集めています。
研究手法
1.IL36RN遺伝子をノックアウトしたIl36rn-/-マウス(KO)と野生型マウス(WT)に皮膚虚血再灌流障害を生じさせ、再灌流後の創傷面積を測定し評価した。また、創傷組織に浸潤している炎症細胞数を評価した。2.創傷組織におけるサイトカイン、ケモカインをリアルタイムRT-PCRで評価した。
3.創傷組織におけるアポトーシス、HMGB1発現、NET形成、血清HMGB1濃度を評価した。
4.マクロファージ、HaCaT細胞を刺激し、サイトカインのmRNA発現を評価した。
5.TLR4阻害薬(TAK-242)、PAD阻害薬(Cl-amidine)をKOマウスとWTマウスに投与し、創傷治癒に与える影響を評価した。
研究成果
1. KOマウスは、WTマウスと比較して皮膚虚血再灌流障害による創傷治癒を有意に遅延した。2.KOマウスは、再灌流4時間後の好中球、および再灌流72時間後のマクロファージの創傷組織への浸潤が促進した
3.KOマウスは、WTマウスと比較して創傷組織におけるNET形成が亢進した。
4.TAK-242、Cl-amidineは、KOマウスの遅延した創傷治癒を正常化させた。
今後の展開
今回、皮膚虚血再灌流障害における創傷治癒の病態にIL-36Raが深く関与しているという基礎データを提供することができました。今後、TLR4シグナルやNETなどを標的とした治療薬の開発が期待されます。用語解説
※1 High-mobility group box 1 (HMGB1)
主に細胞の核内に蓄積されているタンパク質。炎症や感染の際に、細胞外に放出されて炎症性サイトカインとして機能し、炎症応答を促進させる※2 好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular traps, NET)
好中球が自らのDNAを細胞外に放出することでできる機構。DNA、ヒストン、好中球エラスターゼなどの細胞内抗菌蛋白を含む網目構造※3 アンタゴニスト
受容体に拮抗的に結合して、細胞内のシグナル伝達を阻害する作用のある物質のこと文献情報
論文タイトル
Cutaneous ischemia-reperfusion injury is exacerbated by IL-36 receptor antagonist deficiency著者
田中 義人1), 岩田 洋平1),齋藤 健太1),福島 英彦1),渡邊 総一郎1), 長谷川 由梨恵1), 秋山 真志2),杉浦 一充1)所属
1)藤田医科大学 医学部皮膚科学2)名古屋大学大学院医学系研究科 皮膚科学