プレスリリース

本学 病理診断学 桒原一彦講師らの研究成果が米国カナダ病理学会誌「Laboratory Investigation」に表紙掲載されました

 乳癌における化学療法の感受性亢進メカニズムの発見
ー DSS1の新規抗がん治療標的としての可能性 ー


本学医学部 病理診断学 桒原一彦講師、臨床検査科 酒井康弘講師、分子腫瘍学 鈴木元教授、本学 岡崎医療センター黒田誠特命教授、本学 ばんたね病院病理部 川島佳晃主任らの研究グループは愛知県がんセンター、名古屋市立大学、熊本大学、フロリダ大学、タイ ナレスアン大学、インドネシア パジャジャラン大学との共同研究で、乳癌の化学療法感受性亢進の標的になる分子を明らかにしました。
乳癌の癌抑制遺伝子として知られるBRCA2は遺伝子修復に重要な機能を有しており、この遺伝子の機能喪失性変異が起こると乳癌や卵巣癌が発症しやすくなることが知られています。研究グループは、BRCA2安定化分子であるDSS1に着目し、化学療法感受性がこの分子の発現量に依存することを見出し、しかも化学療法感受性自体はBRCA2非依存的であることがわかりました。今後はDSS1を標的として、より効果的かつ安全な抗がん化学療法の開発が可能となることが期待されます。
本研究成果は米国カナダ病理学会誌「Laboratory Investigation」2021年8月号に表紙掲載され、Monthly Readers’ Choiceで注目すべき論文の一つとして紹介されています。なおオンライン版は2021年5月24日に公開されています。
 

研究成果のポイント

  • BRCA2の安定化因子であるDSS1の発現が低下すると化学療法感受性が亢進し、しかも化学療法感受性はBRCA2の発現とは無関係です
  • DSS1は正常乳腺組織では発現が低いですが、癌組織では発現上昇がみられることから、副作用の少ない治療標的となることが期待されます

 

研究成果

化学療法は癌治療の4本の柱の一つですが、正常組織への副作用が常に問題となります。投与する抗がん剤の量をなるべく減らすことが重要であり、そのためには薬剤感受性を亢進させるという新たな戦略が必要です。研究グループは乳癌の癌抑制遺伝子として知られるBRCA2に結合し、BRCA2の安定化に関与する分子DSS1に着目しました。DSS1の発現が低くなると抗がん剤に対する感受性が亢進し、そのメカニズムとしてDNA傷害が誘導されている可能性が考えられました。一方で、DSS1を発現低下させるとBRCA2分子の発現も低下しますが、BRCA2を発現低下させてもDNA傷害は誘導されませんでした。このことからDSS1発現低下による化学療法感受性の亢進はBRCA2とは無関係に起こることがわかりました。
DSS1発現低下を誘導することによる正常細胞への影響を調べるため、乳癌組織を用いた免疫組織染色でDSS1の発現を検討しました。その結果、正常乳腺ではDSS1の発現はほとんどみられず、乳癌では発現が上昇していました(図1)。これらの結果から、乳癌においてDSS1の発現を低下させることでDNA傷害を誘導し、化学療法感受性を亢進させるという新しい抗がん治療戦略が期待されます。

今後の展開

低分子化合物やsiRNAを利用することで乳癌細胞のDSS1を低下させ、化学療法の感受性を亢進させることが可能となります。このことは投与する抗がん剤の減量につながり、より低濃度で効果的な治療を行うことで副作用の軽減が期待できます。また、今回の結果は乳癌以外の他の癌腫にも応用可能であると考えています。

 

文献情報

雑誌名

Laboratory Investigation

論文タイトル

Increased chemosensitivity via BRCA2-independent DNA damage in DSS1- and PCID2-depleted breast carcinomas.

著者

権藤なおみ4,5, 酒井康弘1, Zhenhuan Zhang6, 波戸ゆかり7,葛島清隆4, Suchada Phimsen8, 川島佳晃2, 黒田誠3, 鈴木元1, 岡田誠治9,岩田広治5,遠山竜也7, Andri Rezano10, 桒原一彦1,4

所属

1 藤田医科大学
2 藤田医科大学ばんたね病院
3 藤田医科大学岡崎医療センター
4 愛知県がんセンター研究所
5 愛知県がんセンター病院
6 フロリダ大学
7 名古屋市立大学大学院
8 ナレスアン大学
9 熊本大学
10 パジャジャラン大学

DOI