プレスリリース

皮膚から老化細胞が排除されるメカニズムを解明

 タンパク質「JAG1」が皮膚における老化細胞の排除を制御している

藤田医科大学医学部 応用細胞再生医学講座 赤松 浩彦教授および皮膚科学講座 杉浦 一充教授は、日本メナード化粧品株式会社と共同で皮膚(表皮)の新陳代謝(ターンオーバー)における老化細胞の排出について、「ジャグ1(JAG1)」と呼ばれるタンパク質が大きく関与していることを発見しました。加齢や紫外線などによって「JAG1」の発現が弱まると、ターンオーバーが停滞し表皮に老化細胞が蓄積してしまうことを突き止めました。
つまり、皮膚のターンオーバーを正常に行うためには、「JAG1」の発現を維持または高めることが重要であると考えられます。

皮膚の表皮の生まれ変わりは「ターンオーバー」と呼ばれ、約28日間かけて細胞が入れ替わっていると言われています。ターンオーバーでは、表皮幹細胞から角化細胞が生み出され、古くなった角化細胞は新しく生み出された角化細胞に押し上げられて最終的に垢となって体外へ排除されています。これまでの研究から、加齢とともに表皮のターンオーバーは停滞することがわかって います。
今回、表皮の角化細胞の表面にある「ジャグ1(JAG1)」と呼ばれるタンパク質が、老化した細胞の排出を担っていることが明らかとなりました。また、加齢によってJAG1の発現が低下すると、老化細胞の排出が機能せず、表皮に蓄積してしまうことを発見しました。
この結果から、表皮の角化細胞のJAG1の発現を維持・向上させることができれば、加齢によって遅延する表皮のターンオーバーを正常に行わせることが可能となり、皮膚の再生能力が高まると期待されます。
なお、本研究の成果は「Experimental dermatology」オンライン版に掲載されました。

1.表皮のターンオーバーを制御するJAG1とNOTCH1

老化細胞は、炎症性物質など、組織の老化を促進する物質(悪性因子)を周囲に分泌することが知られており、この現象は細胞老化随伴分泌現象(SASP : Senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれています。近年、老化細胞はSASPを介して組織の老化や疾患発症を引き起こすことが示されており、組織内への老化細胞の蓄積を防ぐ技術の開発に注目が集まっています。
皮膚においても、表皮の角化細胞は、紫外線や酸化ストレスなどによって老化が進行すると、炎症性物質などの皮膚組織にダメージを与える物質(SASP因子)を分泌するようになることが知られています。
本来であれば、このような老化した細胞は排除され、新しい細胞が供給されます。この細胞の生まれ変わりは「ターンオーバー」と呼ばれ、これまでも美容において重要な生理現象として研究が進められていますが、未だ不明な点が多く残されています。
今回、表皮のターンオーバーが遅延し、老化した細胞が蓄積している皮膚を詳細に解析した結果、表皮の基底層に存在する角化細胞の表面に発現している「ジャグ1(JAG1)」と呼ばれるタンパク質の発現が低下していることが分かりました(図1)。また、老化した細胞は「ノッチ1(NOTCH1)」と呼ばれるタンパク質を特異的に発現していることも確認できました(図2)。なお、本研究は、藤田医科大学医学研究倫理審査委員会にて承認後、研究にご協力いただける方より同意を得て、手術時に余剰となった皮膚を用いて実施しました。
これまでの研究から、JAG1とNOTCH1はお互いに結合し機能することが報告されています。ターンオーバーにおいてもこれらのタンパク質が大きく関与していることが予測されました。

図1 加齢に伴いJAG1の発現が低下する


図2 老化細胞はNOTCH1を発現している

2.JAG1の発現が低下すると表皮のターンオーバーが遅延し、老化細胞が蓄積する

JAG1の発現の低下が表皮のターンオーバーに及ぼす影響について、三次元培養表皮(人工皮膚モデル)を作製し、表皮の状態について解析しました。この時、老化した細胞の挙動を観察するために、一部、老化した細胞を標識(赤色)したものを使用しました。
正常な三次元培養表皮と、JAG1の発現を低下させた三次元培養表皮を比較した結果、正常な表皮モデルでは、老化した細胞(赤色)は上層に排出されており、正常にターンオーバーが行われていることがわかりました。これに対して、JAG1の発現を低下させた表皮モデルでは、老化した細胞は基底層に留まり、上手く排出されていないことが明らかになりました(図3)。
つまり、JAC1の発現が低下すると、老化した角化細胞が排出されなくなり、表皮に蓄積しターンオーバーが停滞すると考えられました。老化した細胞からは、炎症性サイトカインなどの皮膚組織にダメージを与える物質(SASP因子)が分泌されるため、JAG1の発現の低下は皮膚の老化を加速させる要因になると考えられました。

図3 JAG1の発現低下により老化細胞が排出できなくなることで表皮のターンオーバーが停滞する


文献情報

雑誌名

Experimental dermatology

論文タイトル

Senescent cell removal via JAG1-NOTCH1 signalling in the epidermis

著者

吉岡 寿3 , 山田 貴亮1,2,3 , 長谷川 靖司2,3,4 , 宮地 克真3 , 石井 佳江1,3 ,長谷部 祐一3,4 , 井上 悠3,4 , 田中 浩3, 岩田 洋平2 , 有馬 豪2 ,杉浦 一充2, 赤松 浩彦1

所属

1 藤田医科大学 医学部 応用細胞再生医学講座
2 藤田医科大学 医学部 皮膚科学講座
3 日本メナード化粧品株式会社 総合研究所
4 名古屋大学大学院 医学系研究科 名古屋大学 メナード協同研究講座

DOI

10.1111/exd.14361