皮膚科学講座の研究成果が「Scientific Reports」に掲載されました
藤田医科大学医学部 皮膚科学 杉浦一充教授、岩田洋平准教授、齋藤健太医師らの研究成果が、2020年9月8日午前10時(UK time)付けのScientific Reportsに論文タイトル「IL-36 receptor antagonist deficiency resulted in delayed wound healing due to excessive recruitment of immune cells」で掲載されました。Scientific ReportsはNature Research社によって発刊されているオープンアクセスの学術雑誌の一つです。
研究の概要
創傷治癒は最も複雑な生物学的プロセスの一つです。炎症細胞の浸潤は、プロセスの炎症段階で非常に重要ですが、過剰な炎症性細胞浸潤は創傷治癒の遅延を引き起こします。今回、本学皮膚科の研究グループはIL36RN遺伝子機能欠失変異が創傷治癒に及ぼす影響について解析し、さらに自然免疫において中心的な役割を担うTLR4を阻害することで創傷治癒をほぼ正常化できることを明らかにしました。IL36RN遺伝子機能欠失変異(主に常染色体劣性ときに優性)は尋常性乾癬を伴わない汎発性膿疱性乾癬に代表される自己炎症性疾患の病因として知られており、日本人の約2%、中国人の約4%にこの機能欠失変異の保因者が存在しています。そのため、この機能欠失変異が皮膚疾患に及ぼす影響について解明することは臨床的に意義があります。
2:組織中のサイトカイン、ケモカインの評価ではIl36rn-/-マウスは野生型マウスと比較してIL-36γ、TGF-β、CXCL1の有意な増加を認めた。
3:病変部においてIL36rn-/-マウスが野生型マウスより有意な好中球とマクロファージの浸潤を認め、創傷治癒の遅延を認めたことから、このモデルにおける創傷治癒の過程には抗原非特異的な自然免疫系が重要な役割を果たしていると考えた。そこで我々は、自然免疫系の上流であるTLR4を阻害することで好中球浸潤を抑制し、創傷治癒を正常化させた。
研究の方法
- IL36RN遺伝子をノックアウトしたIl36rn-/-マウスと野生型マウスの背中に潰瘍を作り、創傷の3日後および7日後に潰瘍面積を測定し、病理学的検討も含めて創傷治癒の程度を評価した。更に浸潤している細胞数について検討も行った。
- Il36rn-/-マウスと野生型マウスの組織中のサイトカイン、ケモカインを評価するためにrt-PCRを行った。
- TLR4阻害薬であるTAK-242をそれぞれのマウスに投与し、創傷治癒過程において与える影響について検討した。
研究結果
1:Il36rn-/-マウスは野生型マウスと比較して3日目と7日目の両時点において創傷治癒遅延が有意に増強していることが示された。また、病理学的な検討を行った結果、Il36rn-/-マウスは野生型マウスと比較して浸潤する好中球とマクロファージの数に有意な増加を認めた。
2:組織中のサイトカイン、ケモカインの評価ではIl36rn-/-マウスは野生型マウスと比較してIL-36γ、TGF-β、CXCL1の有意な増加を認めた。
3:病変部においてIL36rn-/-マウスが野生型マウスより有意な好中球とマクロファージの浸潤を認め、創傷治癒の遅延を認めたことから、このモデルにおける創傷治癒の過程には抗原非特異的な自然免疫系が重要な役割を果たしていると考えた。そこで我々は、自然免疫系の上流であるTLR4を阻害することで好中球浸潤を抑制し、創傷治癒を正常化させた。
考察
創傷によって誘導されるIL-36は好中球などの炎症細胞を調整します。IL-36はIL-1サイトカインファミリーのメンバーであり、IL-1ra欠乏症は炎症細胞の浸潤を増加させ、創傷治癒を遅らせることが報告されています。IL36RN遺伝産物であるIL-36Raの機能が欠損することでIL-36Rを介したシグナルは持続的に活性化し、この活性化したシグナルはその下流にあるNF-κBやMAPKを介してIL-1βやTNF-α、IL-36γを産生します。TNF-αの増加はTh17細胞からのIL-17Aの産生を促進し、CXCL1やCXCL2などの好中球遊走性ケモカインを産生します。これらの好中球を誘導する経路はIL-36Raの機能欠損では、IL-36Rを持続的に刺激するため、病理組織所見における好中球浸潤の増加と一致しています。またTLR4阻害薬であるTAK-242は、角化細胞におけるヒアルロン酸による誘発性のIL-36の発現を減少させ、IL36rn-/-マウスへのTAK-242の投与は創傷治癒遅延を正常化しました。これらの結果から創傷治癒は、組織が創傷や炎症を起こすことで組織中にヒアルロン酸が蓄積し、TLR4の刺激することで、角化細胞およびマクロファージからの主にIL-36γやTGF-βなどのサイトカインの発現を増加させ、好中球やマクロファージなどの炎症細胞を創部に遊走させ、創傷治癒に重要な役割を果たすことを明らかにしました。
結語
我々の研究では、皮膚損傷初期に生成されたヒアルロン酸によって創傷治癒過程におけるIL-36Raの役割のメカニズムを解析し、IL-36Raの機能欠損は、IL-36が創傷皮膚の炎症細胞を過剰に誘導し、創傷治癒の遅延をもたらす可能性があることを明らかにしました。IL-36は尋常性乾癬やアトピー性皮膚炎などの様々な炎症性疾患に関連しているため、この結果は様々な炎症性皮膚疾患の病態生理を解明する手掛かりになると考えました。
研究グループ
藤田医科大学医学部 皮膚科学
齋藤 健太、岩田 洋平、福島 英彦、渡邊 総一郎、田中 義人、長谷川 由梨恵、杉浦 一充
名古屋大学医学部 皮膚科
秋山 真志
齋藤 健太、岩田 洋平、福島 英彦、渡邊 総一郎、田中 義人、長谷川 由梨恵、杉浦 一充
名古屋大学医学部 皮膚科
秋山 真志
本研究に関するお問い合わせ
藤田医科大学医学部 皮膚科学
教授 杉浦 一充
TEL:0562-93-9256
E-mail:ksugiura@fujita-hu.ac.jp