プレスリリース

皮膚科学講座の研究成果が「Scientific Reports」に掲載されました

自然免疫を標的とした接触皮膚炎の制御

藤田医科大学 皮膚科学 杉浦一充教授、岩田洋平准教授、福島英彦医師らの研究成果が、2020年1月20日午前10時(UK time)付けのScientific Reportsに論文タイトル「TAK-242 ameliorates contact dermatitis exacerbated by IL-36 receptor antagonist deficiency」で掲載されました。Scientific ReportsはNature Research社によって発刊されているオンラインでオープンアクセスの学術雑誌の一つです。
 

研究の概要

アレルギー性接触皮膚炎の成立過程は大きく感作相と惹起相に大別される。感作相は抗原特異的T細胞がリンパ節で誘導される相であり、惹起相は再侵入した抗原に対して抗原特異的T細胞が反応し、活性化されて種々のサイトカインを産生することで抗原の排除とともに炎症が誘導される相である。しかし、惹起相は感作相に比べて多数の細胞が複雑に絡み合って形成される反応のため、そのメカニズムについてはまだ不明な点が多いといわれている。今回本学 皮膚科の研究グループはIL36RN遺伝子機能欠失変異が接触皮膚炎に及ぼす影響について解析し、さらに、自然免疫において中心的な役割を担うTLR4を阻害することで接触皮膚炎反応を抑制できることを明らかにした。IL36RN遺伝子機能欠失変異(主に常染色体劣性ときに優性)は尋常性乾癬を伴わない汎発性膿疱性乾癬に代表される自己炎症性疾患の病因として知られており、日本人の約2%、中国人の約4%にこの機能欠失変異の保因者が存在している。そのため、この機能欠失変異が皮膚疾患に及ぼす影響について解明することは臨床的に意義があると考えている。

研究の方法

  1. IL36RN遺伝子をノックアウトしたil36rn-/-マウスとwild-typeマウスの耳介に0.5%DNFBを塗布して感作させ、その5日後に0.2%DNFBを再度耳介に塗布して接触皮膚炎反応を惹起させた。惹起後24時間と48時間で耳介の厚さを測定し、病理学的検討も含めて接触皮膚炎反応の程度を評価した。更に浸潤している細胞数について検討も行った。
  2. Il36rn-/-マウスとwild-typeマウスの組織中のサイトカイン、ケモカインを評価するためにrt-PCRを行った。
  3. TLR4阻害薬であるTAK-242をそれぞれのマウスに投与し、接触皮膚炎反応に与える影響について検討した。

研究結果

  1. Il36rn-/-マウスはwild-typeマウスと比較して24時間と48時間の両時点において接触皮膚炎反応が有意に増強していることが示された。また、病理学的な検討を行った結果、il36rn-/-マウスはwild-typeマウスと比較して浸潤する好中球、CD4+T細胞、CD8+T細胞の数の有意な増加を認めた。 (n=26 mice, **p<0.01) 
  2. 組織中のサイトカイン、ケモカインの評価ではIl36rn-/-マウスはwild-typeマウスと比較してIL-1β、IL-17A、TNF-α、CXCL1、CCL4、IL-36α、IL-36γ、IL-23p19、EBI3の有意な増加を認めた。(n=26 mice; *p<0.05, **p<0.01
  3.  

  4. 病変部においてIL36rn-/-マウスがwild-typeマウスより有意な好中球浸潤を認めたことから、このモデルにおける接触皮膚炎反応には抗原非特異的な自然免疫系が中心的な役割を果たしていると考えた。そこで我々は、自然免疫系の上流であるTLR4を阻害することで好中球を中心とした接触皮膚炎反応を抑制することに成功した。さらに、TLR4を阻害することでil36rn-/-マウスにおける接触皮膚炎反応の抑制だけではなく、wild-typeマウスにおいても接触皮膚炎反応が抑制されることを明らかにした。(n=26 mice, **p<0.01)

  5.  

    考察

接触皮膚炎反応はil36rn-/-マウスにおいて増強され、これは好中球の増加に起因したものだと考えられる。実際に最近のいくつかの研究では感作相、惹起相の両方において好中球の重要性が報告されている。IL36RN遺伝産物であるIL-36Raの機能が欠損することでIL-36Rを介したシグナルは持続的に活性化する。この活性化したシグナルはその下流にあるNF-κBやMAPKを介してIL-1βやTNF-α、IL-36γを産生する。TNF-αの増加はTh17細胞からのIL-17Aの産生を促進し、CXCL1やCXCL2などの好中球遊走性ケモカインを産生する。さらに、IL-36γの下流にあるIL-39はIL-23p19とEBI3の二量体として存在し、IL-39もまた好中球の誘導に関与しているとの報告がある。実際にil36rn-/-マウスの病変ではIL-23p19とEBI3の上昇が確認出来ていることから、IL-39の増加による好中球の誘導も促進していると推測される。これらの好中球誘導経路はIL-36Rを介して持続的に引き起こされており、病理組織所見における好中球浸潤の増加と一致している。
TLR4阻害薬であるTAK-242は接触皮膚炎反応の感作相と惹起相の両方の過程を抑制すると考えられる。感作相におけるTAK-242の働きとしてはハプテンが皮膚より侵入して樹状細胞のような抗原提示細胞に補足される過程を阻害する。これにより、皮膚樹状細胞は所属リンパ節へ遊走されず抗原特異的ナイーブT細胞への抗原提示が行われなくなる。この過程を阻害することでil36rn-/-マウスとwild-typeマウスの両方において感作が成立しにくくなると考えられ、実際に治療後、どちらのマウスの病変でも同様にエフェクターT細胞より産生されるIFN-γ、IL-4、IL-17、IL-10などのサイトカインの発現は減少していた。惹起相におけるTAK-242の働きとしてはエフェクターT細胞の働きを抑制することによるTh17細胞からのIL-17A産生の抑制とTip-DCに発現しているTLR4阻害によるTNF-α産生の抑制と考えられる。IL-36Rの機能欠損による炎症性サイトカインの持続的な活性化とそれに伴う好中球の浸潤はIL-17Aからの好中球遊走性ケモカインの産生亢進が一因であるが、この過程を阻害することで接触皮膚炎反応の増悪を抑制でき、さらに病変部でのIL-39が減少していることからIL-36Rを介した炎症性シグナルも減少していることが明らかになった。


結語

我々の研究ではIL-36Raの機能欠損が接触皮膚炎の増悪因子となりえることを明らかにした。さらに、自然免疫系の活性化に必要なTLR4を阻害することでil36rn-/-マウスだけでなくwild-typeマウスにおいても接触皮膚炎反応が抑制されることを示した。このことはTAK-242によるTLR4シグナルの阻害が接触皮膚炎の新たな治療薬となる可能性を示唆している。


研究グループ

藤田医科大学 皮膚科学講座
福島 英彦、岩田 洋平、渡邊 総一郎、齋藤 健太、田中 義人、長谷川 由梨恵、杉浦 一充

名古屋大学医学部 皮膚科
秋山 真志


本研究に関するお問い合わせ

藤田医科大学医学部 皮膚科学講座
教授 杉浦 一充
TEL:0562-93-9256
E-mail:ksugiura@fujita-hu.ac.jp