プレスリリース

認知症・高齢診療科の武地一教授の研究成果が医療学術誌「JAMDA」に掲載されました

認知症カフェの実態を大規模調査

藤田医科大学 武地一教授(認知症・高齢診療科)と認知症介護研究・研修仙台センターらが共同で行った認知症カフェに関する論文が2019年12月号のJAMDA※1(Journal of the American Medical Directors Association)に掲載されました。同誌の編集者により選ばれ、Social Media※2 にも紹介が行われています。

研究成果

今回の研究は2016年度厚生労働省老人保健健康増進等事業(老健事業)によって行われた「認知症カフェの実態に関する調査研究事業」(国内1,477カ所の認知症カフェが調査に回答)をもとに、世界で初めて認知症カフェに関する大規模なデータ解析を行ったものです。認知症カフェは1997年にオランダで開始されたアルツハイマーカフェに発端があるともされていますが、世界中に広がりを見せているものの、どのように実施され、どのような人に、どのような効果があるのか、十分には示されていませんでした。日本の認知症施策においても、「認知症カフェ」とは、認知症の人と家族、地域住民、専門職等の誰もが参加でき、集う場であると定義はされるものの、具体的な運営方法や効果については実施者の裁量にゆだねられてきました。
 今回1,477カ所のうち回答が有効であった1,335カ所を分析し、開催頻度については1ヶ月に1回のカフェが64.8%と最も多く、1回あたりの開催時間は2時間が53.8%と最も多いことが示されました。認知症カフェには、認知症の人、その家族、地域住民が参加し、運営者による評価では、認知症の人にとっては開催頻度がより頻繁で、コンサートなどの催しがあることが、カフェの有効性に関係していました。一方、認知症の人の家族にとっては、開催頻度は有効性には関係がなく、カフェで専門職と相談が出来ること、同じ立場の人同士で話し合いが出来ることが効果に関係していました。認知症やその家族ではない地域住民にとっては開催頻度が多く、認知症に関する講話があることや専門職に相談できることが効果と関係していることが示されました。いずれの人にとっても、同じ立場の人が多く参加していることが効果に関係していることも示されました。
それぞれの認知症カフェでは、認知症の人、その家族、地域住民と主に3者の、立場やニーズの異なる人が参加・交流することから、どのように運営するのが望ましいかこれまで十分に根拠が明らかになっていませんでした。今回の研究の結果によって、①カフェによって割合は異なるものの3者が参加し、1ヶ月に1回、2時間という形で実施されることが主流であること、②認知症カフェの源流とされるオランダのアルツハイマーカフェでは、内容として30分ごとなどに区切ってミニ講話、話し合い、コンサートなど幾つかの行事が2時間のあいだに行われてきましたが、そのように運営することでいずれの立場の人の望みも「黄金比」のようにかなえていると推測されることの2点が主に示されました。ただし、それぞれの運営者の考えによって、また、それぞれの地域や参加者のニーズに合わせて、カフェの開催や内容にはバリエーションが生じるであろうことも考察しています。
 認知症カフェは、今後、高齢化が進む世界各国で実施されることが増えていくと予想されており、今回の研究成果が多くの地域での実践につながることが期待されています。

研究の経緯

 社会の高齢化に伴って日本国内での認知症患者は増加しており、2025年には約700万人(高齢者の5人に1人)になると推測されています。認知症は患者本人にとって不安や意欲喪失を長期にわたって引き起こし、日常生活能力の低下も伴います。認知症の人の家族にとっても、見守ることの難しさなどから重い介護負担を生じやすい疾患です。病気を理解し、受けとめることの難しさから、地域住民にとっても偏見の大きい疾患といわれています。
認知症が中等度ぐらいに進行した時点では介護保険サービスを利用することが一般的になりつつありますが、病気に気がつき始めた頃や物忘れ外来などで診断を受けた当初は、日常生活には大きな支障がないようにみえることなどから、病気になった本人の不安を受けとめたり、家族が接し方を相談したりする場所がこれまで未整備で、「初期の空白期間」と呼ばれることもありました。また、早期診断早期絶望と言われることもあり、早期診断後の心理・教育的支援の重要性が指摘されていました。

認知症カフェとは

日本では2012年に提唱されたオレンジプランによって、本格的に国を挙げての認知症施策が始まりました。その一環として、オランダで始まったスタイルを取り入れて、認知症の人とその家族を支援することを目的に、気軽に立ち寄れて、地域の人たちのつながりを作るきっかけになる新しい場所として地域に認知症カフェを設置することが推奨されました。2015年1月に改訂となった新オレンジプランによっても認知症カフェの活動が推進され、2018年度末には全国7,000カ所の認知症カフェが開かれています。

その他

※1 JAMDAとは、アメリカのThe Society for Post-Acute and Long-Term Care Medicineが発行している学術誌で、高齢者医療分野で最も権威ある国際雑誌の一つです。

研究グループ

武地 一  藤田医科大学 医学部認知症・高齢診療科
矢吹知之 認知症介護研究・研修仙台センター
高橋正彦 高橋メモリークリニック
長田久雄 桜美林大学 老年学研究科
加藤伸司 認知症介護研究・研修仙台センター 

本研究に関するお問い合わせ

藤田医科大学医学部 認知症・高齢診療科
教授 武地 一
TEL:0562-93-2335
MAIL:takechi@fujita-hu.ac.jp