OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

理学療法士

INTERVIEWvol.011

患者さんを支えるために、人として強くなりたい。

板野 里奈RINA ITANO

藤田医科大学岡崎医療センター リハビリテーション部勤務

リハビリテーション学科/2016年卒業

取材日

DESCRIPTION

藤田医科大学岡崎医療センターは、2020年4月に開院した愛知県三河地方初の大学病院だ。新築の院内は、白を基調に緑があしらわれ、明るく清潔感があふれる。理学療法士として7年のキャリアをもつ板野さんは、開院時からここで働いている。 2階の理学療法室では、たくさんの患者さんがリハビリに励んでいた。脳卒中で片半身が麻痺した患者さん、手術後の体力回復に励む高齢者、交通事故で脚を骨折した若者…。日常動作ができなくなった患者さんの喪失感は計り知れない。理学療法士はその辛さを受け止め、支えていく。「リハビリって自分らしさを見つけること、当たり前の日常を取り戻すことも含まれていると思います。一緒に患者さんと闘っていくために、私自身も人として強くなりたい」。少し照れながらそう言った板野さんの言葉から、患者さんの人生が「その人らしくあって欲しい」という思いが強く伝わってきた。

大切なのは患者さんの状態を正確に評価し、把握すること

─まずは、理学療法士の仕事について教えていただけますか。

理学療法士は、立つ、歩く、座るなど、生活する上で基本となる動作の回復を担っています。患者さんはがんの術後の方もいれば、骨折などの運動器や循環器、呼吸器の疾患などさまざまです。医師の指示のもと、患者さんの状態や目標に合わせて理学療法士が運動療法や物理療法を組み合わせてプログラムを作成し、治療や支援をしていきます。

─ちなみに理学療法の仕事をする中でこれが重要!っていうポイントは何ですか?

評価をしっかりやることだと私は思っています。リハビリって動作だけを捉えがちなんですけど、筋力はどれぐらいあるのか、感覚は? 関節角度は?、といった評価がすごく大事なんです。一人ひとりを正しく評価して問題点についてアプローチしていかないと、変化があったかどうかもわからないですし、根拠をもってプログラムを立てられないですから。

─なるほど、まずは評価なんですね。

あとは、コミュニケーションですね。信頼関係を築けないと患者さんも本音言ってくれないし、嫌いな人とリハビリしたくないじゃないですか。だから態度とか言葉遣いはとくに気をつけています。

─板野さんは7年目ということですが、岡崎医療センターの前はどちらで勤務されていたんですか?

藤田医科大学を卒業して最初に所属したのが、名古屋市中川区にある藤田医科大学ばんたね病院です。その後、藤田医科大学病院に異動し、岡崎医療センターの開院に伴ってこちらに配属となりました。藤田医科大学病院災害外傷センターでの専任療法士をはじめ、入職からずっと急性期を担当しています。超急性期で患者さんの状態もまだ不安定な時からリハビリを行うことで早期離床につながることや、日常生活で取り入れられる訓練があることなど、いろいろなことを学ばせていただきました。

─こんなにきれいな病院は働くのは楽しいだろうなと思う反面、ご苦労もあったのでは?

開院からなので、例えばベッドのレイアウトはどうするのか、備品の発注方法は、看護師さんへの連絡手段はなど、それまで当たり前に決められていたことも一から作っていかなきゃいけないので、そういう点では大変でしたね。

─手探りの感じだったわけですか?

だいぶ落ち着きましたが、今でも時々、「あれはどうするんだっけ?」なんてこともあります(笑)。一方で、そういう経験をしたことで、医療職だけでなく事務職員の方の仕事内容だったり、自分が知らないところでどういう作業が行われているのか、いろいろな職種が連携して病院が成り立っているということを学びました。

─伝統のチーム医療がそういう点でも生かされているんですね。

確かに、そうかもしれないですね。チーム医療ってほんとに大事なんですよ。病院の立ち上げでも感じましたが、普段の治療でも多職種が連携したからこそ退院できた方や自宅に戻れるまでに回復した方とかもいらっしゃいますから。

─それは連携しなければ実現しなかったということでしょうか?

難しかったでしょうね。医師が病状を分かりやすく説明して、看護師が自宅療養するための環境設定や処置の仕方などをご家族に丁寧に教え、地域包括ケアの担当者が介護サービスの手配をして…。そういうもろもろを多職種が連携して、患者さんが希望する自宅での生活を叶えていきました。通院時にお元気な姿を見るとほんと良かったなって思います。もう一つ、職場のスタッフとの信頼関係も大切です。それがあってこそ、良いチーム医療が提供できると思います。

自分をポジティブに変えた仲間や患者さんとの出会い

─板野さんは、なぜ理学療法士になろうと思ったんですか?

中学3年のころだったかな、職業体験があって将来何になろうか考えている時に母が理学療法士という仕事があるよと教えてくれました。私自身もともとスポーツが好きで、そういう人たちをサポートする仕事がしたいと言っていたので、調べてくれたみたいです。

─スポーツは何をされていたんですか?

中学はバスケットボール部で、高校では陸上部のマネージャーを。部活以外でもバレー、バドミントン、卓球とかいろいろやりましたね。

─どうして選手ではなくマネージャーに?

身体機能的に選手は難しいかなと思っていたので。それにサポートする方が好きなんですよ。突き指した子のテーピング巻いたりとか、そういう些細なことなんですけどね(笑)。スポーツをやる人たちがたとえ怪我しても、もう1度復帰できるように少しでも支えたいと思うようになりました。

─スポーツトレーナー的な感じですか?

そうですね。ただ、実習でいろいろな年代や疾患の方と関わるうちに、スポーツリハでなく、さまざまな疾患や年代の方とのリハビリの方がどんどん楽しくなってきました。とくにおじいちゃん、おばあちゃん世代の方としゃべるのは、今でもすごく好きです。皆さん人生経験を積んでいるので、普段の会話の中でもいろいろな刺激があり、とても楽しいですし、学ぶことが多いですね。

─そもそも藤田に入ろうと思ったのはなぜですか? 

国家試験の合格率の高さと就職率の良さ、あとは、愛知県内の大学を希望していたというのが理由です。看護師の道も考えましたけど、やっぱり理学療法士になりたいと思って、唯一、藤田のオープンキャンパスに参加しました。

─実際に入学してどうでしたか?

自分が思っていたワチャワチャできる大学生活とは違いましたが、今思えばよかったですね。高校の延長のような感じでクラスの団結感がすごくあって、実習が終わった後にみんなでごはん行ったり、休みの日には遊びに行ったり。

─同期のつながりが強いんですね。

同期がいなかったら実習も乗り越えられなかったし、仲間に出会えたことが入学して一番良かったことかもしれないです。それがなかったら、今の自分じゃなくなっちゃいますから。高校までは、人見知りもあったし、決まった子としか遊ばないみたいなところがありましたけど、藤田に入って少しアクティブになりました(笑)。人と接する機会が多いからなのかな。困っている人に声をかけたりもできますし、交流の幅も広がりました。

─今の自分、好きですか?

好きです。今の自分になれて良かったと思います。

─それ、すごくいいです!そんな風に言えるってとても素敵なことだと思います。

ありがとうございます!大学で友達と出会い、病院で患者さんと接する中で、少しは成長できたのかな。もちろん直したいところもいっぱいありますけど、前の自分より今の自分の方が絶対いいと思っています(笑)。

患者さんにかける言葉は「ありがとう」

─実習で学んだことが今、生かされていると感じますか?

私自身、実習をしっかりやってきたことが大きいと実感しています。学生の時は大変かもしれませんが就職してから楽だと思いますね。

─いろんな実習があったと思いますが、心に残っている実習の思い出ってありますか?

印象深いのは、脊髄損傷の患者さんが、どうしたら車いすを使いやすくなるのか考えたことですね。下半身麻痺の方は車いすに乗るのも大変なので、取手をひと回り太くしたり、どの位置に車いすを付けると乗りやすいかを先生と一緒に試行錯誤して考えたり。患者さんともたくさん話してコミュケーションをとり、工夫を重ねたので、すごく記憶に残っています。

─そういうことも勉強されるんですね。では、学生時代に先生や先輩から言われて印象的だった一言って何かありますか?

うーん、あまり覚えてない…です。新人の頃の記憶の方が強すぎて(笑)。

─あはは、そうなんですね。新人時代、どういうことを指導されたんでしょうか?

自分がつらい時にも人には優しくしようね、ってことですね。忙しくていっぱいいっぱいになってくると、同僚に対する口調がきつくなったり、周りが見えていなかったり。でも患者さんはもっと辛いので、そんな時に私が寄り添えないとそれこそ信頼関係くずれちゃいますから。相手の気持ちを考えていったん飲み込む、ということを新人時代に恩師からアドバイスされてから、常にそれを心掛けています。

─板野さんは話していてとても穏やかな人だと感じますが、そういう時代もあったんですね(笑)。

そうですね、新人の頃はほんとに未熟でした(笑)。泣くこともよくありましたね。患者さんが亡くなられたり、回復できなかった時は、自分の評価が不十分だったんじゃないか、もっとやれることがあったんじゃないかって。もちろんうれしい涙もたくさんありましたけど。10年経って思うのは、「人として強くなりたい」ということ。人として強い方が患者さんの支えになれると思うので、私もそうありたいです。

─板野さん自身はコミュケーションを築くために患者さんにどういうことをされてますか?

細かいところも気にしてあげたいというのがまずあります。例えばリハビリが終わった後、病室へお連れした時に「カーテン閉めますか」とか、「何かしといたほうがいいことありますか」とか聞いたり。入院中の生活リズムを整えることはとても大切ですし、動けない方もいるので、少しでも過ごしやすいようにお手伝いすることを心掛けています。

─そういう日常的な小さいサポートをする中で信頼関係を築いていくわけですね。

そうですね。私としてはそういうところから積み重ねていきたいと思っています。理学療法士としてリハビリはもちろん大切ですけど、同時に気遣いも欠かせないと思います。

─患者さんによくかける言葉ってありますか?

私は、「ありがとうございます」でしょうか。リハビリをやってもらった後に「ありがとう」、アドバイスしたことを病室でやってきてくれた時に「ありがとう」。患者さんは皆さん、必死にリハビリに取り組んでいるので「がんばって」っていう言葉はあんまり使いたくないんですよね。だから「ありがとう」かなと思います。

─リハビリの先生からそう言ってもらえると、がんばろうという気になります。逆に患者さんから感謝されることも多いのでは?

お手紙をいただくこともありますね。ご年配の方だけでなく、20代の方とか。ウルウルしてしまうのでたまにしか見返しませんが、全部残していますし、大切なお守りです。

─研究にも取り組まれているとお聞きしました。

一応、はじめてます(笑)。今は内部障害の方たちの経過について研究しています。入院の経緯から、どういう方たちが自宅に戻れて、どういう方たちが戻れず転院したり、施設に入ったりしているのかを調べています。調査から始めているので、まだまだなんですけど…。

─研究と臨床の両方をやれるのはひとつの魅力ですね。

そうですね。研究は大変ですけど楽しいですね。今は患者さんが増えてきたので、研究までなかなか手が回らないというのもありますけど、研究をがんばることで多くの患者さんの利益になるのならうれしいですね。

─板野さんの目標を教えてください。

自分が治療に関わることで「あなたで良かった」と言ってもらえる存在になることです。そして、今は臨床と研究で余裕がありませんが、医療は進歩し続けるので、将来的にはより専門的な資格取得もめざしていければ。

─最後に受験生の方にアドバイスを!

受験もそうですし、学業でもスポーツでも「何か一つでも完全燃焼」したことがあると、人として強くなれると思います。未来の自分を想像して、がんばって良かったと思えるような毎日を過ごしてください!

私の相棒

ストップウォッチ

このストップウォッチ、藤田医科大学病院がすごく忙しかった時期に、応援に行ったお礼としてリハビリの部長からいただいたものなんです。機能がたくさんあって、データをとりためられるので、患者さんが直線距離の10メートルを歩く速さを測ったり、片足立ちの時間を測ったり、いろんなことに使っています。陸上部でマネージャーをやっていたので、ストップウォッチには愛着があるんですよね。いつもポケットに入れて愛用しています。

患者さんと接する板野さんは実にいきいきとしていて楽しそうだ。仕事に誇りをもって取り組んでいることが伝わってくる。「今の自分が好き!」という一言も印象的だった。自分の弱さを受け入れ、素直に反省し、泣いたり笑ったりしながら人としての強さを身につけていったんだろう。患者さんの自分らしさを取り戻すだけでなく、板野さん自身もこの仕事に出会い、「自分らしさ」を見つけたのかもしれない。彼女のキラキラ輝く表情を見ながら、そんなことを思った。