診療放射線技師
INTERVIEWvol.012
安心して治療に向き合ってもらうために、自分自身が成長する
田端 友香YUKA TABATA
藤田医科大学病院 放射線治療室勤務
放射線学科/2012年卒業
- 取材日
DESCRIPTION
「ここが私の職場です」。案内されて入ったのは放射線治療室。診療放射線技師である田端さんは、この部屋でリニアックと呼ばれる機械を使い、がんや悪性腫瘍の患者さんを治療している。 待合の壁には、大きなモニターがあり、動物の赤ちゃんの動画が流れていた。「かわいいでしょ」と笑顔を向ける田端さん。「がんの患者さんといっても、ポジティブに治療していこうと思う方もいれば、まだ病気を受け止められずにいる方もいます。放射線治療の前って患者さんも緊張しているので、気持ちを楽にして臨んでもらいたいと思い、スタッフで考えて動画を作りました」。 がんを告知された患者さんの不安は計り知れない。「私たちがしっかり寄り添うから安心して!」。動画からは、そんな田端さんら診療放射線技師の声援が聞こえてくる気がした。
大切なのは放射線を「正しく怖がる」こと
─放射線治療とは、どういう治療なんでしょうか?
外科手術、抗がん剤と並んで、がんの3本柱といわれる治療です。治療計画に沿って私たちが機械を動かし、患者さんのがん細胞にピンポイントで放射線を当てていきます。照射の回数は、病状や体格によって1~30回以上 といろいろで、外来の患者さんは毎日ここに来てもらわなければならないので、大変ですが。
─えっ?毎日なんですか!
そうなんです。だから1回でも何かあると患者さんはずっといやな気持ちで通うことになりますから、前向きに治療に取り組んでいただけるようコミュニケーションは、とくに大事ですね。
─診療放射線技師というとレントゲンやCTなどの撮影をする「画像のプロ」というイメージがあります。
確かに検査のイメージが強いかもしれないですね。もちろん画像を撮ったり、それを加工することも含めて、放射線を安全・適切に使って検査、診断、治療を行うのが診療放射線技師の役割です。マンモグラフィとかCT、MRIとかいろいろな認定資格がありますが、ここは大学病院なのでオールマイティよりも高い専門性が求められますね。
─放射線イコール怖いものと思ってしまいがちですが…。
そうですね…大切なのは「正しく怖がる」ということだと思います。不安を覚える患者さんに胸を張って「大丈夫ですよ」って言えるように、私たち診療放射線技師は誰よりも詳しい知識をもつ責任があると。とくに放射線治療は、CTやX線に比べてけた違いに放射線量が多いので、失敗は絶対に許されません。何重ものチェック機構でどこかでは引っかかるようにはなっているんですけど、絶対にミスがないというところまで確認しますね。
─仕事をする上で田端さんがとくに大切にしていることって何ですか?
「患者さんを見る」ということですね。診療放射線技師って技術職なので、いい検査、いい治療をするために頑張るんですけど、集中しすぎて患者さんが痛がっているのに全然気づけなかったり、そういうことがないように目の前の患者さんをしっかり見ることを常に心掛けています。
病状だけでなく「患者さん自身を見る」ことを学んだ実習
─診療放射線技師になろうと思ったきっかけは?
高校2年の時、放射線を利用した非破壊検査の工業利用が話題になって、そこから発展して診療放射線技師という仕事もあるんだよと、高校の先生から教えてもらいました。それで仕事内容を調べたり、いろいろな大学のパンフレットを集めている時に、たまたま乳がんのことを取り上げたテレビを見たんです。当時は男性技師が大半なので、乳がんは増えているけど、マンモグラフィを嫌がる女性が多いという内容でした。その番組を観て、同じ女性として女性に寄り添った検査ができる診療放射線技師になりたい!って思ったんです。それと祖母が看護師をしていたので、昔から医療職に就きたいという思いを持っていましたが、私、注射が苦手で…(笑)。できるだけ注射から離れた医療職というと、診療放射線技師かなって。
─それで藤田に入学を?
家が近いので、家族が入院していたこともありますし、私自身も受診していて、子どもの頃からよく知っていたので。それで大学説明会に参加したんですが、敷地内に大学病院があることもそうだし、1年生から早期臨床実習があるのもすごくいいなって第一志望にしました。ただ、高校では医療職だから生物だろうと、あまり深く考えずに、選択科目を生物にしていたんです。でも大学に入ったら、波動学、放射線物理、放射線治療物理と物理漬けで(笑)。もう難しくて、先輩とか同級生にすごく教えてもらいました
─聞いているだけで、難しそうです(笑)。じゃあ、入学後は相当勉強されたんですね。
1限目から最後のコマまでみっちりやって、実験のレポートも毎週出されるので、ほぼ毎日レポート書いてました。国家試験の前は、みんなでこもって勉強したりして、だから同期のつながりは強いですね。
─学生時代のつながりは将来の財産になりますよね。
同期もそうですし、学会なんかに行くと藤田出身の方も多くて、新しい情報を教えてもらったり、つながりの大切さを感じています。
─先生から言われて心に残っていることって何かありますか?
先生には普段から「できる限り患者さんと接しなさい」と言われていて、放射線治療の実習の際、待合のところにいる患者さんとお話するんですけど、当時は何を話したらいいのか分からなくて…。先輩から「話題に困ったら食べ物の話をするといいよ」とアドバイスされていたので、患者さんに「ご飯おいしいですか」って聞いたんです。そしたら「味が分からないんだ」っておっしゃられて…。その患者さんは舌がんの治療中だったみたいで、ちゃんと患者さんのことを見て理解してないと傷つけてしまうんだって、ものすごく反省しました。それからはカルテをしっかり確認して、病状だけでなく患者さんのことを知るようにしています。
─先ほどおっしゃられていた「患者さんを見る」ということですね。他にも何かありますか?
1年生の早期臨床実習の時に、レントゲンの部屋の温度が高くて、学生みんなで「暑いね」って言ってたんです。そうしたら、通りかかった先生が「患者さんは半身ほとんど裸なんだから当たり前だろ」って言われた時に「確かに」って思いました。自分たちの視点ではなく、患者さんの立場に立つことを教えていただきましたね。
─藤田医科大学病院に就職したのはどうしてですか?
やはり実習で職場の雰囲気や設備についても知っていたので、安心感がありました。それに将来は放射線治療に携わりたいと考えていたこともあって、放射線治療をやれる施設は県内でも限られてくるので。ちょうど私が入職した年には、地上6階・地下1階の1棟丸ごと放射線棟という「低侵襲画像診断・治療センター」ができたんです。それも大きいですね。放射線技師の数や機器の台数も多く、実習先としても就職先としてもすごく魅力があると思いますね。
─確かに活気がある感じがしますね。
メーカーさんが主催するCTやMRIの画像コンテストがあるんですけど、若いスタッフからベテランまで挑戦しようという雰囲気があって、実際にいろいろなチームが賞をいただいています。そういうことがあたり前になっているのはすごいことですし、ベースのレベルが高いと感じますね。
放射線治療は日進月歩。知識を常に更新し、生涯をかけて学ぶことが必要
─少し話はそれますが、診療放射線技師にスポットを当てたドラマをやってましたね。観てました?
もちろん!ドラマだから仕方ないですけどみんな全然仕事していないですよね(笑)。でも結構あるあるというか、面白いなって思ったのは、オーダー通り撮ると悪化させてしまいそうな場合は撮影をやめたり、その場で判断するところなんかはドラマ通りですけど。ただ、あんなに暇じゃないですよ(笑)。
─この仕事のすばらしさって何ですか?
放射線治療って奥が深くって、新しい情報がどんどん出てくるので、日々勉強して情報を書き換えていくことが必要です。だからこそ技術を磨くというか、ずっと成長しなきゃいけない。そういうところがやりがいだと思います。
─そのために取り組んでいることってありますか?
休みの日は、勉強会にも行きますね。今はWebでの勉強会が多くなっているので、全国どこでも参加できますし。放射線治療の上級専門技師の資格などもあるので、そういうのを取得し、自分の専門性を高めていきたいと思っています。その一歩として今は、治療計画の最適化や治療装置の品質管理・保証を担う医学物理士の資格取得に向けた勉強をしています。
─最後に受験生の方にメッセージを。
放射線技術は日々進歩していて、生涯ずっと勉強し続けなければなりません。大変だなって感じることもありますが、自分の成長が患者さんのためになると思うと、とてもやりがいがります。それと、診療放射線技師は思ってる以上に基礎体力が必要です。大きな機械が多いですし、時には患者さんの体を動かさなきゃいけない。あまり体力や筋力のイメージがないかもしれませんが、体作りも必要だよと伝えたいですね。
私の相棒
個人被曝線量計
フィルムバッチと呼んでいるんですけど、1カ月間の被ばく量を測ってくれる機器です。1カ月に1回、新しいものと交換して、外部の専門施設で被ばく量を確認します。男性は胸部のプロテクターの内外に、女性は頭と腹部に取り付けることになっています。レントゲンに入った時に線量を見ると「これだけ少ないんだ」って安心しますね。私たち放射線治療のスタッフのフィルムバッチには、Nという文字が付いているんですけど、中性子が発生する可能性があるので、その測定もできるようになっています。仕事には欠かせないお守りみたいな感じですね。
放射線、リニアック、技術者、物理…。そんな言葉にもっとかたい人をイメージしていたが、実際に会った田端さんは、やわらかな雰囲気をもつ素敵な女性だった。「すべての患者さんが元気になって治療を終えられるわけではありません。だからこそ治療の最終日に笑顔で帰られる患者さんを見ると、この仕事をやっていて良かったなって思います」。田端さんの安心感を与える優しい表情からは、技術者としてだけではない、もっと根本の医療者としての患者さんを思う心が伝わってきた。