障がい者雇用の支援「スマイルチーム」の運営

スマイルチームの立ち上げ・運用

2021年、本学園は障がいを持つ方も活躍できるよう、「スマイルチーム」を結成しました。障がいを持つ方々の就労機会と活躍の場の創出を目的としており、学内の清掃やシュレッダー作業、学内報仕分配付作業をお願いしています。チームは障がいを持つ方・サポートスタッフ・アドバイザーの作業療法士で構成され、入職後もフォローを実施しています。今回は、「スマイルチーム」の立ち上げに関わった橋本係長とスマイルチームのリーダー谷畑係長にお話を伺いました。

チームの結成と管理

スマイルチームの結成に至った経緯を教えてください

橋本係長:当時、障がい者数が年々増加傾向であったため、障がい者雇用率が段階的に引き上げられることを見越し、安定的な障がい者雇用の実現と障がい者の方にとってより良い働き方の実現を目指して立ち上げ準備を進めてきました。

スマイルチームの立ち上げにあたり、留意したことはありますか?

橋本係長:教育・医療機関である本学ならではの障がい者雇用を実現すべく、まずは他大学に訪問したり、インターネットでいろいろ調べることから始めました。当初は、現状分析・考察・課題を経て、障がい者の方にとって働きやすく、学内の清掃業務など、安全配慮上ハードルの低い業務から導入する方向で準備を進めておりました。これまでに障がい者と関わったことはなかったため、講習に行って知識を深めたりもしました。立ち上げ時のサポートスタッフの方にも、障がい者との接し方のポイントや障がい特性等の資料をまとめて共有したり、客観的視点で障がい者の方と面談し、健康状態や職場での状況を把握し、サポートスタッフと障がい者の方の架け橋の役割を担っていました。実際に雇用した障がい者の方から診察に一緒に入ってほしいと言ってもらったことがあり、そのときは信頼関係を築けていると実感でき、うれしく思いました。

採用後にどのようなフォローを実施していますか?

橋本係長:スマイルチーム内で3カ月に1回は面談をしています。人事部としても入職2週間後、1カ月経過時に面談をして、その後個別面談を希望されたときはそれにも応じています。そこで出た話をリハビリの先生に共有することもあります。面談では、プライベートな話や仕事、人間関係の悩みなどが話題になり、それが原因でうつ状態になることもあるので、私たちができることは“吐き出し”をさせてあげることと、それを聞いてあげることだと思います。最終的には主治医に診療をお願いして、アドバイスをもらいながら一緒に解決していくといった方向で進めています。聞いてあげるだけでも気持ちがスッキリすると思うので、話をじっくりと聞き、各部署の所属長と情報共有を行い、多方面でサポートし合っていければと考えています。そのおかげもあって、初期メンバーはほとんど残っていますし、定着率は高く維持しています。

スマイルチーム結成の背景と動機

スマイルチームのリーダの素質とは?

橋本係長:現在、谷畑さんにスマイルチームのリーダーを担っていただいているのですが、谷畑さんは、スマイルチーム発足から約2年後の2023年4月に採用しました。採用面接で対面して、人柄と勢いを見てスマイルチームに適任だと思いました(笑)当時、スマイルチームは障がい者の方は増えてきていましたが、サポートスタッフが不足している状況でしたので、勢いがある方を望んでいました。

障がいを持つ方と一緒に働くことに対する最初の印象はどうでしたか?

谷畑係長:スマイルチームに関わる前は、障がいを持った方がどういうことを考えているかが分からない、そもそもコミュニケーションがうまく取れるのだろうか、と不安に思うこともありました。しかし、実際に一緒に働いてみると、言葉のキャッチボールも問題なくできるし、笑顔もある。気も遣ってくれたりします(笑)健常者とそう変わりはありません。障がいはひとつの個性であると考えるようになり、障がいの有無に関わらず、いろんな人との壁が取り除かれたように感じます。

橋本係長:これまでも、障がいを持つ方も各部署で活躍していただいておりましたが、様々な障がいを持つ方が一堂に会して仕事をするということはありませんでした。スマイルチームは清掃部門として立ち上げたため、身体的な障がいを持っている方より精神障がい者の方をメインに想定しておりましたので、チームを組んで業務ができるのかなと当時は少し不安な部分もありました。しかし、実際に合同就職説明会で話をすると「やってみたい」という声も多く、おかげで、初年度は定員を上回る応募がありました。障がいを持つ方にも清掃は取り掛かりやすい業務だということがわかりました。

この仕事に対するモチベーションは何ですか?

橋本係長:今後、障がい者法定雇用率が引き上げになることも考えられたので、改善の必要性を感じておりました。しかし、実際にプロジェクトが立ち上がり、プレゼンをするたびにこてんぱんにされたので、その悔しさをバネに「やってやる!」という気持ちで挑んでいました(笑)当時の人事部長や、様々な方のサポートがあったからこそ今があるのでとても感謝しています。

谷畑係長:今のお話を聞いてさらに頑張ろうと思いました(笑)モチベーションは、チームメンバーが成長する姿を間近で見ることができることです。挨拶ができなかった方が「おはよう」や「いってきます」を大きな声で言えるようになったり、他のスタッフを労わるようになったり、自ら進んで行動する姿を見ているとうれしくなります。

チームの中でのコミュニケーションや情報共有で工夫していることがあれば教えてください

谷畑係長:相手のペースに合わせてゆっくりした会話を心掛けています。常にポジティブな返答と笑顔で相手の口調に合わせ、不安感を与えないように心がけています。現在15人のメンバーがいるので、一人一人の特長を考慮して接しています。あとは、「がんばって」と言わないようにしています。本で読んだのですが、障がいを持つ方の中には「がんばって」といわれるとプレッシャーに感じる方もいるそうです。その代わりに「張り切っていこー!!」と声をかけています。指示もあまり多く出さないようにしており、「これをやった後に、これをして、これができたら帰ってきてね」といった複数の指示出しはしません。「これをやったら戻ってきてね」と1つずつ指示を出すように心がけています。どうしても複数の指示を出さなければいけない時は、メモを渡すなどして工夫しています。

日々の業務と挑戦

平日の一日のスケジュールを教えてください

基本、4人1組のチーム制で働いています。固定メンバーではなく定期的にメンバーを入れ替えています。そうすることで、対人関係が築けるようになったと思います。午後はスタッフによって終了時間が異なるため、各自自分の退勤時間に帰宅します。

8時45分から始業・ラジオ体操、9時から午前の部の清掃、11時45分からお昼休憩、12時半から月曜日のみ全体ミーティング、12時半から午後の部の清掃、17時までに順次帰宅

成長と成果

チームでの経験を通じて、自身が学んだことや成長したと感じた経験はありましたか?

谷畑係長:障がい者の方に対する見方や考え方が変わりました。“障がい”ではなく、ひとつの個性であり、性格であると思えるようになりました。自然といろいろな人の性格を受け入れられるようになり、心のつながりを持つことができていると思います。

橋本係長:当時は役職も無い中で、大きなプロジェクトに抜擢されてとても不安でしたが、いろいろな方のサポートがあり、現状分析の方法を教えていただき、部外・部内の方とのスケジュール調整やタスク管理などを徹底的に学ぶことができました。様々なタスクがありましたが「何のためにやっているのか」、目的を見失わず実施できたことは、現在の業務遂行において非常に良い経験をさせていただいたと感じております。その時に学んだスケジュール管理能力やタスク管理能力は今でも生きています。

ロールモデルとしての視点

障がいを持つ方と一緒に働くことの意義や価値について、どのように考えていますか?

橋本係長:学園として障がい者雇用を推進し、法定雇用率を達成することで社会的責任を果たすと共にダイバーシティの推進に繋がると考えています。障がい者の方を雇用するために、これまでの業務フロー・マニュアルの見直しを行い、その結果、業務の効率化を図ることができました。また、外注していた清掃業務をスマイルチームが担うことで内製化することができ、コスト削減にも繋がりました。障がい者の方でも活躍できる場はたくさんあると思います。余談ですが、廊下で会った時にスマイルチームのメンバーと話すことがあるのですが、様々な視点を持っているので、刺激をもらうことができ、自身の成長にもつながります。

谷畑係長:多様な人材が活躍する場というのは、ダイバーシティの推進にとって重要なことであると思います。「障がい」ではなく、ひとつの個性として考えて向き合っていくことで、自然と障がい者の方と触れ合っていけると思います。誰もが互いを理解し、受け入れ、認め合うことが重要だと考えます。

この仕事を通じて、プライベートでも変わったと感じる点はありますか?

橋本係長:人事部に配属される前ですが、医療事務の窓口業務をしていた時、目の前で患者さんが倒れたことがありました。その時は病気や障がいについてあまり理解できていなくて、ワンテンポ行動が遅れてしまいました。実際にスマイルチームを立ち上げた時にいろいろな障がいの勉強をして、街中でヘルプマークを見かけると「この人は目には見えないけれど内部的な障がいを持っているから何かあれば自分が動くんだ」という姿勢に変わってきました。意識するのとしないのとでは、万が一の際に行動できる範囲が違うと思います。

谷畑係長:妻が訪問看護をしていて、手足の障がいを持った方のケアや、精神障がいの方のケアをしています。妻の職場のイベントに積極的に参加して、障がい者の方々とコミュニケーションをとるようになりました。

モチベーションが下がった時はどのように対処していますか。

谷畑係長・橋本係長:モチベーションは下がりません(笑)

今後の目標やビジョンを教えてください

橋本係長:人事部としては、スマイルチームを全面的にバックアップしていくことはもちろん、学園として課せられている法定雇用率に対して、今後も障がい者の方が増えていく予想を立てているので、スマイルチームを発展させるべく、清掃だけでなく、他の業務の切り出し、新たな雇用の場の創出を谷畑さんやスマイルチームのメンバーと協同してできると良いと考えています。

谷畑係長:障がいを持つ職員が、ポジティブな考え方で生き生きと継続して働ける環境を作っていきたいです! スマイルチームには人数制限はありません。藤田学園で働きたいと希望してくれる人が増えるように、環境を整え、働ける場所を増やしていかなければなりません。障がい者の方が活躍する場所を提供することが我々の使命と捉えており、実際に現在も新たな雇用の場の創出に向けて取り組んでいます。

障がいを持つ方と共に働く上での
アドバイスやメッセージがあれば教えてください!

橋本係長:障がいについて正しい知識を持ち、その方々の障がい特性を配慮し、理解した上で接することが重要だと思います。しかし、ほとんどの方は障がい者の方と一緒に働く経験をしたことが無いと思うので、実際にどうすれば良いのかとの声を聞きます。人事部としては障がいの特性や、接し方のポイントなどをまとめた資料を、新たに障がい者の方が配属する部署に渡しています。配属後、特定の方のみでなく、多方面(所属している職員、支援機関、人事部など)でサポートし、コミュニケーションを取ることで仕事を通じて共に成長できると思います。人事部だけでなく支援機関を利用している人も多いので、部署で伝えづらいことがあれば、人事や支援機関に相談してください。障がいのある人もない人も多様性を認め合い、高めあっていける、そんな学園になると良いなと思います。

谷畑係長:障がいのある方は「迷惑をかけたくない」といった考えや、「自分の中で考えを整理するのに時間がかかる」といった特性から、仕事に関する疑問や連絡事項があるときでも、周囲へ声をかけるのが苦手な場合があります。仕事が進んでいなかったり、悩んでいたりする様子を見かけたら、迷わずに直接声をかけてあげてください。仕事での困りごとの場合は、解決方法を一緒に考えたり、状況に応じて柔軟な対応をすることで、信頼関係が生まれ、より良い関係が築けると思います。