講演1「家族を大切に出来ない医者は
患者を大切に出来ない」
藤田医科大学病院 救急総合内科 瀬川 悠史
医師歴11年目の瀬川先生の所属する救急総合内科では、医局員の育児を支援しようという動きがあります。瀬川先生自身も3人の子どもを持ち、計3回、総計11カ月の育休を取得しています。自身とそのパートナーのキャリア形成を考えることが求められる時代。家族を大切にし、家庭が円満であり、自身に余裕がある状態のほうが、現場でよいパフォーマンスが発揮できると語りました。
育児休暇=家族の絆を深めるとき
学生時代、部活で苦楽を共にした友人とは長く続くように、育児も夫婦で一緒に乗り越えることで、困難や苦労を共有でき、夫婦の絆も深まると思います。実際に夜泣きを経験して、もし一人でやっていたら鬱になっていたのではないかと思うこともありました。子どもも人数が多いほど大変です。経験値が増えても、昼間は3歳児のイヤイヤ期、夜中は8カ月の子の夜泣きの対応と常にやることがあり、睡眠時間の確保が難しい時期もありましたが、夫婦が一致団結して子育てに向き合えたことで、乗り越えることができたと感じています。
育休の取得により仕事のパフォーマンスも向上
僕の場合、育休を取得しないまま育児と仕事を両立しようとすると、育児に疲れ、夫婦喧嘩も増え、疲れたまま出勤することで仕事のパフォーマンスも低下していたのではないかと思います。育休を取得したことで、夫婦双方の育児の負担が軽減され、家庭の平穏も維持することができました。育休を取得し、子どもに手が掛かる大変な時期に家族との時間を十分に設けることができたことで、自分に余裕が生まれ、患者さんのこともより大切に思うことができるようになり、育休取得の重要性を実感した子育て期間でした。
「家族を大切に出来ない医者は患者を大切に出来ない」
これは主任教授の岩田充永先生の言葉です。育休取得の相談をしたときも「そうか、権利だから安心して休んでください」と言っていただき、安心して育休を取得することができました。トップが育休取得を受け入れてくれる風潮なので、取得も復帰もしやすい雰囲気になっていると思います。そのおかげか、救急総合内科の医局員数は増加傾向にあります。これは、時代の変化とともに育児への参加意欲が高まり、働きやすいところに人が集まっていることの現れではないかと考えます。実際に当科での育休取得率は89%(21年度)と、国内の男性育休取得率(約17%)と比べると大幅に上回っています。育休の取得を通じて、家族の絆が深まり、職場にも共助の考えをもたらすことで働きやすさの向上、人材獲得に有利に働くことを実感しました。
講演2「育休を当たり前に取得できる医局づくり」
藤田医科大学病院 救急総合内科 日比野 将也
育休の取得が患者さんへの接し方に影響を与え、「医療人としての成長」にプラスに働くと語った日比野先生。育休取得率89%の実績を持ちながら、育休取得者の穴が開いても患者さんにも滞りなく医療を提供できる環境をつくるために、以下の工夫を凝らしていると力説しました。
【個人診療→チーム診療】
チーフをトップに据え、4つのチームを構成し、それぞれあらゆる年代をバランスよく配置し、1チーム当たり15~20名の患者さんを管理しています。「主治医である責任感が育ちにくい」「1症例当たりの印象が希薄」といったデメリットも考えられる一方、「上級医の手技を近くで学べる」「治療方針が独断的にならずに医療の安全性を高く維持できる」「経験症例が増える」「休暇を取りやすい」といったメリットがあります。
【完全シフト制の確立と勤務表作成の工夫】
フルタイムの医師と時短勤務の医師を同じチームにするなど、多様な勤務形態をもつメンバーをバランスよく配置しチームを編成しています。チーム制のおかげで、プライベートの予定も立てやすくなっています。時間帯によって救急搬送数が変わってくるので、データを解析し、救急搬送数の多い時間帯に重点的に人を充てたり、反対に、救急搬送数の少ない時間帯には人員を少なめに配置する等して、医療人の働きやすさと患者さんの医療の質を保てるよう日々取り組んでいます。2024年度は6名の男性医師が育休の取得を予定しており、ベビーブームが到来します。戦力の大幅な減少に耐えられるさらなる体制づくりが必要と考えています。
育休はある程度の人員がいないと成り立たない制度ですので、「医師不足」「時間不足」「リクルート不足」の負のサイクルからの脱却への取り組みも必須です。当科では、「リクルート戦略」「指導体制」「やりがい」「労働条件」を見直し、リクルート活動にも精力的に取り組んでいます。
【上級医が積極的に育休を取り、後輩もとりやすい雰囲気を作る】
一般的には、男性育休の取得はまだまだ広まっておらず、取得しづらいと思われる方もいます。しかし、当科では、トップである主任教授が「ぜひ育休を取得してほしい」と背中を押してくれるため、そのハードルがずいぶん低くなっていると感じます。また、上級医となる医師が育休を積極的に取得することで、医局内全体に育休取得の流れができ、後輩たちも育休を取得しやすくなっていると思います。最近では、子どもの出産を控えた若手医師へ「育休取らないの?」とこちらから声掛けしたりもしています。
【プレイイングマネージャー(中間層)の配慮】
育休の取得による人員減によって、残されたスタッフには少なからず業務負担増が生じることは避けられませんが、残されたスタッフのモチベーションを保てるよう努めています。「いつかは自分も育休を取得できる」「〇月には××先生が帰ってくる」「期間限定で当直が月一回増えるだけ」といった声掛けをし、心理的安全性を保障しています。令和2年に改正された育児・介護休業法の制度改正により、育休期間も同意があれば働くことができるようになり、実際に育休を取得しても月に2、3回は日当直を担う医師が多く、残された医師の負担も随分と軽減されています。また、育休を取得する医師にとっても、継続的に医療現場と関わりを持つことができるため、スキル維持が可能となり、復職時もスムーズに現場復帰することができています。
育休を取得した医師を守り、支援することもプレイイングマネージャーの務めと考えており、「戻ってきたい」と思ってもらえる職場づくりに努めています。
今回は、育休取得者のリアルな事情、育休取得者を抱える医局管理者の工夫についてご講演いただきました。安定した家庭が、仕事の充実感や患者さんの安全の確保、地域貢献につながることから、男性の育休取得が当たり前な職場の必要性が分かる講演でした。藤田医科大学病院の救急総合内科の取り組みが、本院のみならず、全国の病院に普及され、医師の働き方改革に寄与できればと思います。