育児期間の新しい働き方「ワークシェアリング」
藤田医科大学リウマチ・膠原病内科学では、産休・育休明けの女性医師でも働きやすい職場づくりを目指し、「ワークシェアリング」という働き方を導入しています。
2023年4月に開催された第67回日本リウマチ学会総会・学術集会で男女若手共同参画奨励賞の団体賞も受賞し、女性医師の働き方改革に先陣を切って取り組んでいることが高く評価されました。
このような働き方を導入するには、「リウマチ科」に属する医師のある特長も大きな要因となったようです。その特徴とは・・・
女性医師の比率に特長が!
橋本先生:
リウマチ科を標ぼうする医師は医師全体で約2%と低い中、女性医師の割合は25%とやや多く、藤田医科大学のリウマチ・膠原病内科では、常勤医師13名のうち女性医師が6名と半分近い医局員が女性で構成されています。
そのため、リウマチ学を学ぶ女性医師の働く環境を早急に整えていく必要があると以前より常々考えていました。
4名の医師が同時に産休に!!
橋本先生:
そんな中、キャリアの異なる4名の医局員が同時に産休に入ることになりました。安心して産休に入ってもらうため、産休・育休を明けて戻ってくる医師に、戻る場所がないという不安を与えないことが重要ですし、子供が小さいうちは、発熱などで急な休みをとらなくてはならないということも多々発生します。
藤田医科大学には、夜間帯も子供を見てもらえる託児所「キッズコスモス」が併設されており、女性医師・研究者支援のための活動グループ「ジョイフル」や、24時間いつでも利用可能な「ジョイフルサロン」もあり、サポート体制もある程度備わってはいますが、いきなり長時間で復職をすることが難しい人も多く、産休・育休明けの働き方について悩んでいる医師もたくさんいます。
そんな女医さんも不安や負担を解消するために考え出した働き方が「ワークシェアリング」です。
4名の産休明け医師と、時短制度を利用中であった5名の医師が話し合い、勤務病棟や外来の診療業務を1人あたり週20~30時間で働けるように、自身の家庭環境に合わせながら偏りのない勤務体制を作成してくれました。そうしたことで、育児との両立もしやすく、ほぼ全員が負担なく生き生きと働き続けられるようになりました。
また、時短制度を利用した医師のみで、出勤できなくなり不在となってしまった時間を補完し合える「ワークシェアリング」のおかげで、常勤医師の負担も少なくなりました。結果的に女性医師たちが気兼ねなく働き、高いモチベーションを維持しながら前向きに診療に取り組むことができたと思います。
橋本先生:
このような取り組みを進められたのには、主任教授である安岡教授の理解とご尽力によるところがとても大きいです。
妻から学んだ女性医師の葛藤
安岡教授:
実は私の妻も医師であり、女性医師ならではの悩みも日ごろから耳にすることも多く、女性医師のキャリア構築に寄り添いたいという考えをもっていました。男性と女性は体の特徴や人生のイベントにおいて平等ではないなか、キャリアの構築は男女で共通するため、公平に働ける環境の整備は、人材の育成には必要不可欠でした。本学に赴任してから、病院長に学園規定の時短制度だけでなく、復職支援の交渉を行ってきました。
幸い、病院長も理解があり、柔軟な働き方ができるよう認めてくださいました。この人は時短勤務が活用できるが、この人は活用できないということがないよう、皆が希望する形態で公平に働くことができることで、モチベーションの維持につなぐことができたと思います。
また、医局員には常々、「細くてもよいから、長く続けなさい」ということを言っています。少しずつでもよいから、長く続けることで、将来的に他に代わりの利かない人材になることができるので、医局員には、無理なく努力を続けてほしいと考えています。また個別に面談する機会もあるため、各個人の人生設計や興味関心を聞いて、興味があるようであれば研究にも挑戦していただいています。わたしは教授として在任期間がしばらくあることから、それを支え、見守ることができるのではと思っています。
開かれた医局づくり
安岡教授:
当講座では、週2回開催しているカンファレンスのうち、1回はWebで開催しており、産休・育休のみならず、他の病院へ出向により、大学を一時的に離れることになった医局員も参加可能にしています。また、講演会や研修会の開催など、様々な情報をLINEで配信し、休職中等であっても、興味のある勉強会には参加して学んでいただけるようにしています。もちろん、任意の参加です。皆が平等にキャリアを紡いでいってほしいというのが私の想いです。また、教授室は要塞のようになって、皆が近寄り難くなりがちですが、私の医局では、秘書さんを教授室に配置していますので、医局員は秘書さんに用事があると教授室を訪れることになります。その際にそのままお茶しながらちょっとした雑談をし、その流れで悩みを聞いたり…なんてこともあります。
先輩ママドクターとしての経験を活かして
橋本先生:
私自身も子どもを産み、育てながら働いてきました。妻であり、母である女性としての多様な役割を担いながら、リウマチ専門医というプロフェッショナルな職業を全うすることは、本人の高い志と高いモチベーションが必須であると考えます。その就労意欲を失わないよう、そして、リウマチ医としての臨床と研究を長期的に継続できるよう、医局全体でキャリア支援を行っていきたいと考えています。
公私ともに、女性医師の働き方に関する葛藤を間近にみてきたからこそ、自分事のように考え、医局員の働きやすい職場づくりに積極的に介入されてこられた安岡教授。先輩ママドクターとして、自らも産休・育休を取得してきたため、休職中の生活や復職後の様々な不安に寄り添える橋本先生。