渡邉毅一准教授らの研究成果が学術ジャーナル「eLife」に掲載されました。
渡邉准教授らは、自由行動下におけるショウジョウバエの単一細胞レベルでの神経活動をモニタリングするための研究手法を確立しました。この手法は、高感度かつ低バックグラウンドの in situ hybridization (ISH) 法であるHybridization Chain Reaction (HCR)を活用し、HI-FISH として新たに開発されました。この方法を用いることで、攻撃行動や交尾行動中に活性化する複数の神経群の活動を記録することに成功しました。また、HI-FISH と光遺伝学的操作を組み合わせた opto-HI-FISH を利用することで、これらの神経群の下流ターゲットとなる神経細胞を脳全体にわたって特定しました。さらに、同一個体内で異なる行動に伴う神経活動を連続的にモニタリングすることで、攻撃行動と交尾行動それぞれに特異的に活性化する異なるサブセットが存在することを明らかにしました。本研究成果は、eLife Sciences Publications, Ltd. (Cambridge, UK)の学術ジャーナル「eLife」のVersion of Record版として2024年11月28日に公開されました。
脳の機能解明において、自由行動下での神経活動をモニターすることは極めて重要です。しかし、ショウジョウバエを用いたモデル研究において、既存の方法、例えば頭部を固定した状態での神経活動のカルシウムイメージングでは、行動中、特にConsummatory phase(行動の成果フェーズ)における自由行動下での神経活動記録は困難でした。一方、神経活動に伴い発現が誘導される最初期遺伝子(immediate early genes, IEGs) の発現解析は、ISH 法を用いて他の生物種(例:マウス)では盛んに行われてきました。しかし、ショウジョウバエ、特に成体脳では遺伝子発現量が低いことなどの理由から汎用されていないのが現状でした。
今回の研究では、HCR を用いることでこの課題を克服し、Hr38と呼ばれるIEGの 発現を詳細に解析しました。この新たな手法により、自由行動下、特に Consummatory phase における神経回路解析が可能となることが期待されます。HI-FISH および関連手法は、今後、ショウジョウバエの神経回路研究における重要なツールとして広く利用されると考えられます。
尚、本発表は、渡邉准教授が前任地であるカリフォルニア工科大学において行なっていた研究成果を藤田医科大学着任後にまとめたものです。
文献情報
論文タイトル
Whole-brain in situ mapping of neuronal activation in Drosophila during social behaviors and optogenetic stimulation
著者
Kiichi Watanabe1,3, Hui Chiu1,4, David J Anderson1,2
所属
1) Division of Biology and Biological Engineering, Tianqiao and Chrissy Chen Institute for Neuroscience, California Institute of Technology, Pasadena, United States
2) Howard Hughes Medical Institute, Chevy Chase, United States
現所属
3) International Center for Cell and Gene Therapy, Fujita Health University, Toyoake, Japan
4) Department of Immunobiology, Yale University School of Medicine, New Haven, United States
雑誌名他
eLife. 2024 Nov 28; 12:RP92380. doi: 10.7554/eLife.92380