薬剤耐性
薬剤耐性菌の増加は、世界的に公衆衛生学的な重要課題として認識されている。本邦においても2016年に「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」において「薬剤耐性(AMR)アクションプラン」が策定されるなど、薬剤耐性菌対策は国家的な重要課題として認識されるに至っている。本講座では多剤耐性グラム陰性桿菌を中心とした薬剤耐性菌の耐性メカニズム・疫学・臨床を重要な研究テーマと位置付けている。
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌の分子疫学と臨床像に関する研究
カルバペネム耐性腸内細菌科細菌は薬剤耐性菌の中でも近年、最も重要視されているものの一つであり、国や地域によりカルバペネム耐性の頻度の高い菌種や主要な耐性メカニズムが異なることが知られている。当講座では国内医療機関で分離されたカルバペネム耐性腸内細菌科細菌の菌株を収集し、ベータラクタマーゼ遺伝子のPCRスクリーニング、クローナリティー解析、全ゲノム解析などの分子生物学的解析を加えるとともに、臨床情報や病院疫学的情報との対比を行うことで本邦におけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌の分子疫学と臨床像を明らかにすることを目指している。
イミペネムがベータラクタマーゼに結合している様子
アミノグリコシド耐性に関与する16SリボソームRNAメチルトランスフェラーゼNpmB
病原性グラム陰性細菌のアミノグリコシド耐性の要因の1つに16SリボソームRNAのメチル化が知られている。これまでの研究で、16SリボソームRNAをメチル化する酵素は1405番目のグアニン(G1405)または1408番目のアデニン(A1408)をメチル化する2種類の存在が確認されていて、この2種類の酵素は共通して、カナマイシン、ゲンタマイシン、アミカシンなど4,6-disubstituted 2-deoxystreptamine(4,6-DOS)に対する耐性を付与する。さらに、A1408をメチル化する酵素はネオマイシンなど4,5-disubstituted 2-deoxystreptamine(4,5-DOS)に対しても耐性を付与することが知られていて、2007年に臨床分離株の大腸菌からNpmA1が発見されたが、この酵素以外は見つかっていなかった。
我々はイギリスでゲノム解析された大腸菌の中に、NpmA1に40%配列相同性を有する酵素NpmB1が存在していることに気づいた。このnpmB1遺伝子を実験室系大腸菌に導入したところ、NpmA1と同様に4,5-DOSと4,6-DOS両方のアミノグリコシドに耐性を示した。さらにPrimer extension assayによりNpmB1を発現する大腸菌の16SリボソームRNAはA1408がメチル化されていることがわかった。X線結晶構造解析法によりNpmB1の立体構造を決定すると、16SリボソームRNAへの結合時に6/7リンカーの構造変化が必要であることが示唆された。