教授挨拶

藤田医科大学医学部
アレルギー疾患対策医療学講座

教授 / 医師・医学博士

松永 佳世子

講座設立の経緯

藤田医科大学 医学部 アレルギー疾患対策医療学講座(ホーユー株式会社寄附講座)は2015年4月1日に専任教員 永井晶代講師、藤田医科大学 医学部 皮膚科学講座 教授であった私が責任者となり開講しました。講座の中には、プロテオミクスを中心とした研究設備が整い、2015年度も大豆、魚、卵、コチニール、コムギなどの食物アレルギーの抗原解析の研究をすすめてまいりました。そして2016年3月31日、医学部 皮膚科学講座 教授を退任した私が本講座の専任教員と講座責任者を兼ね、アレルギー疾患対策医療学講座 教授に就任しました。

講座の目指すこと

ホーユー株式会社より寄附を受けて医学部に設立された本講座は、その設立理念に基づき、アレルギー疾患対策医療学の名のとおり、アレルギー疾患で困っておられる患者さんのために、その原因アレルゲンを解明し、診断および病態把握のための検査方法を開発し、治療方法および発症予防の対策について研究します。また、藤田医科大学でアレルギー疾患診療にかかわる、小児科、内科、耳鼻科等の学内共同研究を推進するとともに、国内他施設との共同研究、さらには海外との共同研究をすすめてまいります。

講座教授 松永佳世子のアレルギー分野の研究歴

責任者となった私のアレルギー疾患に関わる研究歴を簡単にご紹介します。1976年3月名古屋大学医学部を卒業し医師となった私は、1年間のローテート研修の後に、翌年4月に皮膚科医となり、名古屋大学で、故早川律子先生に師事し、接触皮膚炎、化粧品の安全性、美容皮膚科などを専門領域としてき研究活動をしてまいりました。1991年に名古屋大学から医学部 皮膚科学講座 講師として藤田医科大学に移り、故上田宏教授に師事し、上田教授のご退任後、2000年に2代目の皮膚科学講座 教授となりました。

私のアレルギー研究は、「かぶれ」の研究から始まりました。かぶれは、接触皮膚炎が正式な専門用語ですが、遅延型のアレルギーを機序とするものが含まれます。化粧品、外用薬、家庭用品、植物など、さまざまなものが原因で「かぶれ」が起こります。発熱を伴う重篤な接触皮膚炎もあり、入院を必要とする患者さんも経験してきました。私は、2007年4月より4年間日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会理事長、パッチテスト試薬共同研究委員会 委員長を務め、接触皮膚炎症例の情報を収集し、問題の抽出と対策にあたってまいりました。本学会は2017年12月より日本皮膚免疫アレルギー学会に名称変更しています。2009年には日本皮膚科学会「接触皮膚炎診療ガイドライン」作成委員を務めました。また、国際接触皮膚炎研究班(International Contact Dermatitis Research Group: ICDRG)の班員として、世界の研究者と協力し、接触皮膚炎の研究と教育活動も行っています。

一方、1995年からラテックスアレルギーが、藤田医科大学病院の従業員の中で多発しました。これは、天然ゴム手袋に残留していたラテックス蛋白質が手の皮膚から吸収され、即時型アレルギーを発症したものでした。ラテックスアレルギーは、ラテックス製品と接触した部位に蕁麻疹が出現し、重篤な例では呼吸困難や血圧低下、ショック状態になる、危険なアレルギーです。全国にも同様な症例が多発したため、1996年11月に日本ラテックスアレルギー研究会が設立され、私も理事として、疫学調査、原因アレルゲンの解析、検査方法の確立、予防対策、「ラテックルアレルギー安全対策ガイドライン」の作成などを行ってまいりました。そのころから、ラテックスフルーツ症候群、口腔アレルギー症候群、あるいは花粉食物アレルギー症候群など、植物の中に含まれる生体防御蛋白質を中心とした食物アレルギー患者が増え、皮膚科、耳鼻科、内科、小児科、アレルギー科など、多くの科が関連するアレルギーが問題になってきました。

そして2011年5月、加水分解小麦末含有石鹸によって経皮感作された人に,小麦製品摂取による即時型食物アレルギーの症例が多発(2014年10月20日までに合計2,111人)したために,自主回収となり、大きな社会問題となりました。日本アレルギー学会は、化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会を2011年7月に組織し、私はその委員長を拝命し、症例情報の収集、診断方法の開発、診断基準の作成、原因抗原の解析、予後調査などの研究を行いました。現在は、その中の難治例の病態解明、治療方法の開発などの研究を行っています。

その他、2013年7月には、美白剤のロドデノール誘発性脱色素斑が発生し、ロドデノール配合化粧品が自主回収されました。日本皮膚科学会はロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会を設置し、私は委員長として、実態把握、疫学調査、病態解明、患者さんおよび医療者への情報提供を行ってきました。以上の2つの特別委員会は2015年5月末で,目的を達成し,閉会となりました。

これらの経験を通じ、健康被害症例情報を医師から迅速に収集し、産学官が連携して安全性の高い社会を作る、という構想が生まれ、国立開発研究法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究成果として2016年4月1日、一般社団法人SSCI-Net を設立し、理事長に就任し 「症例情報で繋ぐ皮膚の安全」をモットーに化粧品等による皮膚の健康被害を最小化する活動を続けています。

現在の課題

私は、このような経験から築くことのできた、即時型アレルギーの診療を行うエキスパート集団(加水分解コムギによる即時型アレルギーの登録施設)、主にアレルギー性接触皮膚炎の診療を行っているエキスパート集団(SSCI-Net登録医療施設)との連携を維持発展させ、本講座において、即時型アレルギーの抗原解析、検査・治療方法の開発研究、同時に、接触皮膚炎、薬疹などの遅延型アレルギーの検査・治療方法の確立、防御対策の研究を推進しています。