耳の疾患中耳炎
さまざまな中耳炎(特に、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎)と耳の手術
耳は、頭蓋骨のひとつ「側頭骨」の中に掘り抜かれているような構造になっています。耳の通路(外耳道)のつきあたりに鼓膜、があります。鼓膜の裏側の小さな空間のことを鼓室といいます。もっと奥には聴力を担当する蝸牛や、バランス機能を担当する(三)半規管があります。耳の構造のすぐ上には、脳があります。
鼓室にトラブルがおきることを中耳炎といいます。
最も多い中耳炎は、鼓室に感染が起きて、急に耳が痛くなってしまう急性中耳炎で、特に子供さんに多くおきます。自然に治ることがほとんどですが、ときどき重症になり著しく痛くなったり、膿が出たり、最悪の場合には難聴になったりします。場合によってはすぐに有効な抗生物質を使ったり、鼓膜切開を行って膿を出したりしなくてはなりません。当院では全時間帯に耳鼻咽喉科医が常駐しておりますので、必要に応じて対応が可能です。
鼓室に水がたまって排出されなくなってしまうのが滲出性中耳炎です。子供に多いですが、ときに成人にもおきます。飲み薬で治療することが多いですが、長引く場合には鼓膜を切って膿を排出したり、パイプを入れて換気をよくする小手術を行います。当科では外来での処置は勿論、お子様の場合麻酔をかけて安全な状態での処置も積極的に行っています。滲出性中耳炎の原因として、ときどき顔の奥のほうに癌などの重大な病気が隠れていることがあります。あまりにも治らない場合には、そういった病気の調べも行います。
鼓膜に穴があいたままふさがらなくなり、聞こえが悪くなったり、ばい菌の感染を繰り返して耳漏(みみだれ)が出るのが、慢性中耳炎です。鼓膜をふさぐ方法には薬剤による最新の鼓膜再生法(リティンパ®、外来処置で行うもの)、接着法(湯浅法、短期入院で行う)、鼓膜(鼓室)形成術(基本的に全身麻酔、確実性が高い)がありますが、いずれの方法も対応可能です。鼓膜の状態によっても選択される方法が異なりますので、よく相談させていただき治療方針を決めてまいります。
最も重大な中耳炎が、真珠腫性中耳炎です。鼓室から上の部分、”鼓膜の屋根裏部屋“のほうにかけて真珠腫といわれる「垢のかたまり」のようなものが出来てしまい、周囲をゆっくり破壊しながら徐々に進行します(先天性のものなど、例外もあり)。鼓膜や、鼓膜の上側の骨がえぐれて、そこから病変が奥にすすんでいきます。この部分の骨の中には、聞こえやバランスの機能、顔を動かす神経などとても大事なものが組み込まれていますから、放置するとこれらが破壊されてしまい重大なことになります。
上のほうに行くと脳の入っている床の部分の骨(頭蓋底)が抜けおちてしまい、脳の神経の障害の原因になったりすることもあります。当科では、非常に細かい部分まで撮影できる最新のCTなどによって術前に精査を行い、手術によって病気をしっかり取り去り、本来の聞こえの構造と鼓膜をしっかり作り直す手術(鼓室形成術)を行います。手術は繊細で時間がかかる作業で、入院が必要です。手術後は削った空間にゴミや膿がたまりやすくなったりすることもありますので、定期的に耳の中をケアしていく作業を行います。手術の方法は、病状によっても異なりますので、その都度相談させていただき決定してまいります。
慢性中耳炎も真珠腫性中耳炎も、手術が必要な病気であるにもかかわらず、症状があまり出ないまま、気づかないうちに徐々に進んでいくことも多いものです。ここに挙げたもの以外にも、耳の癌などのさまざまな種類の病気がありますので、耳づまり感、耳の痛み、聞こえの悪さなどが気になる方は、一度診察を受けることをおすすめいたします。