藤田医科大学 精神・神経病態解明センター 神経再生・創薬研究部門

論文発表

【1/13公開】Sopak Supakul、岡野栄之らの論文が公開になりました。

Sopak Supakul(筆頭著者)、岡野栄之(研究責任者)らの論文がRegenerative Therapyに掲載されました。

論文タイトル:Estradiol enhanced neuronal plasticity and ameliorated astrogliosis in human iPSC-derived neural models

本研究では、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いたアルツハイマー病(AD)モデルを確立し、女性ホルモンであるエストラジオール(E2)の投与による効果を検討しました。近年、モデルマウス等を用いたAD研究によって、性ホルモンがAD病態の改善に効果があることが示されています。さらに、人間集団を対象とした臨床研究においても、特にエストラジオール(E2)等の性ホルモンによる認知症の改善効果を示すエビデンスが蓄積されています。今回の研究においては、健常者由来iPS細胞 2 株(1210B2株(女性)、201B7株(女性))、家族性アルツハイマー病患者由来 2 株(APP KM670/671NL株(女性), APP V717L株(女性))、孤発性アルツハイマー病患者 3 株(ApoE ε3/ε3株(男性), ApoE ε3/ε4株(男性), ApoE ε3/ε3株(女性))から、単培養の神経細胞モデル及び神経細胞とアストロサイトを分化誘導した共培養モデルを確立しました。単培養モデルではELISAによるAβ分泌量の上昇がADの表現型として確認され、共培養モデルではアストログリオーシス様表現型が認められました。さらに、女性ホルモンのE2投与により、神経活動の亢進、神経突起の複雑さの上昇、アストログリオーシスの緩和といった神経可塑性を向上させる効果が認められました。しかし、ADに特徴的な病態であるAβ分泌量及びリン酸化タウタンパク量に関してはE2投与による効果が認められませんでした。E2は男性・女性、AD・健常者に関わらず、全ての細胞株に対する神経可塑性を向上させることが明らかになりましたが、神経細胞特異的な分泌Aβ及びリン酸化タウタンパク量を改善する効果を確認することはできませんでした。しかし、E2によりアストログリオーシス様表現型を緩和する効果が認められたことから、今後神経細胞だけでなくグリア細胞に対する効果を検討する必要が示唆されました。