数値流体力学を用いた口蓋裂の包括的病態解析と
治療方針決定への応用
research
口蓋裂と鼻咽腔閉鎖について
先天的に口蓋に裂が存在する口蓋裂は、その裂により鼻咽腔の閉鎖不全を生じます。鼻咽腔閉鎖不全があれば声が鼻に抜けてしまい開鼻声となり正常な発声ができず、その後の言語の習得や発達、周囲とのコミュニケーションに悪影響を与えます。そのため口蓋裂の患者さんには早期の鼻咽腔閉鎖不全の評価と治療介入が不可欠です。
口蓋裂の治療方法
口蓋裂の鼻咽腔閉鎖不全に対する手術加療としては、口蓋の裂を閉じる口蓋形成術と鼻咽腔を狭くする咽頭弁形成術があります。共に鼻咽腔閉鎖機能を改善する手術ですが、口蓋形成術は10%程度の症例に鼻咽腔閉鎖不全が残存する可能性があること、咽頭弁形成術は重度の睡眠呼吸障害を引き起こす可能性があることなどの問題があるため、治療法の選択については十分な検討が必要です。
鼻咽腔機能の検査とその問題点
当院で現在施行している鼻咽腔閉鎖機能の検査は、発声時にどれだけ鼻から息が漏れるか評価するブローイング検査と鼻からファイバーを挿入し鼻咽腔を直接観察する鼻咽腔内視鏡検査があります。しかしブローイング検査は検査時の鼻の状態や環境で結果が左右されます。また、鼻咽腔内視鏡検査は鼻から異物を入れる不快感のために評価困難となることが多いです。そのため、さらに正確な評価が可能となる検査が必要とされています。
主な研究内容について
そこで我々は流体の運動をコンピュータで解析する数値流体力学を鼻咽腔機能の検査に応用する研究をしております。もともと口蓋裂は鼓膜の内側に滲出液が貯留する滲出性中耳炎や副鼻腔炎を起こしやすいため、それらの評価をCTの撮影にて行いますが、その際に鼻咽腔閉鎖時の3DCTを撮影します。そのCTデータをもとに鼻咽腔の気流パターンを解析し、従来行っていた鼻咽腔機能検査結果の相関を行い手術適応の有無や術式の選択に耐えうるか評価します。当院口腔外科や放射線科、岐阜高等専門学校など複数の科や施設で施行しております。
この研究によりCTデータを用いた解析の有用性が明らかになった暁には、鼻咽腔閉鎖不全の方にこれまでより安全かつ正確に口蓋裂による鼻咽腔閉鎖不全の治療適応を決定できる可能性があります。