藤田医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

頭頸部外科手術

耳下腺腫瘍

耳下腺腫瘍の初期症状の多くは耳下部にしこりを触れることです。耳下腺腫瘍の8割は良性腫瘍です。急に大きくなる、痛みがある、顔の麻痺がある場合には悪性の可能性があり早急な受診が必要です。 治療は、良性腫瘍でも悪性腫瘍でも、基本的に手術が必要になります。耳下腺腫瘍手術の最大の合併症は顔面神経麻痺です。耳下腺の中には、顔の表情を作るための顔面神経が走行しています。手術でこの神経を損傷すると、術後に顔面神経麻痺が生じ、顔の表情が歪みます。
当科では、顔面神経麻痺の合併症のリスクを最小限に抑えるために、手術の際には術中神経モニタリングシステム(NIM Response)を用いています。この装置を用いることで、術中に顔面神経の走行を確認しながら腫瘍の切除を行うことができます。
また耳下腺腫瘍の切除では、耳前部から頸部にかけて、もしくは耳後部を弧状に皮膚切開します。頸部の傷が審美性の面で問題となる場合には、髪の毛に隠れる位置の皮膚切開(facelift incision)で手術を行います。(図1)これにより頸部の創部が目立ちにくくなります。(腫瘍の位置や大きさにより困難なケースがあり、術前に個別の相談が必要です。)

また、当科では耳下腺悪性腫瘍の治療も行っています。術前の検査で悪性が疑われる場合には、耳下腺腫瘍摘出と共に周囲リンパ節の郭清を行います。腫瘍の浸潤があり、顔面神経合併切除が必要な症例には状況により形成外科と合同で神経吻合術を実施します。また頭頸部癌カンファランスで検討し、術後治療が必要な症例には、放射線治療や化学療法も行います。

甲状腺腫瘍

甲状腺は通常体表から触れません。前頸部にしこりを触れる場合には甲状腺腫瘍の可能性があります。甲状腺腫瘍は多くは無症状で、腫瘍が大きくなると、飲み込みにくさやのどの違和感を自覚することがあります。悪性腫瘍では、声がれ(嗄声)が生じることがあります。

良性の甲状腺腫瘍であれば、経過観察を行いますが、腫瘍のサイズが大きい場合や整容面を考慮して手術を検討します。甲状腺悪性腫瘍の90%以上は、乳頭癌で、進行が遅くおとなしい癌です。甲状腺癌に対しては、原則手術が行われます。甲状腺腫瘍手術の合併症の代表的なものに反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症があります。反回神経は声を出すための大切な神経で、損傷すると術後に声の嗄れが生じ、話をする際に疲れやすくなります。

当科では、甲状腺全摘術の際には術中神経モニタリングシステム(NIM Response)を用いています。この装置を用いることで、術中の反回神経の同定、温存に役立ちます。また、極力、副甲状腺を温存し手術を行うことで、術後の副甲状腺機能低下症を防ぎ、合併症を防ぐようにしています。甲状腺悪性腫瘍手術で縦隔に進行した症例では、呼吸器外科と合同手術を行っています。甲状腺癌の再発・転移症例については、腫瘍内科医による抗がん剤治療を行っています。

現在は、2016年より保険収載された、内視鏡下甲状腺手術についても準備をすすめています。通常は頸部に5〜10cmほどの切開をして甲状腺の手術を行いますが、内視鏡下甲状腺手術は頸部に傷をつくらず甲状腺の切除を行う術式です。本術式では、鎖骨外側の下方の皮膚割線に沿って2.5cm長さの切開を加えるのが一般的です。(図2)。良性結節性甲状腺腫、バセドウ病、早期の分化癌が本手術の適応となります。