藤田医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

ロボット手術、内視鏡手術

咽頭がん・喉頭がんに対する内視鏡手術・ロボット手術

咽頭や喉頭はいわゆる「のど」と言われる体の部位です。のどは飲み込み、呼吸、発声のルートであり、豊かな日常生活を営む上でとても大切な役割を担っています。そのため、咽頭がんや喉頭がんの治療においては、がんを治療するだけでなく、治療後の人生を考えて可能な限り飲み込みや発声の機能を温存することが重要となります。嚥下や発声の機能を温存しつつ癌を治療するには早期発見・早期診断が欠かせませんが、近年NBI(narrow band imaging)を初めとする内視鏡技術の発達により、これまででは発見が難しかった癌を早期に診断することが可能になってきました(図1,2)。

NBI(narrow band imaging)の原理
図1:NBI(narrow band imaging)の原理

NBIの原理
図2:早期の下咽頭癌 通常光による観察

図2:早期の下咽頭癌 通常光による観察
図2:早期の下咽頭癌 NBIによる観察

このような早期の咽頭がん、喉頭がんに対しては、Transoral videolaryngoscopic surgery(TOVS)やEndoscopic laryngopharyngeal surgery(ELPS)などの内視鏡手術が有効です。これらの手術では、内視鏡を口から挿入し、病気をモニターに映し出しながら口から入れた器具を使って癌を摘出します(図3)。首に傷がつかず、またこれまでの治療法に比べて飲み込み(嚥下)や声(発声)の機能を温存できるというメリットがあります。当院では耳鼻咽喉科・頭頸部外科と消化器内科が協力し、咽頭がん・喉頭がんを早期発見できる体制を整備しており、これらの手術について世界有数の経験を持つ医師が治療を行っています。この手術は2020年より鏡視下咽頭悪性腫瘍手術、鏡視下喉頭悪性腫瘍手術として保険適応となり、咽頭がん・喉頭がんに悩む多くの患者さんに福音をもたらしています。

図3:下咽頭癌に対する内視鏡手術 摘出前
図3:下咽頭癌に対する内視鏡手術 摘出前

図2:佐藤式彎曲型咽喉頭鏡
図3:下咽頭癌に対する内視鏡手術 摘出後

また、当科では手術支援ロボット「ダビンチ」(da Vinci Surgical System)を用いた手術についても積極的に行っています(図4)。のどの手術は、口腔内の狭い範囲で行うことになりますが、ダビンチを用いる事で、3D内視鏡で拡大視をしながら、多関節の鉗子を用いてのどの奥にまでアプローチし、がんを切除できるようになります。ロボットが自動で手術を行うわけではなく、経口的手術を実施できる医師がロボットを用いて手術を行います。当科はロボット支援手術において国内で中心的役割を担っており、全国の耳鼻咽喉科・頭頸部外科が当院に来られて実習を行い、この手術について学んで頂いています。現段階では保険適応のない治療技術ですが、今後広く普及していくことが期待されています。ロボット支援下手術は特に咽頭・喉頭の早期がんの患者さんが対象です。また、がんの部位やステージによっては放射線治療や外切開での手術が優れている場合もあり、腫瘍内科医、放射線科医、口腔外科医などが集まる頭頸部がんカンファランスで、各々の患者さんに最適な治療方針を検討し提案していきます。

図3:下咽頭癌に対する内視鏡手術 摘出前
図4:下ロボット支援下咽頭・喉頭悪性腫瘍手術

図2:佐藤式彎曲型咽喉頭鏡
図4:ロボット支援下咽頭・喉頭悪性腫瘍手術

甲状腺腫瘍・甲状腺がんに対するロボット手術

甲状腺腫瘍や甲状腺がんなど、甲状腺疾患に対する手術は、首の中央に10~15㎝程度の皮膚切開を行うのが一般的です。しかしながら、首の常に見える場所に残る手術の傷は整容上切実な問題となることがあります。甲状腺外科手術では腫瘍の完全摘出と綺麗な傷跡の両立が重要となります。

日本では整容面に配慮した内視鏡補助下甲状腺手術 Video-Assisted Neck Surgery (以下VANS)という術式が行われています。VANSでは、首の皮膚を5mm切開し、鎖骨の下の皮膚を2.5cm程切って行います。しかし、通常の首を切る手術に比べて時間がかかり、また襟元の大きく開いた服では鎖骨の下の傷が見えてしまうという問題がありました。

内視鏡手術(VANS)

そこで当科ではロボット支援下甲状腺手術を行っています。この手術では脇の下を切って手術を行うため、水着になって腕をあげなければ傷が見えることはありません。また、ロボット支援下手術では高解像度の3D画像を見ながら手術が出来、かつ自在に操れる手術道具を使えるため、従来のVANSよりも高い技術で手術を行うことができ、手術時間もVANSと比べて短く済みます。適応となる疾患は良性結節性甲状腺腫やリンパ節転移のない甲状腺乳頭癌としています。甲状腺へのロボット手術は海外では韓国をはじめ広く行われており、安全性も確立されています。しかし、国内でこの手術を行っているのは当院を含めて2か所しかないため、まだ保険適応になっておらず、自由診療で実施しています。

なお、従来の首を切る手術、内視鏡手術、ロボット手術とも安全な術式であり、手術後の合併症の頻度には差がないとされています。また、内視鏡手術、ロボット手術は、甲状腺から離れたところを切開して手術するため、従来の手術よりも広い範囲を触ることになりますが、首に傷が無いため従来の手術に比べて痛みが若干少なく、また入院期間も短い傾向にあると言われています。

ロボット手術

ロボット支援下甲状腺手術