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行動実験施設


網羅的な行動テストバッテリーによる遺伝子機能の探索・解析

 ヒューマンゲノムプロジェクトによってが人間の全ゲノム配列の解析が終了しましたが、各遺伝子の個体レベルでの機能についてはほとんどが未知のままです。当部門では、脳に発現する遺伝子についての遺伝子改変マウスを用いて、その表現型-主に行動-を解析することにより、遺伝子の機能を探ります。

当行動実験施設の特徴

  1. 計10個の防音実験室を備えているため、各防音実験室で同時に独立して実験を行うことができます。
  2. 時間のかかるテストに、より多くの実験室を割り当てることと、時間のかからない複数のテストを一部屋にまとめることにより、テストバッテリーとしての全体的スループットの向上を図っています。
  3. 実験者への負担の軽減、実験者間のデータの整合性・信頼性の向上、解析の効率化などのため、可能な限り自動のテストシステムを導入しています。
  4. 隣接した休憩室にて、実験の合間に適宜休憩がとれるようになっています。

防音実験室

  • 外部の音を30dBほど、低減することができます。
  • マウスの行動は騒音に左右されやすいので、普通は大きな部屋でも1部屋で1実験しかできませんが、当行動実験室では、各防音実験室で独立に実験を行うことができます。
  • 防音室内の壁についているボードは、室内での不自然な反響や吸音を抑え、自然な音感を出すためのものです。

行動実験計画の立て方

行動実験予定を立てる上での注意事項

・行動実験には control 群、mutant 群それぞれ15~25匹の雄マウスを使用します。一番若いマウスが9週齢になった時点で行動実験施設へ搬入し、10週齢より行動実験を開始しています。
・遺伝子型判定のために必要以上に尾を切り取ったり、足の指を切断してマウスを識別したりすると、行動実験に影響を与えることがありますので、注意をお願いします。
・「当研究室で実施可能な行動テスト表」に基づいて行動実験予定を立てます。
・ ある特定の行動の測定には、必ず「混交要因」が存在します。例えば、空間記憶のテストのモリス水迷路の場合、水泳能力、プラットフォームにのぼる動機付けの強度、逃避戦略などが混交要因となります。水泳能力などの混交要因に障害がある場合は、モリス水迷路で空間記憶を評価することは困難になります。したがって、1種類の行動の測定のために、異なる混交要因をもつ複数のテスト(行動テストバッテリー)が必要となります。
・行動実験はマウスにとってストレスが少ないと思われるテストから順に行います。一例として当研究室における 1st screening用のフルセットのテストバッテリーを示します。
general health/neurological screen → wire hang/grip strength test → light/dark transition → open field → elevated plus maze → hot plate → social interaction (novel environment) → rotarod → prepulse inhibition/startle response → Porsolt forced swim → eight-arm radial maze → cued and contextual fear conditioning → 24 hour home cage monitoring(SI)
(全体で約3ヶ月、時間がかかる学習・記憶テストを除くと1~1.5ヶ月かかります。)
・ 原則として1日に1種類の行動テストを行ないます。
・行動テストバッテリーの途中でも、行動実験結果に応じて適宜、実験を追加します。例えばRotarodで運動機能の障害が示唆される場合はBeam testを追加実験しています。
・学習実験の選択について
  当研究室では、① eight-arm radial maze、② Barnes maze、③ Morris water maze の3つの学習実験を行なうことが可能ですが、各々の特性を考慮して選択する必要があります。
① eight-arm radial maze  実験に先立ち1週間のdeprivationが必要です。作業記憶、参照記憶、固執傾向を評価できます。実験には3週間~2ヶ月かかります。
② Barnes maze  マウスに対するストレスも少なく、約2週間で行なうことができます。当研究室では参照記憶、固執傾向の評価に用いています。
③ Morris water maze  運動機能等の混交要因が他の2つの実験に比べて大きいと言えます。参照記憶、固執傾向、作業記憶を評価することができます。実験期間は約3週間です。

当研究室で実施可能な行動テスト表

テスト ※a 測定項目 実験期間
※b
実験時間/日
※b
優先順位
 ※c
general health/neurological screen 体重・直腸温測定・髭や毛皮の状態・各種反射 1日 3 1
wire hang 筋力 1日 2 1
grip strength test 筋力 1日 2 1
light/dark transition 不安様行動 1日 3 1
open field 活動量・不安様行動・薬物感受性 2日 6 1
elevated plus maze 不安様行動 1-2日 4 1
hot plate 痛覚感受性 1日 2 1
social interaction (novel environment) 社会的行動 1-2日 4 1
rotarod 協調運動・運動学習 2日 3 1
beam test 協調運動・運動学習 2日 4 2
prepulse inhibition/startle response 感覚-運動ゲーティング・聴覚・驚愕反応 2日 5 1
Porsolt forced swim うつモデル 2日 3 1
eight-arm radial maze 作業記憶・参照記憶・固執傾向など 3週間-2ヶ月 3-6 2
Morris water maze 参照記憶・固執傾向・作業記憶など 3週間 3-5 2
Barnes maze 参照記憶・固執傾向・作業記憶など 2週間 3-5 2
object recognition test 参照記憶 1-2週間 5 2
cued and contextual fear conditioning 文脈記憶など 2日 3-6 1
latent inhibition 潜在抑制 2日 3-6 2
Tail suspension test うつモデル 1日 3 1
24 hour home cage monitoring (+food and water intak 24時間の活動性・サーカディアンリズム 5日-5週間 - 2
24 hour home cage monitoring(SI) ホームケージ内での社会的行動 3日-2週間 - 1
※a 実際に行われる実験の順序に従って記載
※b 40匹の場合で計算
※c 1st screening用の行動テストバッテリー(学習実験を除く)に含まれるものを1、それ以外を2と表記