縦隔腫瘍の手術
縦隔腫瘍(じゅうかくしゅよう)・胸腺種・重症筋無力症の手術法
重症筋無力症や胸腺腫では胸腺をすべて切除(拡大胸腺摘出術、胸腺胸腺腫摘出術)する必要があります。
開胸手術
近年胸腺摘出術も多くの施設で胸腔鏡手術が行われていますが、未だ胸骨正中切開で行う施設が多数あります。進行した胸腺腫(隣接する臓器や血管などに浸潤した場合など)は一般にこの胸骨正中切開で行われます。胸骨正中切開の欠点は、胸骨を縦に切断しなくてはならず、回復に時間がかかること、胸骨が感染すると重篤な状態となる可能性があること、美容的に優れないことです。
一般的な胸腔鏡手術
胸腔鏡下の胸腺摘出術は、一般に片方の(右もしくは左)側胸部のろっ骨の隙間から1~3cmの傷を3~4か所開けて手術が行われます。傷が脇に存在するので目立たないことが利点です。開胸手術でも胸腔鏡手術でも、ろっ骨の隙間から行う手術では約10~50%の方に痛みやしびれが一生残ると言われています(開胸術後疼痛症候群)。重症筋無力症の手術では、両側の胸腺をしっかり切除する必要があるため、両側の側胸部から手術を行う場合があります(よって両側の側胸部に合計6か所以上の傷が必要になります)。
単孔式胸腺摘出術(剣状突起下アプローチ)
この手術は、2011年に我々が開発した世界で一番小さな傷で行う最も身体の負担の少ない方法です。この方法は、おなかのみぞおちに3cmの切開一つで胸腺を摘出する方法です。傷が小さいこと、ろっ骨と関係しない場所からの手術であるため前述のしびれ(開胸術後疼痛症候群)が生じないこと、痛みが少ないことが利点です。患者さんに大きなメリットがあります。この手術は、手術に慣れが必要なため、全国でもこの手術ができる施設は限られています。我々は、ほとんどの胸腺摘出術をこの方法で行っています。重症筋無力症の方でも、両側の胸腺および周囲脂肪組織を含めて完全な切除が可能です。現在もこの手術を受けるために私共のところに全国から患者さんが受診されています。
ロボット胸腺摘出術(剣状突起下アプローチ)
この方法も、2015年に我々が開発した方法です。剣状突起下(みぞおち)からの方法とろっ骨の隙間から行う方法を組み合わせた方法です。この方法は、胸腺全体を観察することができ、より難しい手術を内視鏡下にできるので、今世界で大変注目されている方法です。我々は、血管(上大静脈や左腕頭静脈など)や周囲臓器(肺や心膜など)に浸潤(進んでしまうこと)してしまった患者さんに対してこの方法で手術を行います。もし他施設で胸腺腫(前縦隔腫瘍)と言われ、開胸手術が必要と言われた場合でも、当院では胸を開かずにロボットを使用して体の負担を減らして手術を行うことができる場合があります。須田までご相談ください。