研究内容
分子遺伝学研究部門の研究テーマ
染色体異常は、生殖細胞レベルでは染色体疾患や不妊症、習慣流産の原因であることが知られています。また、体細胞レベルでは細胞のがん化などにも関与しています。このような染色体異常が、なぜ、どのようにして発生するのか、その詳細はまだよくわかっていません。わたしたちの研究室はその未解明の命題を明らかにするため、染色体異常に至る分子メカニズムの同定を目標に、次世代シークエンサーやマイクロアレイを利用したゲノム解析、細胞やモデル生物を用いた解析など、種々の染色体ゲノム学的な手法を駆使して、研究活動を行っています。
染色体構造異常の研究
染色体解析の手法が、顕微鏡による染色体の形態学的解析に加え、染色体マイクロアレイや次世代シークエンサーによる分子遺伝学的手法が可能となったことで、従来の解析手法では見つけることのできなかった染色体異常の複雑性が明らかとなり、近年ではChromothripsisに代表される新しい染色体異常の発生メカニズムが提唱されています。しかしながら複雑な染色体構造異常の詳細なゲノム構造の解析の報告は少なく、その詳細な分子メカニズムは未解明のままです。わたしたちの研究室では、全国の研究施設と共同研究を行い、G分染法やFISH法、染色体マイクロアレイ法や次世代シークエンサーなどの染色体ゲノム学的手法を駆使して、染色体構造異常の発生メカニズムの解明に取り組んできました。近年では「染色体間挿入」や「逆位重複端部欠失」、「3-way転座」などの複雑な染色体構造異常の核型を持つ症例のゲノム解析を行い、染色体の構造や切断点情報から構造異常の新たな発生メカニズムを提唱しています。現在は、ゲノム解析により得られた知見をもとに、クロマチン構造やゲノム3D構造、核内配置などとの関係から、あらたな発生メカニズムの解明にアプローチしています。また、染色体転座マウスモデルや、構造異常を導入できる細胞モデル系、染色体にタグを入れて生細胞で観察するシステムなども応用して、新たな染色体構造異常発生の分子メカニズムの解明を進めています。
染色体数的異常の研究
ヒトは23対46本の染色体を持っていますが、染色体の分配がうまくいかないと染色体数に過不足が生じることがあり、これを染色体異数性と呼んでいます。受精卵の染色体異数性は不妊や流産、先天性の染色体疾患の原因となります。一般的にその発生頻度は女性の加齢に伴い増加することが知られていますが、その機序はよくわかっていません。わたしたちは、複製後の姉妹染色分体間を接着するタンパク質であるコヒーシンに着目し、加齢に伴う異数性の増加機構を研究しています。これまでに、ヒトおよびマウスの卵母細胞の減数分裂コヒーシンを定量したところ、加齢に伴い減少することを見出しました。コヒーシンが減少すると染色体同士の繋がりが失われるために染色体の正確な分配ができず異数性が生じると考えられます。現在はコヒーシンが減少するメカニズムの解明を進めています。これにより高齢妊娠における受精卵の染色体異数性の予防法開発に役立つことが期待されます。また、受精後の初期胚も異数体が高頻度に発生する染色体分配の不安定な時期であることが知られています。他の体細胞とは異なり、なぜ初期胚は染色体の分配を正確に行えないのか、培養細胞で受精卵様の環境を作成し、染色体不安定性の原因究明に取り組んでいます。また、正常細胞と染色体異常を持つモザイク細胞が、発生が進むにつれ、内部細胞塊(ICM)や栄養外胚葉(TE)にどのように分化し、そして移植、着床にどのように影響するか調べています。
共同研究
当研究室では、これまで培ってきた遺伝子解析や染色体解析の技術や知見をもとに、学内外の様々な研究者と共同研究を実施しています。また染色体解析の結果解釈は専門性を要するため、解釈に困った場合など、研究施設からのヒトの染色体異常に関する相談に応じています。