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難治疾患細胞制御学寄附講座(神経再生治療部門Ⅱ)


寄附講座(部門)の概要

本研究部門では、脳神経系の難治疾患に対する細胞移植治療法の開発のための基盤研究を進めてきました。

■課題
アルツハイマー病や、パーキンソン病などを含む神経変性疾患、あるいは、脊髄損傷や脳血管障害にともなった神経組織の障害に対する根本的な治療は未だ確立されていません。我々のグループでは、多能性幹細胞を特定の神経細胞、例えば大脳皮質や大脳基底核、脊髄運動神経へと分化誘導し、それらを用いた細胞移植によって失われた神経細胞を補充することによる治療法の開発を目標とした研究を行ってきました。

■課題解決に向けて

という大きく2つの軸に沿った研究を行っています。
特に2)の脊髄損傷に対する細胞移植実験においては、本学脊椎科(難治疾患細胞制御学寄附講座:神経再生治療部門I)の金子教授グループ、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、武田薬品工業との共同研究をベースに、基礎医学だけでなく、臨床医学、製薬からの視点を包括した学際的なアプローチによって研究を進めてきました。

寄附講座(部門)責任者のコメント

藤田医科大学 研究支援推進本部 国際再生医療センター
渡邉 毅一

概要で述べたとおり、本研究部門では1)マウスモデルを用いたES細胞由来の大脳オルガノイドの細胞移植とその機能解析、2)脊髄損傷モデルマウスへのヒトiPS細胞由来脊髄運動神経の細胞移植による機能回復という大きな二つの軸に沿った研究を行っています。

1)マウスモデルを用いた大脳オルガノイドの細胞移植とその機能解析にあたっては、移植に用いる大脳オルガノイドの試験管内での分化誘導方法の確立、移植細胞が効率よくモデルマウスの脳へ生着するための細胞移植条件の検討、移植したオルガノイドの機能評価系の確立などが必須であり、方法論として、神経発生学、幹細胞生物学、神経科学など複数の研究分野をまたいだアプローチとなります。これまで、幹細胞生物学分野においてSFEB法と呼ばれる哺乳類ES細胞からの神経分化方法の確立や、ROCK阻害剤を用いたヒトES細胞の細胞死の抑制方法の開発などに関わるとともに、神経科学分野においても、ショウジョウバエをモデル生物とした行動を制御する神経回路の同定やその機能解析などに携わってきましたが、それらから学んだ研究手法や考え方を総動員する形で研究に取り組んでいます。現在までに、分化誘導したオルガノイドのマウスへの移植方法の最適化(図1、図2)ならびに、オルガノイドの宿主内での機能解析の前段階として、細胞培養条件下でのオルガノイドの神経活動の解析を行いました(図3)。

図1mES細胞から分化誘導した大脳オルガノイドのmPFC(内側前頭前野)への移植 (1)
細胞移植実験の模式図(A)。移植後1ヶ月後の移植部位組織の免疫染色像(B)。Nissl染色によって神経細胞を可視化したもの(緑)、移植片由来の細胞をRuby2smで標識したもの(マゼンタ)。欠損部位の壁に沿って少数のマゼンタ陽性の移植片由来細胞がごく少数ながら認められる。

図2 mES細胞から分化誘導した大脳オルガノイドのmPFCへの移植 (2)
細胞移植2週間後の移植部位組織の免疫染色像。Nissl染色によって組織を可視化しシアン)、移植片由来の細胞をRuby2sm (マゼンタ)、神経細胞マーカー NCAMで標識したもの。細胞外マトリックスで包埋後細胞移植(A)、あるいは栄養素を含む細胞外マトリックスで包埋することで移植効率を最適化した(B)。図1の場合と比較して非常に多くのマゼンタ陽性の移植片由来細胞が認められる。




図3 mES細胞由来大脳オルガノイドの試験管内での活動
分化誘導した大脳オルガノイドにカルシウムインジケーターであるjGCaMP8sを発現させ、活動静止時と興奮時の神経活動の様子を示した(A)。オルガノイド内の各神経細胞の活動をラスタープロットで示している。多くの細胞が同期して興奮していることが観察される(赤arrowhead) (B)。


2)脊髄損傷モデルマウスへの細胞移植研究においては、本学脊椎科(難治疾患細胞制御学寄附講座:神経再生治療部門I)の金子教授グループ、CiRA、武田薬品工業との共同研究を進めており、具体的には、CiRAより提供されたヒトiPS細胞由来の脊髄運動神経のオルガノイドの細胞移植、武田薬品工業から提供され、CiRAにて同定された神経突起伸長活性のある化合物投与の2つを組み合わせることで、マウス脊髄損傷モデルにおける機能回復効果の検討を行なっています。我々のグループでは、特に、脊髄運動神経のオルガノイドを移植に適した形状への加工や、移植後の脊髄組織の解析を担当しています。

最後に、長期の留学から帰国して研究グループを立ち上げるという非常に大変な時期に、寄附講座という形で多大なる援助をいただけたことを、この場をお借りして改めて感謝いたします。