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難治疾患細胞制御学寄附講座(細胞治療部門)


寄附講座(部門)の概要

■目的
難治疾患細胞制御学(細胞治療部門)は、有効な治療法がない、あるいは治療法が未知の疾患の病態を明らかにし、細胞を応用して制御することを目的とした医学部の講座(部門)です。

■目的達成のために
組織適合性抗原であるヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen: HLA)は、「自己」と「非自己」の識別に関与し、がんや感染症などの病態において重要な役割を持つため、本部門の目的を達成するための基盤的技術としてHLA関連検査の実装を行いました。具体的には、HLA DNAタイピング検査、抗HLA抗体検査、およびクロスマッチ検査を日本組織適合性学会QCWS参考プロトコルに基づいてin-houseで実施可能とし、東海北陸厚生局に届け出を行い受理されていました(受理番号抗HLA第12号)。折しも、新型コロナウイルス感染症が流行し、全世界的に未知の感染症の病態を解明し、治療法を開発する取り組みが行われましたが、当部門でもHLA-A*24:02拘束性SARS-CoV-2特異的T細胞レセプターのクローニングを目指した患者検体の収集事業を行いました。当部門で実装したHLA関連検査は、藤田医科大学病院での腎臓や肝臓などの臓器移植医療において日常的に利用されており、また免疫学的に異常のある妊娠症例の出産や特殊な血液型をもつ症例に対する輸血においても意義ある情報を提供してきました。

In-houseでの検査実施が可能

寄附講座(部門)責任者のコメント

藤田医科大学 医学部輸血細胞治療科 教授
藤田医科大学 病院輸血部長
藤田医科大学 医療科学部細胞機能解析学分野 教授
三浦 康生

当部門で実施したHLA関連検査の詳細と件数は下表の通りです。藤田医科大学病院においては腎移植が当検査を最も利用する医療領域であり、次いで肝移植および造血細胞移植で利用されています。免疫系疾患と特定のHLA型との関連は広く認識されており、多様な診療科からの利用が見られます。In-houseでの検査実施の最大のメリットは、タイムリーな検査データのフィードバックにあります。これは、藤田医科大学での臓器移植の質を維持するために不可欠な要素と考えています。

一般に頻度1%未満の血液型を稀血(まれけつ)と称します。日本人の稀血であるDuffy(a)陰性の血液型を持つ肝細胞癌症例に発生した遅発性溶血性輸血反応が、患者の持つ抗Fya抗体が誘導する免疫反応であることを明らかにしました。また、本患者のもつHLA-DRB1*04:03およびHLA-DRB1*09:01がDuffy(a)ペプチドのYGVNDSFPDおよびFSIVVPVLAをコアシークエンスとして抗原提示しうることを示しました。抗Fya抗体と特定のHLAの関係を示した本邦初の報告で、世界的にもフランスからの報告が1報あるのみで、遅発性溶血性輸血反応を引き起こす抗体産生に関わる免疫学的メカニズムの一端を示しました(文献1)。

新型コロナウイルス感染症において、SARS-CoV-2スパイクタンパクに対する抗体はウイルスの排除や感染予防に重要である一方で、ウイルスに対する過剰な免疫反応が臓器障害を引き起こすことが次第にあきらかになるなか、当部門においては新型コロナウイルス感染症の症例の45%で赤血球に対する異常な抗体が産生され貧血の原因となることを世界に先駆けて報告しました。具体的には、HLA-DRB1*12:01およびHLA-DRB1*12:02を持つ症例に有意に赤血球に対する異常な抗体保有率が高く、スパイクタンパクのレセプター結合領域と血液型RhCEが共通に保有するペプチドがHLA-DR12に結合することおよびB細胞レセプターエピトープになること、さらにペプチド反応性T細胞の存在を明らかにしました(文献2)。
本研究成果は、当部門の基盤技術に加えて、藤田医科大学病院呼吸器内科と輸血部の検体収集における連携、藤田医科大学医学部輸血細胞治療科と医療科学部細胞機能解析分野が保有していた細胞培養技術と細胞解析技術が発揮されたコラボレーションの結果であり、今後も協力体制を維持し、新たな道を切り拓くことを目指したいと思います。(右図:赤血球に対する異常な抗体を産生した新型コロナウイルス感染症症例において赤血球を電子顕微鏡で観察したもの。正常の赤血球は円盤型で中央が凹んだ形態を示すが、金平糖様など、さまざまに変形した赤血球が多数見られている。)

(文献1)Matsuno T, Matsuura H, Fujii S, Suzuki R, Sugiura Y, Miura Y. Anti-Fya-mediated delayed hemolytic transfusion reaction following emergency-release red blood cell transfusion: possible involvement of HLA-DRB1*04:03 in the Japanese population. Int J Hematol. 2022;115(3):440–445. doi:10.1007/s12185-021-03242-3

(文献2)Matsuura H, Fujii S, Matsui Y, Sugiura Y, Akiyama H, Miura Y. An association between a positive direct antiglobulin test and HLA-DR12 in COVID-19. Ann Hematol. 2022;101(9):1959–1969. doi:10.1007/s00277-022-04921-9