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難治疾患細胞制御学寄附講座(神経再生治療部門Ⅰ)


寄附講座(部門)の概要

マウス脊髄損傷モデルに対するヒトiPS細胞由来ニューロン前駆細胞移植と軸索伸展促進剤の投与の有効性に関する検討

■課題
脊髄損傷は四肢麻痺や対麻痺などに至る重篤な外傷であり、その治療法の確立は極めて重要な課題です。しかしながら、脊髄損傷の治療として大きな効果を持つ治療法はこれまでに確立していません。脊髄損傷に於いては、脳からの信号を伝える伝導路となるニューロンの軸索の断裂が認められ、また、断裂した軸索は自然経過の中では再生しないことが知られています。損傷後の機能再生を促進させるためには、切断された軸索の再生を促すことが重要です。また、軸索再生の足場として、損傷部に於ける組織修復が全体的に成されることも重要であり、損傷部に適切な細胞を移植することがその一助となる可能性があると考えられます。

■課題解決に向けて

近年開発されたiPS細胞は、脊髄損傷のモデル動物に対する移植の有効性が既に報告されていますが、我々は、ヒトiPS細胞から誘導したニューロンを用いて、大規模な低分子化合物ライブラリーの中から、軸索を伸展させる効果が最も高い低分子化合物をスクリーニングによってpick upしました。また、pick upした軸索伸展効果が最も高い化合物を、ヒトiPS細胞から誘導したニューロンの前駆細胞と共に、免疫不全マウスの脊髄損傷モデル動物に投与し、これらの併用効果を検証する実験を行いました。
 その結果、ヒトiPS細胞由来ニューロン前駆細胞の移植に本化合物の投与を併用することにより、損傷後の軸索再生と運動機能の回復の更なる促進効果が認められました。

寄附講座(部門)責任者のコメント

藤田医科大学 医学部脊椎外科学講座
金子 慎二郎

中枢神経系に於いては、断裂した軸索は再生しないことが知られており、このことが、脊髄損傷に運動機能の改善が乏しい大きな理由の1つになっていると考えられています。従って、我々は、断裂した軸索を再生させる治療法を開発することが極めて重要であると考えており、そのためには、まず、中枢神経に於いては何故、断裂した軸索は再生しないのかという疑問に対する答えを導き出すことが重要であると考えております。一方、末梢神経系では、断裂した軸索は再生することが知られており、従って、中枢神経系と末梢神経系の違いを考えることが、その鍵となる可能性があります。大きく分けると2つの可能性があり、1つは、中枢神経系では軸索の再生を阻害する因子が存在するという可能性で、もう1つは、中枢神経系ではニューロンの軸索を再生させるための何らかのsignalの活性化機構が機能していないという可能性です。歴史的には、前者の可能性の方が多く研究され、軸索再生を阻害する因子の候補となる様々な分子などの働きを阻害することが、損傷後の軸索再生の促進に繋がるかという観点からの研究が、我々のグループを含む、世界中の多くの研究室で成されてきました。結果としては、これらのアプローチにより、損傷後の軸索再生のある程度の促進効果は認めたものの、その効果は限定的であり、運動機能の大きな改善に繋がるものではありませんでした。

そこで我々は、前述した2つの可能性のうち、後者の方に着目した研究を現在、行っており、将来的に、臨床の現場に、より効率的な形で還元される可能性が少しでも高くなるようなアプローチとして、大規模な低分子化合物ライブラリーの中から、軸索を伸展させる効果が最も高い低分子化合物をスクリーニングする実験を行いました。近年開発されたiPS細胞は、脊髄損傷のモデル動物に対する移植の有効性が既に報告されているため、我々は、ヒトiPS細胞から誘導したニューロンを用いたスクリーニングによって、大規模な低分子化合物ライブラリーの中から、軸索を伸展させる効果が最も高い低分子化合物をpick upしました。

その後、pick upした軸索伸展効果が最も高い化合物を、ヒトiPS細胞から誘導したニューロンの前駆細胞と共に、脊髄損傷モデル動物に投与し、これらの併用効果を検証する実験を行いました。その結果、ヒトiPS細胞由来ニューロン前駆細胞の移植に本化合物の投与を併用することにより、損傷後の軸索再生と運動機能の回復の更なる促進効果が認められました。

今後、上記の効果の機序の解明などに関して、更に研究を進めていく予定にしておりますが、上記の研究の遂行にあたり、研究資金などに関する御支援を頂きました関係者の方々に、厚く御礼申し上げます。