藤田保健衛生大学リハビリテーション部門の医師後期研修の概要 (2009.12版)
I. 目的と特徴
1)リハ医と藤田リハ:高齢者時代にあって、さまざまな生活上の問題、すなわち、「障害」の特性とそのリハビリを理解し治療に当たることは専門医として必須課題である。当科は、我が国でも数少ない独立したリハビリ医学講座であり、中部地区の代表的存在としてリハビリ医学・医療に関する積極的な臨床・研究・教育活動を行っている。特に、学内関連諸部署を横断的に統括した組織「藤田リハビリ部門」(構成員:医師、療法士など総勢300名)の中心として、活発で綿密なチームワークを展開し国内外から注目を浴びている。
2)研修場面:藤田保健衛生大学病院、藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院、藤田保健衛生大学七栗サナトリウム。3施設とも日本リハビリ医学会研修施設(専門医養成施設)。
●藤田保健衛生大学病院は総ベッド数1505床で中央診療科として多種多様の症例を診る。リハビリ科ベッドは15床、各地から集まる貴重な症例が経験できる。
●藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院は総ベッド数499床。リハビリ科は併科として対応。
●藤田保健衛生大学七栗サナトリウムは総ベッド数218床。リハビリ科ベッド数は140床前後。うち106床は回復期リハビリ病棟。有名なリハビリプログラムFIT (高強度・高密度リハビリ)が稼動している。
II. プログラム責任者
●才藤栄一:リハビリ医学 I 講座教授(大学病院副院長、日本リハビリ医学会理事、日本摂食・嚥下リハビリ学会理事長、全国PTOT学校連絡協議会会長、ジョンズホプキンス大学客員教授、日本リハビリ医学会専門医)
●園田 茂:リハビリ医学 II 講座教授(七栗サナトリウム病院長、七栗研究所長、全国回復期リハ病棟連絡協議会副会長、日本リハビリ医学会評議員、日本リハビリ医学会専門医)
III. 運営指導体制および指導医数
●3施設とも日本リハビリ医学会研修指定施設
●リハ科医師数と指導医数
藤田保健衛生大学リハ科医局員:52名
学内常勤リハ科医師:21名(内、専門医15名)
IV. 臨床実績
いずれの病院でも豊富なリハビリ症例を扱う。取扱患者数(2008年):初診4,050例、延べ234,500例
●藤田保健衛生大学病院:年間初診患者2,500例
神経疾患30%(脳卒中16%)、整形疾患20%、内科疾患15%、小児疾患5%、その他30%であり、多彩な患者例を急性期から亜急性期まで幅広く診ている。中央診療科としての治療の他、主科として常時10〜15名の患者を受け持っている。主科としての病床には特に歩行再建や嚥下障害の治療のために全国から患者が集まっている。
●藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院:年間初診患者950例
整形疾患50%、脳卒中15%、内科10%、外科10%、その他15%。中央診療科として地域密着型のリハビリを行っている。
●藤田保健衛生大学七栗サナトリウム:年間初診患者600例、年間入院患者500例
週10名のリハビリ入院患者を受け入れている。脳卒中80%の他、外傷性脳損傷、脊髄損傷、脊髄炎、関節リウマチ、整形外科手術後、ギラン・バレー症候群など。当院で開発したFull-time Integrated Treatment (FIT) programは、治療成績の高さで注目を浴びている回復期リハビリシステムである。
いずれの病院においても、脳卒中、脊髄損傷、外傷性脳損傷、摂食・嚥下障害、歩行障害など多岐の疾患・障害において最高水準の臨床と研究がなされている。リハビリ科専門医取得に必要な100症例は、疾患の種類、症例数、内容とも容易に経験できる。
V. 研修内容
●一般目標:
脳卒中患者、脊髄損傷患者などを指導医とともに主治医として、あるいは、併診医として受け持つ。
運動機能障害、認知機能障害のリハビリを知り、必要に応じて治療計画を立てて訓練処方を出せるようになる。
リハビリ的検査、手技を知る。
廃用症候群を理解し、各科の医療を行う際に、過剰な安静状態とならないように配慮できる。
以上、リハビリ医学をよく理解した臨床医となる基礎を習得すると同時に、将来、リハビリ専門医になるにあたって最良の臨床経験を積む。
臨床のみならず、研究・教育も奨励する。相乗効果で臨床能力が高まる。
大学院進学も積極的に勧めている。研修後の海外留学も勧めている。
●行動目標:
1)基本事項:リハビリに関連する職種名とその内容を知る。リハビリの問題点を機能障害、能力低下、社会的不利に分類する。安静の弊害を知る(廃用症候群)。運動学を知る(筋の作用、関節運動など)。運動学習を知る(各種療法の意味)。リハビリカンファレンスに出席し、チームアプローチを知る。脳卒中の運動麻痺、ADLの予後を知る。脊髄損傷の損傷高位と達成活動レベルとの関係を知る。リハビリを必要とする原疾患の医学的管理を行う。
2)評価:以下の評価方法を知り、実践する。面接技法。徒手筋力検査 (MMT)。関節可動域 (ROM)。中枢性麻痺 (Brunnstrom stage)。脳卒中機能評価法 SIAS (Stroke Impairment Assessment Set)。ADL (FIM: Functional Independence Measure)。標準失語症検査 (SLTA: Standard Language Test for Aphasia)。半側視空間無視検査。
3)訓練処方:歩行訓練、筋力増強訓練、関節可動域訓練、ADL訓練。装具・義足、車椅子、家屋改造立案。嚥下訓練、言語訓練、構音訓練。注意・記憶障害管理。物理療法。
4)対応・検査・治療手技:移乗・移動基本技術。神経伝導検査・筋電図・誘発電位。嚥下造影・嚥下内視鏡 。尿流動態検査・膀胱尿道造影。歩行分析、動作分析。神経・筋ブロック。頭部CT・MRIなど画像診断。
5)研究:リハビリ全般に渡る多彩な研究テーマがある。特に嚥下障害、トレッドミル歩行、装具、ロボット、動作分析、運動学習、脳卒中の障害構造、高次脳機能障害、障害モデル動物などについて最高の研究環境が整っている。日本リハビリ医学会、国際リハ医学会、その他のリハビリ関連への参加・発表が奨励されている。
6)教育:同医学部においては4年生のリハビリ系統講義、1年生のアーリーエクスポージャー、5年生のクリニカルクラークシップ、6年生のCM-E、CM-I、CM-IIなどで教育を行っている。その一部を担当する。藤田保健衛生大学医療科学部リハビリ学科の授業も受け持つ。他者に教える機会を通じ、自己知識を整理する。
VI. 研修日程
原則として1〜2年単位で複数の研修病院を経験する。大学病院の指導者と同等の指導者のいる関連病院を研修先に含める場合がある。
藤田保健衛生大学病院と藤田保健衛生大学七栗サナトリウムにおける研修中の週間予定を以下に示す。
●藤田保健衛生大学病院
毎日、病棟にて入院患者診察、新入院患者受け入れを行う。週1-2回、外来や訓練室当番を担当する。
月:午前 NCU回診、午後 検査(嚥下造影など)、夕方 嚥下カンファランス
火:午前・午後 訓練室、病棟で患者診察
水:早朝 抄読会、午後 回診、検査(筋電図など)、リハカンファレンス、夕方 検査ミーティング、症例検討会
木:午前・午後 訓練室、病棟で患者診察
金:午後 検査(嚥下造影、尿流動態検査など)
土:午前 訓練室、病棟で患者診察
●藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院
午前は診察室での診察が中心で、午後は往診が主である。また、筋電図検査、嚥下造影検査を午後中心に随時行う。
月:午前 外来診療、午後 検査など
火:午前 外来診療(装具診察)、午後 リハカンファレンス、隔週で脳外カンファレンス
水:午前 外来診療(装具診察)、午後 検査など
木:午前 外来診療、午後 検査など
金:午前 外来診療(装具診察)、検査など
土:午前 外来診療
●藤田保健衛生大学七栗サナトリウム
毎日、病棟にて入院患者診察、新入院患者受け入れを行う。外来を週1回程度担当する。
月:午後 NST (nutrition support team) ラウンド、2階病棟患者回診、月1回医局全体勉強会
火:午前または午後 院長回診、午後 全体カンファレンス、装具診察、リハビリ科連絡会・勉強会
水:午後 3階病棟患者回診
木:午後 検査(嚥下造影など)、嚥下カンファレンス、装具診察
金:午後 2階病棟患者回診
土:朝 新入院患者検討会・回診、午前 患者・家族教室
●研究会、研修会など
藤田リハ部門研修会(年10回程度)、七栗リハセミナー(年6回程度)、ADL(FIM)講習会(年1〜2回)、藤田リハ部門研究、リハ医学会動作解析実習研修会(MAAK)(年1回)、藤田リハ関連施設臨床研究会(FRCRC)(年1回)、藤田リハ部門研究カンファレンス(FRRC)(年1回)、など多数の研究会、研修会を主催している。
●海外研究者との交流
年数名の海外研究者が来室し、意見交換する。
VII. 評価法
基本的には、出席、研修意欲、研修態度、患者さんへの態度、チームにおける態度、医学的知識などを加味して総合評価する。主任教授、指導医と面談の上、自己評価も行う。また、研修医からみた指導医評価を取り入れる。