新型コロナウイルス感染症患者血清中の抗体解析の結果、 受容体結合ドメイン(RBD)に対するIgG抗体の測定が 中和活性を最もよく表すことを明らかにしました
本学の大学院保健学研究科 藤垣英嗣講師、齋藤邦明教授、医学部感染症科 稲葉正人講師、土井洋平教授らの研究グループは、国立感染症研究所、富士フイルム和光純薬株式会社、富士フイルム株式会社との共同研究により、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染により血液中に出現する抗体の種類について詳細な解析を行いました。この結果、過去の感染の指標として用いられる抗体検査は、測定する抗体の種類によって結果が異なることを明らかにしました。また、ウイルスの受容体結合ドメイン(Receptor Binding Domain:RBD)※1に対するIgG抗体が中和活性※2を最もよく反映することを明らかにしました。これらの成果は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗体検査のあり方を議論する上での重要な情報になります。
本研究成果は、米国免疫学会雑誌「The Journal of Immunology」(5月15日号)に発表されました。また、それに先駆けオンライン版が5月3日に公開されています。
図1.SARS-CoV-2ウイルスの構造とヒトの抗体の模式図
このように新型コロナウイルスに対する抗体にはいくつも種類があります。そこで、我々は41人のCOVID-19患者血液中の15種類の抗体価を測定しました。その結果、ほぼ全ての抗体は発症してから約14日後に検出されますが、N蛋白質に対する抗体と比較して、S蛋白質に対する抗体を測定するほうが過去の感染の指標として優れていることを明らかにしました。
さらに、どの抗体が最もよく中和活性と相関するかを調べるために、中和活性試験を行いました。その結果、RBDに対するIgG抗体が中和活性と最も良く相関することを明らかにしました。
また、今回の研究でRBDに対するIgG抗体が中和活性を最もよく表すことを明らかにしました。現在、日本では新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいます。ワクチンは、RBDを含むS蛋白質あるいはRBDそのものに対する免疫ができるように作られています。現在、ワクチン接種者の血中抗体の測定を行っており、RBDに対するIgG抗体測定は、ワクチン接種による感染防止効果を調べるための指標として用いることができるかを評価しています。
吉田 幸弘、櫓 曜、小山田 孝嘉、竹村 正男、土井 洋平、齋藤 邦明
本研究成果は、米国免疫学会雑誌「The Journal of Immunology」(5月15日号)に発表されました。また、それに先駆けオンライン版が5月3日に公開されています。
研究成果のポイント
- 過去の感染の指標として用いられる抗体検査は、測定する抗体の種類で結果が異なることを証明
- RBDに対するIgG抗体価は、ウイルスの中和活性を最もよく表すことを証明
背景
現在、COVID-19に関連する検査として、血液中の抗体を検出する抗体検査を自費診療で受けることができます。新型コロナウイルスに感染して一定の期間が経過すると、ほとんどの人の体内でウイルスに対する抗体が作られます。そのため、血液中の新型コロナウイルスに対する抗体を検出する抗体検査は、その人が過去に感染していたかどうかを調べる検査として使用されています。しかし、新型コロナウイルスに感染してできる抗体は1種類というわけではなく、ウイルスの様々な部位に対する抗体が産生されます。また、同じ部位に対する抗体にもいくかの種類(アイソタイプ※3)があり(図1)、これらのどの抗体を検出するのが新型コロナウイルスの過去の感染の指標として適しているのかは詳細には解析されていませんでした。また、どの抗体がウイルスの感染を阻害する中和活性を持つのかはよく分かっていませんでした。図1.SARS-CoV-2ウイルスの構造とヒトの抗体の模式図
研究手法・研究成果
新型コロナウイルスの構造は主に4つの部位で構成されており、COVID-19患者の血液中には主にスパイク(S)蛋白質とヌクレオカプシド(N)蛋白質に対する抗体が産生されます。S蛋白質の中にはS1と呼ばれる領域があり、ウイルスはS1の中の受容体結合ドメイン(Receptor Binding Domain: RBD)を使って細胞に侵入すると考えられています。COVID-19患者血液中には、これらの部位に対するいろいろな抗体が産生されます。また、同じ部位に対する抗体にもIgG、IgM、IgAなどの種類があり、これを抗体のアイソタイプといいます。このように新型コロナウイルスに対する抗体にはいくつも種類があります。そこで、我々は41人のCOVID-19患者血液中の15種類の抗体価を測定しました。その結果、ほぼ全ての抗体は発症してから約14日後に検出されますが、N蛋白質に対する抗体と比較して、S蛋白質に対する抗体を測定するほうが過去の感染の指標として優れていることを明らかにしました。
さらに、どの抗体が最もよく中和活性と相関するかを調べるために、中和活性試験を行いました。その結果、RBDに対するIgG抗体が中和活性と最も良く相関することを明らかにしました。
今後の展開
現在、日本国内では様々な抗体検査キットが流通しており、自費診療で抗体検査を受けることができます。しかし、抗体検査キットの中には、どのような抗体を測定しているのかが不明確なキットもあります。また、しっかりと評価されないまま使われているキットもあり、抗体検査を受ける際には注意が必要です。今回の研究で明らかにしたように、抗体検査の結果はどの抗体を検出するかで異なることから、抗体検査キットはどの抗体を測定しているのかが明確でしっかりと評価されたものを使用することが重要です。また、今回の研究でRBDに対するIgG抗体が中和活性を最もよく表すことを明らかにしました。現在、日本では新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいます。ワクチンは、RBDを含むS蛋白質あるいはRBDそのものに対する免疫ができるように作られています。現在、ワクチン接種者の血中抗体の測定を行っており、RBDに対するIgG抗体測定は、ワクチン接種による感染防止効果を調べるための指標として用いることができるかを評価しています。
用語解説
※1 受容体結合ドメイン(Receptor Binding Domain: RBD)
新型コロナウイルスがヒトの細胞の中に侵入する際に必要な部分。ウイルスはRBDを介して細胞の表面にある受容体(ACE2)に結合すると考えられています。※2 中和活性
ウイルスの感染や増殖を阻害する抗体を中和抗体といい、その作用を中和活性といいます。※3 アイソタイプ
抗体は構造の違いによっていくつかの種類に分けることができ、この種類のことをアイソタイプといいます。ヒトはIgG, IgM, IgA, IgD, IgEの5種類のアイソタイプがあります。謝辞
本研究の一部は、AMEDの課題番号JP19fk0108110とJP19fk0108150の支援を受けました。文献情報
雑誌名
「The Journal of Immunology」(May 15, 2021, 206 (10) 2393-2401)論文タイトル
Comparative analysis of antigen-specific anti-SARS-CoV-2 antibody isotypes in COVID-19 patients著者
藤垣 英嗣、稲葉 正人、大澤 道子、森山 彩野、高橋 宜聖、鈴木 忠樹、山瀬 堅也、吉田 幸弘、櫓 曜、小山田 孝嘉、竹村 正男、土井 洋平、齋藤 邦明