医薬安発第69号
平成10年6月30日
各都道府県衛生主管部(局)長 殿
厚生省医薬安全局安全対策課長
標記について、高齢化社会の進行、在宅医療の普及に伴い、患者の居宅におけるエックス線撮影の必要性が高まっていることから、今後、医療法施行規則第30条の14(使用場所の制限)において定めるエックス線装置がエックス線診療室以外で使用できる場合のうち、「特別の理由により移動して使用する」場所に、患者の居宅を含めることとしたので通知するものである。
なお、エックス線撮影装置を患者の居宅において使用する際には、「在宅医療におけるエックス線撮影装置の安全な使用について」(別添)を参考に、安全性に考慮して実施されるよう関係者への周知徹底方よろしくお願いする。
2 在宅医療におけるエックス線撮影の適用
(1)対象患者
適切な診療を行うためにエックス線撮影が必要であると医師(歯科医師を含む。以下同様)が認めた場合
(エックス線診療室における撮影の方が、撮影から得られる情報の質の面、また、安全性の面からも望ましいことに留意すること。)
(2)撮影の部位
適切な診療を行うために、必要であると医師が認めた部位
(3)撮影方法
エックス線撮影のみとし、透視は行わないこと
3 在宅医療におけるエックス線撮影時の防護
(1)エックス線撮影に関する説明
エックス線撮影を行う際には、患者、家族及び介護者に対し、個々のエックス線撮影状況に応じて、以下の内容について、分かりやすく説明を行う必要がある。
ア 臨床上のの判断から居宅におけるエックス線撮影が必要であること
イ 放射線防護と安全に十分に配慮がなされていること
ウ また、安全確保のため、医師又は診療放射線技師の指示に従うべきこと
(2)エックス線撮影時の防護
@医療従事者の防護
ア エックス線撮影装置を直接操作する医師又は診療放射線技師は、放射線診療従事者として登録し、個人被曝線量計を着用すること。
イ 医療従事者が頻繁に患者の撮影時に身体を支える場合には、放射線診療従事者として登録し、個人被曝線量計を着用すること。
ウ 操作者は、0.25ミリメートル鉛当量以上の防護衣を着用する等、防護に配慮すること
エ 操作者は、介助する医療従事者がエックス線撮影時に、患者の身体を支える場合には、0.25ミリメートル鉛当量以上の防護衣・防護手袋を着用させること
オ エックス線撮影に必要な医療従事者以外は、エックス線撮影管容器及び患者から2メートル以上離れて、エックス線撮影撮影が終了するまで待機すること。また、2メートル以上離れることが出来ない場合には、防護衣(0.25ミリメートル鉛当量以上)等で、防護措置を講ずること
A 家族・介護者及び公衆の防護
ア 患者の家族、介護者及び訪問者は、エックス線管容器及び患者から2メートル以上離れて、エックス線撮影が終了するまで待機させること。特に、子供及び妊婦は2メートル以上の距離のある場所に移動すること。
また、2メートル以上離れることが出来ない場合には、防護衣(0.25ミリメートル鉛当量以上)等で、防護措置を講ずること。
イ 患者の家族及び介護者がエックス線撮影時に患者の身体を支える場合には、0.25ミリメートル鉛当量以上の防護衣・防護手袋を着用させること。
B 歯料ロ内法エックス線撮影における防護
歯科用エックス線装置を用いる歯科口内法エックス線撮影における防護は、基本的に一般エックス線撮影時の防護と同様に行えばよい。なお、歯科口内法エックス線撮影については、歯科領域における一般エックス線撮影と比較して、照射方向が多様となるなどの特殊性がある。また、在宅医療における歯科口内法エックス線撮影は、患者によってはフィルムの保持が困難な場合も想定される。このような歯科口内法エックス線撮影の特殊性に鑑みて、上記の@、Aの防護策に加えて、以下の点に留意する必要がある。
ア 照射方向の設定に十分に留意し、確認すること。
イ 照射筒を皮膚面から離さないようにし、照射野の直径は8センチメートルを超えないこと。
ウ 原則として、フィルム保持と照射方向を支持する補助具(インジケータ)を使用すること
(3)エックス線撮影装置の保守・管理
エックス線撮影装置の保守・管理や器材の選択は、被曝低減のみならず、良質のエックス線写真を得るためにも重要であるので、定期的にエックス線撮影装置の安全や性能が維持できているのか点検を行うことが望ましい。また、診療に適したスクリーン、フィルム、イメージングプレート等を選択し、適正な撮影及び現像処理が行われるよう注意すること。
事務連絡
平成10年6月30日
各都道府県衛生主管部(局)医務主管長 殿
厚生省医薬安全局安全対策課
標記について、平成10年6月30日付けで通知したところですが、指針の周知徹底にあたって参考とされるよう、指針の作成にあたって参考といたしました「在宅医療におけるエックス線装置の利用と防護の問題点に関する研究」(主任研究者:古賀佑彦 藤田保健衛生大学教授、分担研究者:菊地 透 自治医科大学RIセンター)の研究報告書の関係部分の概要を添付いたします。
「在宅医療におけるエックス線装置の利用と防護の問題点に関する研究」
(主任研究者:古賀佑彦 藤田保健衛生大学教授、分担研究者:菊地透 自治医科大学RIセンター主任)
<在宅医療におけるエックス線撮影時の防護に関する検討の概要(エックス線撮影時の防護に関連する技術的検討)>
1.患者及びエックス線装置からの距離と放射線の影響に関する検討
エックス線撮影時に発生する室内周辺における放射線量は、患者からの散乱線とエックス線管球容器からの漏洩線量の合計である。この場合における室内放射線量は、患者の照射野及びエックス線装置からそれぞれの距離が離れるにしたがって、各々の距離の逆二乗則で放射線量は減少される。
今回、在宅医療で使用されている携帯型エックス線撮影時の室内周辺における放射線線量とその分布を測定した結果(鈴木*、草間*2、加藤*3、小倉*4らのデータ)によれば、患者及びエックス線装置から2メートルの距離では、胸部撮影で0.2μSv以下、腹部撮影で1μSv以下となる。また、胸部撮影では、1メートルの距離では1μSv以下となるため、1.5メートルの距離でも十分に1μSv以下が保証される。
なお、歯科撮影においては、島野、砂屋敷らのデータではさらにこの線量の1/10程度であり、2メートル離れた場所は全く関係ない。
患者が在宅においてエックス線撮影を頻繁に行う状況は考えにくいが、高い頻度を想定して1ヶ月1回程度であるとすると、患者及びエックス線装置から2メートル離れている患者の家族が被ばくする推定被ばくは、最大でも1年間に10μSv程度である。この値は、公衆(妊婦、子供も含む)の線量限度の1/100であり、実際には1年間12回の撮影全て2メートルの場所に居る可能性は少ないので、さらにこの値よりも少ないと考えられる。また、患者家族以外の―般公衆では、2メートルの距離に近づくことはないため、公衆の線量限度の1/1000以下の被ばく線量となると考えられる.
なお、ICRP Publ.33においても移動武装置で撮影をする場合は、エックス管および患者から2メートル離れることを勧告しているが、今回の研究結果からも、同様の基準で十分安全であることがわかった。
2.直接線束による影響に関する検討
エックス線装置からの直接線による周辺(室外)の影響は、コンクリ―ト住宅の場合は、壁・床材のコンクリート厚が通常10センチメートル以上あれば、1/1000以下に減衰するので全く影響はない。
木造住宅の2階で下向きに撮影した場合の、1階の住人に対するエックス線の直接線束による影響を検討した鈴木ら*の測定では、直接線束の延長線上の階下の線量は、1階床上150センチメートルの高さで5μSvであり、100センチメートルの位置で感知できなかった、通常は、照射野をフイルムカセッテ内に適切に絞ることで、カセッテの遮へいにより階下における線量は1μSv以下になると考えられる。また、照射野を絞ることのできない機器であっても、防護シートを引く等の措置を行えば問題はないと考えられるが、できる限り適切に照射を絞ることができる機器を選択し、適切なフィルム、イメージングプレ一トを選択し用いることが重要である。
参考文献
1)鈴木昇一他:在宅における医療被曝の研究、医科器械学 66,469―474,1996
2)草間朋子他:在宅医療における携帯型X線装置の利用に関する考察、日本医事新報 No.3820,73―76,1997
3)加藤秀幸:日本放射線技術学会54回総会1998.4(発表抄録―日本放射線技術学会雑誌掲載予定)
4)小倉泉他:ポータプルX線撮影における散乱線量分布について、日本放射線技術学 会東京部会雑誌3l,73-79,1989