近年、 画像診断的手法を治療手段として用いるInterventional Radiology ( IVR ) が盛んに行われるようになった。 この方法では手術のような大きい侵襲なしに所期の目的を達成できるが、 X線透視下にカテーテル等の先端を病巣に誘導する操作を行うので、 患者および術者は必然的に相当量の線量を被ばくすることになる。 そのためにとくに患者には、 脱毛とか放射線皮膚障害といった確定的影響が発生するおそれがある。 米国のFDAではすでに1994年9月にこの問題に関して警告を発している1)。
平成7年3月22日
日本医学放射線学会放射線防護委員会
(日本医学放射線学会雑誌第 55巻第5号、 p367-368 (1995)
わが国においても、 潰瘍成形に至った例およびかなりの数に脱毛例があることが委員会な報告された。 最近、 Kuwayamaら2)は、 頭部のIVRを施行した15例中2例に脱毛が発生したとしており、 TLDを用いた測定でその際の皮膚70μm線量当量は5,000 mSvを超えたと報告している。 もし繰り返して同一部位の透視を行えば、 局所の皮膚の潰瘍形成に至る可能性がある。
本委員会は、 このような実態をできるだけ多くの医療関係者が認識することが重要であり、 さらに可能ながぎり被ばく線量の低減策をとる必要があると考える。IVRは治療が目的であるので、 仮に確定的影響が発現したとしても行為が正当化される状況はあるかもしれない。 しかし、 防護の最適化の原則はこのような状況にも適用されるので、 透視時間の短縮、 パルス状の照射、 適切な付加フィルターの使用など診療技術および装置の改善などにより、 より少ない線量で同一の効果を上げる工夫をするべきである。
患者の被ばくが大きいと、 患者の側に立つ術者のうける散乱線量も大きくなる。わが国の医療に関する平均職業被ばくは年々わずかであるが減少傾向にあるのに、 医療のみ線量が漸増しつつあるのは、 IVR等の透視を伴う処置の増加が寄与していると考えられている。 職業上の被ばくに関する線量限度は、 現行の年間50 mSvから20mSvに早晩切り下げられることが予想される3)。 委員会は、 患者被ばくの低減策に加えて、 適切な遮蔽の利用、 適切な操作手技等によって術者の被ばくも低減をはかる必要があることを指摘したい。
委 員 長 古賀 佑彦
担当理事 佐々木 康人
委 員 石垣 武男、 入船 寅二、 岩波 茂
金子 昌生、 日下部 きよ子、 草間 朋子
酒井 邦夫、 佐々木 武仁、 高山 誠、
平松 慶博、 藤岡 睦久、 町田 喜久男